日本アイ・ビー・エム(以下、日本IBM)は2025年11月25日、米国で開催された技術者向け年次イベント「IBM TechXchange 2025」における主要な発表内容に関する記者説明会を開催した。本説明会では、Anthropic社やGroq社とのパートナーシップに基づく新機能や、AIエージェントを活用した新たな開発スタイルについて解説が行われた。
特に注目を集めたのは、AIエージェントが要件定義からコード生成、レビューまでを自律的に支援する開発ツール「Project Bob」の詳細だ。
「AIアシスト」から「エージェント主導」へ開発スタイルを変革
日本IBM 技術理事の菱沼章太朗氏は、2025年を「AIをビジネス価値に転換する年」と位置づけ、IT変革(AI for IT)の領域において、開発スタイルが従来の「AIアシスト開発」から「AIエージェント主導開発」へとシフトしつつあると説明した。
従来のアシスタントツールがファイルや関数単位でのコード補完を主としていたのに対し、AIエージェント主導開発では、AIがプロジェクト全体やリポジトリを理解し、目標の分解・実行・最適化を自律的に行う点が特徴だ。

要件定義から実装までを一気通貫で支援する「Project Bob」
この「AIエージェント主導開発」を具現化するツールとして紹介されたのが「Project Bob」である。Project Bobは、Anthropic社のLLM「Claude」との連携により、企業のソフトウェア開発に求められる高度な推論能力とセキュリティー要件に対応する。

日本IBM watsonx事業部の張重陽氏は、企業システム開発の現場では「業務要件が曖昧なまま実装が進み、手戻りが発生する」「セキュリティー対応やレビューが不十分」といった課題があると指摘。Project Bobは3つのモードでこれらの課題解決を図る。
Planモード(要件整理・計画)では、エンジニアとの対話を通じて曖昧な指示を具体化し、要件定義書やAPI設計書などのドキュメント(SPEC)を自動生成する。これにより、実装前に要件を確定させる「SPEC駆動開発」を実現する。
Codeモード(実装)では、確定した仕様書に基づき、AIが実装計画(To-Do List)を作成し、コード生成、テスト、エラー修正を自律的に実行する。
Reviewモード(品質確保)では、セキュリティーやパフォーマンスの観点からコードをレビューし、問題箇所の特定だけでなく、修正案の提示から適用までを自動化する。
デモでは、Project Bobが対話を通じてWebアプリの要件を整理し、技術仕様書(Markdown)を作成した後、Pythonコードの実装とレビューまでを行う様子が紹介された。
推論速度を5倍にするGroq社との提携
もう一つの大きなトピックは、AIエージェントの実行基盤である「IBM watsonx Orchestrate」の強化だ。日本IBMはGroq社との提携を発表し、同社のLPU(Language Processing Unit)をwatsonx Orchestrateから利用可能にした。
日本IBM watsonx事業部の長田栞氏は、複数のエージェントが連携する「マルチエージェント」環境では、推論処理の積み重ねにより応答速度が低下する課題があると説明。LLM専用に設計されたGroqのLPUを活用することで、従来の環境と比較して最大5倍のパフォーマンス改善を実現し、コールセンターなどリアルタイム性が求められる業務での実用性を高める。

また、開発者コミュニティで支持を集めるローコード開発ツール「Langflow」がwatsonx Orchestrateに統合されたことも発表された。これにより、Pythonベースの柔軟なフロー構築が可能となり、開発者はより高度なカスタマイズを容易に行えるようになる。
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近藤 佑子(編集部)(コンドウ ユウコ)
株式会社翔泳社 CodeZine編集部 編集長、Developers Summit オーガナイザー。1986年岡山県生まれ。京都大学工学部建築学科、東京大学工学系研究科建築学専攻修士課程修了。フリーランスを経て2014年株式会社翔泳社に入社。ソフトウェア開発者向けWebメディア「CodeZine」の編集・企画・運営に携わる。2018年、副編集長に就任。2017年より、ソフトウェア開発者向けカンファレンス「Developers...
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