AIが実現するビジネスインパクトは非常に大きい
「Software Is eating the World」
「ソフトウェアが世界を食いつくす」という意味を持つこの言葉は、WebブラウザのNCSA MosaicやNetscape Navigatorの開発者であるマーク・アンドリーセンが2011年に提唱したものだ。まさに、先見の明があったという他ないだろう。
アンドリーセンの予測は現実化した。現代においては、ほぼ全ての業界においてデジタル化の波が訪れている。ここ数年ほどの間で、ユニコーンのソフトウェア企業も膨大な数に達した。まさに、ソフトウェアは世界を食べたのだ。「そして今後は、AIがソフトウェアを食べていくと言われています」とパウロ氏は切り出す。
AIとは、コンピューターが人の動きや振る舞いをまねる技術のことを指す。AIの構成要素のなかに機械学習があるが、これは統計的手法を用いて機械に何かを経験・学習させ、性能を向上させる技術のことだ。さらに、機械学習の構成要素のなかにディープラーニングがある。この技術は、マルチ・レイヤーのニューラルネットワークを用いたコンピューテーションを行うといった特徴を有する。
現在、AIはどのような領域に利用されているのだろうか。
例えば、自動運転が挙げられる。アメリカではTeslaやWaymoなどの企業が、同領域における研究を積極的に行っている。工業生産の領域においては、製品の品質チェックやロボティクスのチューニングなどにAIが活用されている。Eコマースにおける需要予測なども、AIの得意とする領域だ。他にも、ヘルスケアや金融、小売り・CPG、メディア・エンターテインメントといった数多くの業種において、AIの導入が進められている。
世界の名だたる企業が、AIやデータ活用によるビジネスインパクトの大きさをうたっている。例えばMcKinsey社は「AIにより、2030年までに世界のGDPは13兆ドル増加する」と述べた。IDC社は「世界中に存在するデータは、2025年には175ゼタバイトに達する(2018年の約5倍)」と提唱している。同領域においてイノベーターになることは、ITの世界において優位性を獲得することと同義なのだ。
だが、AIはまだまだ導入障壁の高い領域である。Gartner社は「2020年における、AIの全ユースケースのうち約80%は、専門家だけしか取り組むことができない」「2022年までに、数あるAI研究のうち約5分の1しか成功しない」と発表している。
なぜこれほどまでに、AIを用いたプロジェクトを成功させるのは難しいのだろうか。パウロ氏はその理由を、下図を用いて解説する。
「AIや機械学習において最も難しいのは、アルゴリズムを書くことではありません。機械学習において必要な工程のうち、コードが占める割合は上図の緑色の部分だけです。むしろ、データの収集・確認や特徴抽出、インフラの準備、マシーンのリソースマネジメント、分析ツールの利用などにかかる工数が多くを占めています。つまり、機械学習を始めるために準備すべきことが非常に多いのです」(パウロ氏)