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会社をソフトウェアに見立て社内制度を毎週デプロイ、ゆめみが目指すアジャイル組織とは【デブサミ2019夏】

【C-5】アジャイル組織の作り方教えます

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2019/08/19 12:00

 激変する社会に呼応し、組織もまた柔軟に変化することが求められている。モバイルにおけるリーディングカンパニーとして創業19年を迎えた株式会社ゆめみもまた、変化に対応しうる組織を目指して変革を続けてきたという。「全員CEO制度」や「有給取り放題制度」「給与の自己決定制度」など、ユニークな制度が目立ち、話題になることが多いが、その背景にはどのような考えがあるのか。株式会社ゆめみ 代表取締役の片岡俊行氏が、柔軟に変化する「アジャイル組織」の在り方、作り方について語った。

株式会社ゆめみ 代表取締役 片岡俊行氏
株式会社ゆめみ 代表取締役 片岡俊行氏

1000人規模の組織を目指して、試行錯誤を続ける

 代表取締役である片岡氏が学生時代に創業した株式会社ゆめみ。組織マネジメントの知識も持たず、当初は試行錯誤が続いていたが、来年創業20年を迎える現在、多くの顧客企業を擁し、月間5000万ユーザーのサービス・インフラを構築・運営するまでに成長を遂げてきた。現在、さらに月間1億ユーザー規模の利用を支えるための組織改革を進行中だという。

 目標に至るには、今の200人ほどのメンバー数から1000人規模の組織になることが不可欠。しかし、現在の仕組みでは、階層が深くなって硬直化し、ゆめみが顧客企業から評価されている「クオリティ(品質)」と「アジリティ(迅速性)」を担保することが難しくなると考えたという。そこで組織の骨格自体を再設計しなければならないという課題感のもと、2018年10月に「今日からアジャイル組織にします!」と宣言することとなった。

 「『全員CEO制度』や『有給取り放題制度』『給与は自己決定』など、大胆な制度を打ち出したが、一見するとカオスな状態であった。しかし、周辺環境が既にカオスであり、その外部環境が予測できないことを認識すべき。そして、予測できる部分とできない部分を見極め、予測できない部分に関しては秩序を保ちながら対応していくことが重要と考えた」(片岡氏)

 「混沌の中で適応する」ためには、カオスの中にあっても「原則を守ることが重要」である。片岡氏は魚や鳥の群れを例としてあげ、「誰かが命令しなくても適応するアルゴリズムがあれば自然と変化に対応できるはず」と語った。その原則とは、「自律」「分散」「協調」という、いわばインターネットの原則ともいわれるごく基本的なものだ。それを組織にも適応し、秩序を保つことによって混沌とした予測できない環境においても組織が自己設計され、結果として適応していく。これを「アジャイル組織」と定義している。

鳥の振る舞いをシミュレーションしたボイドアルゴリズム
鳥の振る舞いをシミュレーションしたボイドアルゴリズム

注目される「フラットな組織」における改革ポイント

 現在のカオス化しつつある社会環境は、不安定(Volatility)、不確実(Uncertainty)、複雑(Complexity)、曖昧(Ambiguity)の頭文字をとって「VUCAワールド」とよばれている。その時代に対応するべく、オランダの銀行であるINGや、日本においてはアクサ生命などがいち早く「アジャイル組織」に変革を遂げている。いずれもSpotifyのスケーリングアジャイルやZapposのホラクラシーを参考にしたといわれているが、いずれも企業ごとのビジネス要求に従った組織設計となっていることは明らかだ。

 ゆめみも自身のビジネス要求に従い、組織改革を行ってきたが、「まさに受難と変革の歴史だった」と片岡氏は振り返る。創業からの構築期には従来の経営管理システムを真面目に実施していたが、2011年に大障害を起こしたことをきっかけに、品質とアジリティの両立が重要であると認識するようになったという。

 「品質とアジリティを両立させるプロジェクトマネジメントというのが実に大変だった。部長1人でプロジェクトとメンバーと売り上げをすべて管理し、責任を持つという状況で、誰もが疲弊してバタバタと倒れ、3人も続いて部長を辞めることになった。そこでやはり組織を変えなければということに気づき、マネジメントの役割分散を2014年に行った」(片岡氏)

