超高速CMS実行環境「KUSANAGI」とは? 高速化実現の裏側
プライム・ストラテジーがオープンソースライセンスで提供する「KUSANAGI」は、超高速CMS実行環境である。稼働開始4年で累計3万台を突破している。
KUSANAGIの最大の特長は、高パフォーマンス(高速+安定)を提供すること。どのくらい高速化が実現するかというと、「例えばWordPressの標準のLAMP環境と比べ、ページキャッシュ使用時には数千倍の高速化を実現します。ページキャッシュ非使用時でも10倍~15倍の高速化を実現します」とプライム・ストラテジー代表取締役の中村けん牛氏は語る。
しかも企業や大学などのエンタープライズ環境で必須になるセキュリティ機能もほぼすべて標準で実装されているという。
Webサイト表示の高速化は、クライアント端末から送られるHTTPリクエストからHTTPレンダリングまでの一つ一つの処理を丁寧に最適化・高速化することで実現する。
一方、Webページの表示速度計測ツールとして一般的に使われるGoogleの「PageSpeed Insights」では、通信からI/Oまでのバックエンドと通信、ファーストビューレンダリングと大きく3つのステップに分かれており、この3つのステップのうち、KUSANAGIが高速化に注力しているのは主にバックエンドである。
「バックエンドを高速化しても、100点満点のうち一部しかないので、あまり効果がないのでは」と思うかもしれない。だが中村氏は「今後5Gなど、通信帯域が大きくなればなるほど通信部分は差がつかなくなり、バックエンド側の比重が大きくなっていく。今後、KUSANAGIの機能がより重視されていくはず」と断じる。事実、バックエンドの処理に2~3秒かかってしまっているWebサイトがあるからだ。
ファーストビューを高速化する「WEXAL」、人材不足による実装課題もカバーする戦略AI「David」
とはいえ、ファーストビューレンダリングを高速化することも欠かせない。「『KUSANAGI Premium Edition』を使えば、ほぼ満点にできる」と中村氏は説明する。
KUSANAGIは用途や規模に応じて、無償版、Business Edition、Premium Editionの3つのエディションを用意している。無償版はKUSANAGIの標準機能のみを提供する、気軽に試してみたい方向け。Business Editionはビジネスユース向けの有償版。「シボレス認証にも対応しているので、特に文教系のサイトで使われることが多いですね」(中村氏)
Premium Editionはビジネスユース向けの最上位版で、Web高速化エンジン「WEXAL(ウェクサル) Page Speed Technology」と、Webサイトを解析し、表示高速化戦略を立案してエンジンに指示する戦略AI「David」が提供されているからだ。
「WEXALはオリジナルのシステムを改変することなく、HTMLやCSS、JavaScript、画像などのリソースを最適化することで、Page Speed Insightのスコアを満点近くまで向上します」(中村氏)
だが、いくらエンジンが優秀でも、これまでは通信からファーストビューレンダリングまでの戦略立案と制御を人間が指示する必要があった。「それを自動化するのが、Davidです。これを活用することで、戦略立案と制御が容易に実現できます」と中村氏。
実は、KUSANAGIを開発した背景には、エンジニアの不足があると中村氏は指摘する。
「例えば15年前にプログラマと呼ばれていた人は、ゲームエンジンを使いながらシナリオを作り込める人を指していましたが、今はそれができる人はハイパーエンジニアやスーパーエンジニアと呼ばれています。つまり以前であれば見習いエンジニアのような人が、今は一人前のエンジニアとして仕事をしているんです。というのも、技術の進化により、そういう人たちでも機能要件を満たす仕組みが作れるようになってきたからです。その半面、非機能要件についてはよくわからない人が増えている。それを解決するソリューションを提供したかった」(中村氏)
基幹系システムにもWebのノウハウが必要―FJCS for OSSとのコラボ
そんなKUSANAGIが今年9月、「FUJITSU Cloud Service for OSS(以下、FJCS for OSS)」に対応した。「Fujitsu Tech Talk」とのコラボレーションがきっかけとなった。
「Fujitsu Tech Talk」は、富士通が運営する開発者コミュニティだ。2017年5月に設立され、クラウドやAIなどのテクノロジーやビジネス活用について議論するなど、開発者同士のコミュニケーションを活性化させ、新たな共創を実現する目的がある。
