テクノロジーと人の気持ちが交わる良いバランスを求めて
――加茂さんがデザイナーとして意識していることはありますか?
ひとつは、人に聞くことです。BtoBのプロダクトかつ、いままで私が使ったことがないような領域のため、ドメイン知識を身に着けたり、自分ごと化するまでにとても苦労しました。とくにテレビCMは専門用語や業界の知識が必要な場面も多く、1年経ってやっと理解できてきた部分も多いですね。そういった専門知識やユーザーの解像度を高めるために、テレビ局や代理店出身の社内メンバーにインタビューをするなど、知識がある人に積極的に話を聞くようにしています。これはラクスルが掲げている行動指針「RaksulStyle」のひとつ「Reality(高解像度)」の一例でもあり、実際社内で体現している人が多いと感じています。
ふたつめは、柔軟な対応です。ノバセルアナリティクスも少しずつマーケットフィットしてきたように思いますが、まだまだこれからなプロダクト。そのため、開発の優先順位もどんどん変わります。半年の計画をもとに来週取り組もうと思っていたことの順位が下がり、緊急度の高い新しい案件に取り組むというのもよくあること。いまはとくに、臨機応変な対応が求められているように感じています。
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また、新しいプロダクトだからこそだと思いますが、より全員が試行錯誤している印象もあります。機能開発のフェーズまできていればあとは取り組むだけなのですが、UIに落とし込む前でつまずくこともある。新機能を考えテストしてみたものの、あまり上手くいかなかったから優先順位を下げて別の方向へ切り替えるなど、チーム全体がトライアンドエラーを繰り返しながら進んでいます。
そんなときに「こんなインタビューを行ってみたらどうですか?」とアイディアを出したり、全体のフローを整理したり、デザイナーとしてできることは何かを考え提案する。私自身も良い方法を模索しているところではありますが、日々意識するようにしています。
――では、ノバセルに関わるなかで難しさを感じていることはありますか?
テレビCMを新たな指標で評価しなおそうという、いわばいままでになかった考えを浸透させることの難しさは常に感じています。
DXという言葉をよく耳にするようになりましたが、デジタルの力を使えば人件費をカットできたり作業の効率が上がる一方、もともとその業務にあたっていた人の気持ちも考えなければいけません。
たとえば分析ツールでいえば、導入することで効率が良くなる半面、ある人の仕事を奪ってしまうという考えかたもできると思います。そのため、言葉にはしなくても無意識のうちに反発してしまうこともあるかもしれない。効率だけで考えたら導入したほうが良いけれど、結局そこを飛び越えられないというか……。その現状と理想のグラデーションを考えることがUXなのではないかとも感じています。
そうなったときにどのようにしてサービスの良さを伝えていくか。その良い塩梅を探るのが、とても難しいです。
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もうひとつは、DXもより複雑な問題に立ち向かっていかなければならないという点。DXでは、アナログをデジタルに置き換えることで問題解決を目指すだけでなく、人や組織、またサービスによっては法律が関係してくることもあると思います。そうなると、課題解決の難易度が一気に上がり、一筋縄ではその問題をクリアすることはできません。テレビ業界もDXの導入が難しい業界とされているので、どのように向き合っていくか、引き続き考えていく必要があると思っています。
――今後、ノバセルをどのようなサービスにしていきたいですか?最後に展望をお聞かせください。
「ノバセルアナリティクス」をさらに広めていきたいですね。現状は知識のあるマーケターの人は使いこなせるものの、そうでない人にとってはまだまだ難しいツール。ですがプロダクトをユーザーのリテラシーに合わせて下げるのではなく、ユーザーの知見も深めながら利用できる仕組みにしていけたらと思っています。また、今はテレビCMの効果を可視化できるプロダクトのみなので、それに付随した新しいプロダクトも開発していきたいです。
メンバー間でも以前から話しているのは、テレビCMもウェブ広告のような世界観にしていけたらということ。マーケティングを民主化するべく、テレビCMも広告主がしっかりコントロールできるものにしていきたいと思っています。
――加茂さん、ありがとうございました!