 しかし、前述したようにゆめみが目指すのは1000人規模の組織体だ。それを運営管理していくためには、役割だけでなく権限も分散した自己組織化を実現することが必要と考えた。その上で、片岡氏は組織改革のポイントを3つ提示した。

 1つめは「階層型が悪いわけではない」。上位の目的を手段として階層的・連鎖的に業務範囲や責務を分解することで、人間が理解しやすくなる。結果、複雑なコミュニケーションが不要になるというメリットがある。

 2つめは「フラット型組織が存在するわけではない」。人数が少ないうちは階層化せずとも成り立つかもしれないが、人数が多くなると責任者にコミュニケーションが集中してしまい、疲弊してしまう。階層化された責務文化の中でできるだけ階層を少なくしていくという手法であり、完全にはフラットにはならない。一つの手法であり、暫定的といえる。

 3つめが「責任者に負担が集中する問題は解決されない」。責務分解された組織の中では権限構造は「入れ子構造」になっている。それゆえ、自分の権限を越えた部分に関しては、エスカレーションして上位の承認を仰ぐことになる。その時、階層が多くなると、現場を知らない人が承認することになり、権限を委譲したとしても責任者に負担が集中することは避けられない。

 さらに権限委譲の難しさとして、片岡氏は2つのパターンを紹介した。まず「完全権限委譲」については、口出しをしにくくなる反面、任せられる側は失敗のプレッシャーが大きくなるというデメリットがある。また、「権限委譲の後に報告義務を保つ場合」は、権威と呼ばれる暗黙的な圧力を感じ、適切な関係性が維持できない。

 つまり、組織構造を変える、権限委譲をするという考えに囚われている限り、責任者に承認が集中する問題は解決しないというわけだ。

チームを「我々」とみなし、自律的組織をつくる

 それでは、どうしたら「アジャイル組織」をつくることができるのか。前述した「自律」「分散」「協調」がヒントになる。

 まず「自律」とは、個・チーム・組織が自然の法則に逆らわず、自ら適応的な振る舞いをすることを意味する。そこで、ここでは「組織はその組織の構造そっくりのシステム構造で設計する」という「コンウェイの法則」の逆を行き、「システム構造そっくりの組織構造をつくる」アプローチで望んだという。

 なお自律とは「自分が相手をコントロールできない」が「自分は自分をコントロールできる」状態だ。それなら「相手として捉えず、『私達』として認識することでコントロールする」ことができるだろう。ただし、自律的だからといって、環境の変化に合わせて適応的であるとは限らない。カオスな環境下で人が適応的に振る舞っていても、必ずしもチームや組織まで適応的に振る舞えないことが多いからだ。

 どうしたら組織が自律的に、適応的に行動できるようになるのか。そこには意思決定プロセスが大きく関与するという。そこでゆめみでは、「ティール組織」の中から「助言プロセス」を採用している。それによると、誰もがどのような意思決定でも行うことができるが、その前に「深く影響があるすべての関係者」「その分野の専門家」に助言を受ける必要がある。

 この「助言プロセス」は、トップダウンとコンセンサスの真ん中にあり、両方の利点を取り入れた優れた意思決定プロセスで、シンプルに運用しやすい。さらに運用しやすくするように「プロリク(プロポーザルレビューリクエスト)」という仕組みを設けているという。

 「プロリク」では、すべての意思決定を実施することが決められており、一方的に否決されることはない。そして、全メンバーが代表取締役権限を持ち、ここでの意思決定プロセスで全社が動くことになるという。つまり、会社をソフトウェアとして見立て、責務に従って責任分解し、それぞれマイクロサービスでチームを作り、意思決定し、全体を作っていこうというわけだ。

プロリクのフロー
プロリクのフロー

 たとえば、全社員に関係のある人事や会社移転などについては、Slackなどで全社員にプロポーザルのレビュー依頼が飛び、レビューを受けて修正したものが正式に決定し、社内Wikiにルールが規定され、周知され、リリースされる。

 そうやってプロリクを利用して大胆な制度が次々とリリースされており、2019年3~4月の間に、採用事務のアウトソーシングやR&D予算確保最大1億円、大阪本社の移転などが決定した。その他全社サービスについてデプロイは1週間に4~5回、定期リリースは1週間に1回と頻繁に行われ、アジャイル的に変化し続けているという。

