全員が変化を実感することで成長する
澤木氏は、デンソーとタケダの共通目標であった「チーム開発を楽しむ」「ユーザー価値に着目した開発を体験する」という2つの目標について、「遠慮せずに意見を言える雰囲気の中で笑顔の絶えない環境をつくり、ユーザー価値に着目した開発ができた」ことを理由に、両方とも達成できたと評価する。
さらに澤木氏は、この「チーム開発を楽しむ」という点において、「全員が変化を実感できたからこそ楽しめた」と振り返る。両社とも大きな不安を抱えた中で始まったプロジェクトではあったものの、日々の開発で少しずつプロダクトが変化していく実感を得たことで、「自分たちでもプロダクト開発ができる」という自信が生まれた。
その結果、具体的な機能として、現場の作業者が使いやすいようボタンで直感的に入力できる機能や、部分的な自動入力機能などが誕生した。さらに、管理側からも確認しやすい機能も追加され、三浦氏は「みんなが楽になる、想像以上のプロダクトが生まれた」と胸を張る。加えて、成果物をユーザーに見せ続けるという日々を過ごす中で「ユーザーフィードバックや成果物を見せ続けることの重要さを、腹落ちする形で体得できた」と総括した。
dojoを通じ、ユーザーであるタケダ側にも変化が生まれていた。自分たちの意見によってプロダクトが常に変化し続ける体験をすることで、フィードバックの重要性を強く認識したのだ。ユーザーである自分たちの意見は取り入れられないという学習性無力感から脱却したことで、タケダからのフィードバックはさらに活発化したという。
「開発者から提案を受ける環境に置かれた結果、自分たちの仕事の意義を考え直すきっかけが生まれた」と振り返る大滝氏。ルーティンワークとして漫然とこなしてきた仕事について、「この仕事は何のためにあるのか」「このフローをとっているのはなぜか」と考え直す機会になったという。
最後に三浦氏は、ユーザーと開発者それぞれが変化を実感できた理由について述べた。最初に挙げられたのは「全員で開発に取り組めるようにしていた」というポイントだ。開発前に作成したユーザーストーリーマップやインセプションデッキが、チームの共通認識構築に一役買った。さらにはスプリントレビューの際に、製造現場で作業者と一緒にプロダクトを操作したことも、「双方にとって非常に重要だった」と語る。
透明性を持った情報共有も大きなポイントだ。dojoでは、開発者が把握しているプロダクトバックログやスプリントバックログをユーザーから見える場所に置くなど、プロダクトの開発状況が常に見えるようにした。プロダクトの状況をさらけ出すことで、ユーザーと開発者それぞれの信頼につながったという。
両社ともに多くの学びを得た2ヶ月間のdojo。その成功の秘訣について三浦氏は、「チームビルディングや透明性、検査と適応といった基本に立ち戻り、徹底することだ」と総括し、講演を締めた。