当初の理想的な構想をバッサリ切り捨てて、最小限にした実装とは
ここからは野上さんの気づきが実際のプロダクトにどう反映されてきたのかを見ていこう。パーソナライズされたおすすめを表示するのが目標だったため、野上さんは「類似商品検索APIを作り、メルカリで最近見た商品に類似するShopsの商品を表示する」とイメージしていた。メルカリ在籍時には写真検索をしていたため、馴染みがあり得意なところから始めたほうがいいと考えたためだ。
アイデアとしては理想的ではあるものの、野上さん1人で進めるには壮大だった。「本当にこれで良かったのかな」と迷いも生じた。そこでメルカリのレコメンデーションチームに相談したところ「ルールベースのミニマムから始めたほうがいいよ」とアドバイスをもらい、作りかけたものを捨てて、簡単なところからやり直すことにした。
結果的には「最近見たShops商品と同じカテゴリの商品を表示する」というシンプルなものから始めることにした。当初の構想ではメルカリの閲覧履歴から類似商品を検索し、変更後はShopsの閲覧履歴から同一カテゴリの商品を表示する。こうするとデータの参照がShops内で完結し、類似商品検索APIを開発しなくてもすむ。
「すごく簡単なロジックです。1人で決めていたら『これで大丈夫かな』と不安になったと思います。しかしこれはメルカリのレコメンデーションチームがメルカリの実績を踏まえて『これでも全然いけるよ』と言ってもらえて決めたので、自信を持って進めることができるようになりました。これだけシンプルにできたので、バックエンドもフロントエンドも結局1人で全部やりきることができました」(野上さん)
![今回の試行錯誤が実際のプロダクトにどう活きたか](http://cz-cdn.shoeisha.jp/static/images/article/15236/15236_003_s.png)
当初は類似商品検索APIも構想にあり時間がかかると見込まれていたが、そこはなくしたため、2カ月足らずでリリースまでたどり着けた。現在(11月中旬)はABテストをしているところだ。着手しかけたものを捨てても、シンプルにしたほうが断然早くリリースできた。
野上さんは(グループ企業とはいえ)1人目として移籍し、さまざまな課題や葛藤に直面して得た気づきを語ってくれた。これはスタートアップや新規事業の開発現場に投入されたエンジニアなら直面することではないだろうか。ポイントとして野上さんは「集中するタスクを決めて、周りに共有する」「Minimum Startを徹底」「できるだけ人に意見を聞きに行く」を挙げた。
幸いなことに野上さんはグループ企業内に相談相手を見つけることができたものの、もし手が届く範囲に相談相手を見つけることができないなら「今はカジュアル面談が流行っているので外の人に聞きに行くのもありかなと思います」と野上さんは提案する。
野上さんは日々の開発業務以外にも、ソフトウェアエンジニア育成プログラム「Build@Mercari」を立ち上げるなど、ダイバーシティ&インクルージョンに関する活動にも精力的に取り組んでいる。これらに関しても日々のカジュアル面談などを通じて、情報交換を行ってるようだ。気になる方は野上さんのアカウントに直接コンタクトをとることをおすすめする。彼女から学べることは、数多くありそうだ。