これからは過去の遺産を、最新のUIやUXの技法で活性化できるエンジニアが求められる
平山氏は、同社開発陣の対応についてまとめる中で、これからのエンジニアのあり方について見えてきたものがあるとし、その説明を行った。
2000年以前のITでは、メインフレームなどオープン系が中心で、インターネットが始まったばかりとして、この時代を「SoR(System of Record、記録を重視)」と説明した。対して2000年以降はインターネットが爆発し、スマートフォンの台頭で世界がネットでつながった時代として、「SoE(System of Engagement、システムとユーザーとのつながりを重視)」とした。
ITのトレンドをSoRとSoEという2つに分けた上で、SoRの特徴は、安全性重視、領域としてはバックエンドや決済系、開発はウォーターフォール、プロジェクトマネージメントとしてはトップダウン、正しい仕様に基づくもの、要件定義、プロジェクトマネジメントとした。
一方でSoEの特徴は、ユーザーインターフェース重視と、トライアンドエラー、システム領域としてはフロントエンド、開発方式としてはアジャイル、プロダクトマネジメントはボトムアップ、正しい仕様は作って探る、ケイパビリティとしてはデザイン思考とユーザー志向とした。
平山氏は、ITの発展を振り返り、それを同社の開発チームの特徴に当てはめると、多くの特徴がSoEとSoRの両方に見られたと語った。電子カルテを扱うため「安全性を重視」しながら、プロダクトマネジメントでは医療業界のニーズという「トップダウン」で動く部分はSoR、迅速な開発で現場のデジタル化を目指し「ユーザーインターフェースや開発速度を重視」する点や、要件定義では「デザイン」を優先し時には「対応しない」といった部分はSoEと、両方のポイントを持っていると説明した。
2000年以降、インターネットが先進諸国だけでなく世界的に普及してきたころ、ITの主戦場はSoRからSoE主流になってきたと言える。Record(資産)を保管・整理することより、どう使うかが重視され、必要なエンジニアもSoRからSoEタイプになってきた。しかし、Engagementもある程度の成熟を達成した中で、次に求められるのは、大切に築き上げたSoRの世界にSoEを加えることではないかと平山氏は示した。
「1990年頃は、SoRの開発人材が活躍しました。それが2000年代ぐらいになると、いわゆるSoEの開発人材が活用した時代になったと思います。そして、これからはSoEの手法をSoRの分野に適応できる人材が活躍する時代ではと思います」(平山氏)
平山氏は、SoEの手法をSoRの分野に適応できる人材を明確にするために、必要なスキルを挙げた。
- コモディティ化した技術を、基礎理解も含めて安定して扱えるスキル。
- UI/UXを重視したプロダクトをチームで作り上げた経験。
- 対象ドメインを深く理解し、技術的な文脈を考慮し、ビジネスパートナーと共に議論できる。
加えて、少子高齢化による働き手の減少を考えると、エンジニアは1人あたりの生産性をもっと向上させるアプローチや組織作りが必要だとした。
このような状況を平山氏は、人月の縛りを捨ててソフトウェア開発の本質に向き合う時期であるとし、「"エンジニア、技術者とは、自然科学や人文社会科学の知見を用いて安心安全な社会を実現するという学術領域において専門性を持った実践者である"と、普通のことですが改めてこの原点に従って、ソースコードの1行1行に向き合うなど頑張っていければと思います」と述べ、講演を締めくくった。