はじめに
本記事ではPOCO(C++ Portable Componentsの略)というオープンソースのC++用クラスライブラリを紹介します。
日本語の情報が少なく、あまり有名ではありません。しかし、強力なライブラリが揃っているのでプログラミングの強い味方になること間違いありません。
今回は、POCOの導入方法と、いかにPOCOが強力であるかを示すために、アプリケーション組み込み型のWebサーバのサンプルソースを解説します。Webサーバが非常に少ないコード量で記述できることに驚かれると思います。
POCOのクラスは数多くあり、今回の記事だけではとてもすべてを紹介しきれません。引き続き、クラスの利用方法や、アプリケーションを作る上で便利なパーツの製作などの記事を予定しています。
対象読者
オブジェクト指向を理解し、C++のクラスライブラリを活用できる方を対象としています。
必要な環境
POCOは、多様なプラットフォームで動作可能で、Windows、Mac OS X、Linux、HP-UX、Tru64、Solaris、QNXでの動作を保証しています。コンパイラは、いわゆる標準C++のコードに対応したものが必要です。POCO内部でSTLを使用しています。
本記事では、Windows XP上で、Microsoft Visual C++ 2005 Express Edition(以下、VC 2005 Expressとします)(+Windows Platform SDK)という環境で、動作検証を行いました。
POCOとは
Java環境には、標準のクラスライブラリが用意されています。また、.NET環境(C++/CLI)では、.NET Frameworkクラスライブラリが利用できます。一方、従来のネイティブC++言語には、誰もが利用できる標準のクラスライブラリというのはありませんでした。Windows環境では、マイクロソフトのMFCが業界標準と言えますが、基本的にはマイクロソフト製コンパイラでの使用に限定されたものです。
POCOは、言わば、ネイティブC++言語版の標準クラスライブラリです。「Boost Software License」という緩いライセンスで、商用利用も問題ありません。低レベルなものから、アプリケーションのテンプレートとして利用できるものまでそろっており、開発者は純粋にビジネスロジックの実装に専念できます。
C++ Portable Componentsという名前が示すように、POCOは、カテゴリごとにクラスライブラリが集約されていて、集約されたものをコンポーネントと呼んでいます。ソース上では、コンポーネントごとに名前空間が区別されています。以下に、コンポーネント一覧を示します。
名称 | 概要 |
Foundation | 基本機能クラスライブラリ |
Util | アプリケーション用クラスライブラリ |
Net | 通信用クラスライブラリ |
XML | XML文書操作用クラスライブラリ |
Data | DBクラスライブラリ(ODBC・SQLite用) |
NetSSL_OpenSSL | OpenSSLを利用するためのクラスライブラリ |
POCOのインストール
POCOは基本的にはソースファイルで配布されており、Windows用もソースファイルしかありません。一部の環境用にコンパイルされたバイナリがダウンロードできるようになっています。ダウンロードはPOCOのWebサイトから行います。なお、記事執筆時の最新バージョンは、1.3.1です。
含まれるコンポーネントの違いで、いくつかパッケージが分かれています。今回は最小パッケージである、Economy Packageをダウンロードしましょう。Foundation、Util、Net、XMLのコンポーネントが含まれています。
なお、NetSSLコンポーネントを使う場合(別途OpenSSLが必要です)は「poco-1.3.1-ssl.zip」を、さらにDataコンポーネントも利用する場合には「poco-1.3.1-data.zip」をダウンロードします。
フォルダ構成
The Economy Package: Without NetSSL and Data Libraryの下にある「poco-1.3.1.zip」をクリックしてダウンロードします。
「poco-1.3.1.zip」圧縮ファイルを解凍すると、図のようなファイル構成になります。適当な場所に保存してください。本記事では、「C:\Lib\Poco」に保存することにします。