FJCS for OSSは基幹系システムに多く導入されているが、「Fujitsu Tech Talk」で参加者と情報交換すると、「Webフロントエンド実装に関しては外注に出していると言うんです。これはニーズがあると思いました」と中村氏は話す。
基幹系システムには常に信頼性が求められることから、システムの安定性などの機能要件への対応が中心となるため、フロントエンドのこととなるとそこまで手が回っていなかったり、外注に出したり、自分たちのできる範囲で対応しているケースが多いという。
富士通株式会社 クラウドサービス事業本部 クラウドストラテジー統括部 第一ビジネス戦略部部長の谷内康隆氏も、これからはSIerは基幹系システムの開発においても安定性だけでなく、UX向上に注力しなければならないと指摘した。
FJCS for OSSで、KUSANAGIの性能を存分に発揮できる
こういった需要があっただけではない。中村氏は、FJCS for OSSのパフォーマンスの良さにも「驚いた」と明かす。同社ではKUSANAGIをデモする際、自社のプライベートクラウドを使っていた。
「4.6ギガヘルツのCPUにクロック数を上げたメモリ、ストレージをPCI Expressバスに直結するなど、スピード狂の構成にしているんです。そのため、他のクラウドにKUSANAGIを載せると、性能は半分ぐらいになります。ですが、FJCS for OSSでは当社のプライベートクラウドと遜色がないほどの性能でした。FJCS for OSSはKUSANAGIと親和性の高いクラウドだと判断しました」(中村氏)
なぜ、FJCS for OSSはKUSANAGIの性能を存分に出せるのか。FJCS for OSSは各コンポーネントを冗長化するなど、性能を落とさないことに注力して構築されている。谷内氏は、「富士通は金融系など、品質に厳しいお客さまが多い。そのため、品質管理の専門部門を設けて、品質向上のための取り組みをしています。この取り組みはクラウドサービスにも適用されているため、品質には自信を持つことができるのです」と高いクオリティの背景を説明した。
現在、「KUSANAGI on FUJITSU Cloud Service for OSS」は、富士通のWeb販売サイトである「FUJITSU MetaArc Marketplace」から無償版に加え、Business Edition、Premium Editionも販売を開始した。
KUSANAGIはWeb高速化のブレイクスルー技術
「KUSANAGI on FUJITSU Cloud Service for OSS」を利用することで、どんなメリットが得られるのか。プライム・ストラテジーと富士通両社に聞いた。
「例えばSIerであれば、機能要件を満たすことが至上命題で、UXやパフォーマンス、セキュリティなどの非機能要件を満たすまでなかなか手が回らないのが現状です。ですが、ユーザーはやはり非機能要件も求めてきます。そういったSIerがカバーしきれない非機能要件をKUSANAGIに任せることができれば、メインとなる機能の開発に集中でき、ユーザーも満足するシステムを構築することができます」と中村氏。
谷内氏も「富士通のクラウドユーザーは、企業内や企業間のシステム、もしくは企業がコンシューマ向けに情報発信するためのサイトが多いですね。中でも企業内や企業間のシステムは、どうしてもUXよりはシステムとしての安定性、データの規律性が重視されています。ですが、企業システムにおいても表示速度や使いやすさに取り組んでいく必要があります。一人ひとりのユーザーのレスポンスタイム改善に、KUSANAGIの技術はブレークスルーになると期待しています」と続ける。
また、FJCS for OSSはデータ転送料がIN/OUT無制限無償で利用可能だ。これは「KUSANAGI on FUJITSU Cloud Service for OSS」でも同様で、予測できないアクセス集中時など、安定性だけでなくコスト面の不安も軽減される。
「WebサイトやWebシステムに求められるUXなどの非機能要件はKUSANAGIに任せ、システム開発に集中できるようになります。KUSANAGIの認知は広まっており、いずれこの分野のデファクトスタンダードになると思います。関心を持った方はぜひ、無償版で試してください。効果を実感いただき、Business EditionやPremium Editionに切り替えていただければと思います」(中村氏)
KUSANAGIはワンソースで作られるため、切り替えも迷うことはないという。FJCS for OSSのユーザーの方はもちろん、Webサイトの表示速度、チューニングなどに課題を感じている方は、ぜひ、一度「KUSANAGI on FUJITSU Cloud Service for OSS」試してみてはいかがだろう。
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