スコープに対するダブルリンキングで権限分散を実現

 次に「分散」について、「自律を損なう要因としてコミュニケーションの複雑化や役割の重複、意見の衝突がある。それらを防ぐために、分散・分担を行う。つまりは結果として自律的であるために分散していく必要がある」と片岡氏は語る。

 ゆめみでは、上位目的を達成する手段として階層的・連鎖的に職務分解しており、その責務を遂行するための単位を「チーム」と呼び、その責任範囲を「スコープ」と呼んでいる。スコープに対しての遂行責任を負うものを「コミッター」とし、その自律を支援する「コントリビューター」とともにチームが構成される。なお、コントリビューターにはコミット権限を持たない。

 会社は責務分解されており、あらゆる業務がマイクロサービスのように分けられ、階層的に分けられている。チームの定義記述は社内Wikiで管理されており、どういう上位の目的のもとそのチームが存在するのかがストーリーという形で示され、業務範囲とともに、誰がコミッターか、コントリビューターかが役割とともにわかるようになっている。

 一般組織では、たとえばマーケティング部の部長が広報課の課長に権限委譲し、報告をさせるという形態が多いが、それでは何かと干渉や忖度が起きたり、逆に情報共有がなされなかったり、部長と課長の距離感が影響することが多い。

 そこで発明したのが「二重連結ピン(ダブルリンキング)」という方法だ。親チームのコミッターは子チームのコミッターになれず、逆も同様という制約のもと、あくまでコントリビューターとしての意見を提供するだけになる。そうすることで、それぞれのチームの自律性を担保しようというわけだ。

 他にもチームメンバーの数については、状況やスクラムが浸透度などで9~10名でも生産性が落ちないこともあるが、適正なコミュニケーションの密度を鑑みて7名を限界にしている。また、目標を期限内に達成する活動をプロジェクトと定義した場合、通常ではプロジェクトマネージャーがメンバーを決定していくが、ゆめみではプロジェクトをスコープ対象としているチームのコミッターに依頼をし、チーム内でメンバー編成を決定する方式としている。

 ここでSpotifyの「Scaling Agile」が紹介された。プロジェクトを遂行するチームをSquad(分隊)とし、プロダクトオーナーがいて作業の優先順位を決めたり、ビジネス価値や技術的解決を考慮したりするようになっている。このSquadが複数集まったのがTribeとよばれる上位チームであり、トライブリードと呼ばれるリーダーが全体最適を担う。そしてユニークなのがチャプターリードと呼ばれる特定の職能・技術領域(Chapter)におけるラインマネージャーだ。開発や人的マネジメントに責任を持つ。

 こうしたマトリクス構造では、役割分担が可能になり、負荷が集中しないというメリットの反面、人事評価やマネジメント担当の採用が難しくなる、プロジェクト間の異動が行いにくくなるなどのデメリットもある。そこで、ゆめみではかつてのマトリクス構造から、プロジェクト型と機能型組織の2つに分けている。

 「プロジェクトに所属しているメンバーがプロジェクトがなくなると帰属意識が醸成できなくなる。Tribeがプロジェクト間、部署間の壁のようなものを生み出しがちだった。また、Spotifyモデルは、会社組織全体に適用するのは難しかった」と片岡氏はその理由をあげた。結果としてより柔軟な組織設計となり、すべてがアジャイルチームになったという。

ゆめみが採用したアジャイルチーム
ゆめみが採用したアジャイルチーム

 また、役割設計も柔軟にできるようになっており、メンバーは自身の意思決定でプロジェクトと機能型グループのチームのそれぞれを選択することができ、柔軟にキャリア設計を描くことができる。また、福利厚生チームのプロジェクトなど、開発以外のチームに関わることも可能だ。「ワンクリック部署異動」としてSlackにジョインするだけでチーム異動することもでき、プロリクでチームを作るなどチームを自己設計できることも柔軟な組織づくりに貢献しているという。

