嫌われプロダクトを人気プロダクトにーーmetrolyワカマツ氏
現在、メトロリー(metroly)のCEO兼CPOを務めるワカマツ氏は、前職のSalesforce.comでの取り組みを話した。
ワカマツ氏は2011年にSalesforceに入社し、「Salesforce for Outlook」のプロダクトマネジメントを担当した。Salesforce for Outlookは、Salesforceのクラウドにある商談や営業情報と、Outlookにある連絡先や予定を同期するデスクトップソフトウェアだが、当時「嫌われていた」とワカマツ氏は言う。だが、それがワカマツ氏らチームの取り組みにより、人気プロダクトになった。
どのようなステップを踏んだのか。ワカマツ氏によると以下の4つだ。
- 問題分析
- ソリューション定義
- プロダクトの更新
- リリース
リリースした後もフィードバックを取り入れ、再びサイクルを回すことを繰り返したという。
(1)では、営業の責任者、Salesforce管理者、ユーザーの3つのペルソナ別で調査をした。そのうち営業責任者からは「バグが多く、カスタマイズのオプションが限定的なので管理者やユーザーからクレームが多い」などが挙がった。ユーザーの調査からは、「Outlookから収集されるデータの管理ができない」などがあった。また、家族や友人の連絡先、病院の予約などのプライベートな情報が社内に共有されることを嫌がっていた一方で、Salesforceの情報をOutlookに同期するという機能についてはニーズがある、などが分かったそうだ。
ちなみに、社内でもSalesforce for Outlookは「嫌われていた」とのこと。例えば、オペレーション側ではサポート件数が多い製品と嫌がられ、テクニカルチームはバグの件数が多いのにデスクトップソフトウェアなので問題追跡に時間がかかるうえ、ユーザーのWindows OSやOutlook、Internet Explorerが関連しているのでサポートが難しいといった状況だった。
中でも「大きな課題だった」とワカマツ氏が振り返るのが「開発チームへの影響」だ。バグ対応に追われて新規開発に集中できず、エンジニアのモチベーションも下がるという悪循環に陥りかけていたのだ。
「全てのペルソナから日々不満を聞くという地獄の日々」とワカマツ氏は苦笑まじりに振り返る。「朝メールを開くと、営業、カスタマーサクセスのマネージャーから数十件のメールが届いており、お客さまからの不満や質問が書かれている」といった具合で「2年半、1日の半分は不満の対応に追われた」という。
それをどのように変えていったのか。それが、(2)ソリューション定義(3)プロダクトの更新のプロセスだ。
対応としては「今やる」「時間をかけてやる」「やらない」の3つを決めた。「今やること」は応急処置的なもので、プロダクトではバグを減らして「みんなを幸せにする」こと、Outlookに同期対象外にするプライベートフラグを付けるなどのことを行った。営業では、「PMと話したいというリクエストがあれば断らずに全てに対応する」などのことを行ったという。
「時間をかけてやる」は、ユーザーの細かなリクエストに対応するのではなく、新しいイノベーションで解決することを入れた。その一つとして、SalesforceをOutlookの中に埋め込むサイドパネルを用意するという「必殺技」を考案したことを紹介した。この機能により、Outlook内でSalesforceの作業のほぼ全てが完結するようになり、メールの紐付けの可視化なども可能にした。
ワカマツ氏が特に重要だという「やらない」には、テクノロジーの進化が解決(時間が解決)することを入れた。例えば同期の問題はクラウドへの移行が解決してくれる。「待つ勇気、根気が大切」とアドバイスした。

最終ステップの(4)リリースについては、2年半の間に9回行った。Salesforceのリリースは年3回なので、最初の5回のリリースでは「今やる」で取り組んだソリューションを盛り込んだ。6回目にしてやっとサイドパネルのパイロットを送り出すことができ、7回目でサイドパネルをベータにしたという。
サイドパネルはその後クラウドに移行し、好感度がよりアップしたという。Salesforceの年次イベント「Dreamforce」では、共同創業者で当時CEOを務めていたMarc Benioff氏がスピーチ中の動画に使った。Dreamforceで紹介されることは開発チームの目標だったというから、目標に達成できたことになる。「Office 365」のアドイン、Gmailのアドインとして利用されており、星4つ程度の高い評価をもらっているという。
注:このように人気機能となったSalesforce for Outlookだが「Internet Explorer 11」の延長サポート終了(2020年12月)と同時に廃止されることが発表されている。
嫌われプロダクトを担当し、社内のメンバーを巻き込んだり協力体制を築いたりするのには、かなり苦労が伴う。ワカマツ氏の入社時、開発チーム内の軋轢があったためチームを2つに分けたうえでリリースプランニングは一緒にするなどの工夫もあったようだ。
また「営業からのリクエストは全て断らなかった。文句は全て聞くという誠意があったためか、営業からの信頼を得られた。これも重要だった」と付け加えた。
Product Management Festivalの今後の日本展開に期待
6名のプロダクトマネージャーが、それぞれのBtoBプロダクトに向き合う姿勢を明らかにした本イベント。組織の編成や、意思決定の方法、プロセスの改革など、プロダクトに携わる人にとって役立つ知見が惜しみなく語られた。現場での試行錯誤の経験をもとにしたリアルな事例だったことも印象的だった。
Product Management Festivalによるイベントは、日本では今回が初の開催だった。これをきっかけに、プロダクトマネージャーの学びの場がさらに広がっていくことを期待したい。