協調するチームのフラクタル化で全体組織を構成する

 そして、最後の「協調」について、全体最適の役割を担うチームが紹介された。プロジェクトの中でチームが増えてくると方向性がずれてくる。それを修正し、チームの集まりに対して全体最適な役割にコミットするチームを「リードチーム」と明示化したという。

 それらはフラクタル構造を描くように設計されている。つまり、チームの中はリード役のコミッターとコントリビューターがいて協調し、チームが集まったチームの中には同じくリード役のコミッターとしてのチームとコントリビューターとしてのチームが存在して協調する。さらには、プロジェクトチームに対しても、デザインやテックなどのリードチームが後方支援を行い、さらにはその事業チーム全体を「委員会組織」と呼ばれるチームが採用や教育、広報などの機能を持って支援する形になっている。

フラクタル構造の組織
フラクタル構造の組織

 片岡氏は「ミクロな視点で言えば、一人の頭の中でも行われている」と語り、「経験や理性と直感という役割がそれぞれコミッターとコントリビューターとして存在し、それぞれプロポーザルとレビューを繰り返しているといえる。そうした判断をミクロからよりマクロへと広げることで、自律的ながら協調できる組織へと成長させることができる」と説明した。

 こうした組織で、さらには代表権限すら誰にでも持てるとなれば、不安を感じる人もいるだろう。そこで、「二重のメンバーシップ設計」により社員契約に加えて「メンバーオプション契約」を設け、そこにプロリクによる意思決定権限などの様々なサービスを利用することができるようにしている。さらに禁止行為が定められており、守れなかった場合には社員が他の社員に対してイエローカードを発行することができ、2枚付与されるとメンバーオプション契約が解約されるという仕組みだ。イエローカードの対象禁止行為としては、「勤怠ルールを守らない」「SNSなどでのブランド毀損」「イエローカード乱用」などがある。

 これまで様々な方法が紹介されたが、片岡氏は「やはり考え方が大事」と語る。

 「ゆめみの組織づくりにおいてはアートとデザインとエンジニアリングを重要と考えているものの、文化が異なるためなかなか共存が難しかった。アート的に直感と感性で最適な行動を取れる人、デザイン的に可視化されたら真似して最適な行動を取ることができる人がいる一方、理屈やルールがないと動けない人がいる。しかし、理屈に基づいたルールを決めるルール『プロリク』によって、理屈やルールに基づいて大胆に行動でき、さらには感情に左右されずに原則に従って行動できる様になれば、一人ひとりが大胆に可能性を発揮できるのではないか」(片岡氏)

 これまでは会社の経営層や管理職が組織を作ってきた。ゲームとして例えれば、社員は「面白くないゲーム」をやらされてきたに等しい。しかし、ルールブックを持つことによって、ゲームマスターとしてゲームシステムを創っていくことができる。相手を操作することはできないが、同じチームと捉えてチームのルールをプロリクすることで、同じチームのコミッターを操作できるというわけだ

フィードバックなき単独適応が今後の課題

 なお、現在のゆめみの課題としては、チーム内の自律・分散・協調が実現したとしても、必ずしも他のチームから見たら適応的ではないことがあることだという。他のチームからのフィードバックがないことが理由だが、他にも問題があると思われる。現在はこの課題を解決することに専心している。

 最後に片岡氏は、「アジャイル組織の作り方のまとめ」として次の9つをあげた。

  • 責務の階層化は必須
  • 助言プロセス(プロリク)最強
  • 権限委譲を行っても権威の無効化はできないので、ダブルリンキングのような制約が必要
  • チームの自己設計(新設・分割・合併)のルール化が肝
  • 緩やかなチーム所属を本人希望でできるとベター
  • 完全自律には支援が必要、コントリビューターが不可欠
  • 協調のフラクタル構造がスケール的には大事
  • 自律と適応力は異なる
  • 単独適応を行えるようにするのが今後の課題

 そして、片岡氏は最後に「カオスエンジニアリングなアプローチで組織を混乱させつつも、改善していきながらノウハウを蓄積し、組織自体が対応できるような環境を作りつつある。会社自体をソフトウェアと捉えていくなら、今後は外部のコミッターやコントリビューターと協業することも考えられる」と語り、「ぜひ、共感いただける方々とともに新しい組織のあり方を考えられたらと思う」と会場に語りかけ、セッションを終えた。

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