8.3 実際に解決できる組織課題
これらのダッシュボードを使って、実際に解決できる組織課題を2つ紹介します。
ケース1.現状のシステムを維持するコストが見えてこない
開発組織への投資を考えたときに、現状の投入工数に対して以下の2つは気になるところです。
- 新しく価値を作り出している工数
- 現状のシステムを維持するための工数
これらは前述している5つの区分が集計できていることで試算できます。下図はサンプルですが、データから以下のことがわかります。
- 約48%が「新しい価値を作れる費用」
- 約15%が「現状システムの維持費用」
- 約37%が「開発以外の費用」
ソフトウェア開発というのは、継続的なリファクタリングや内部品質の向上(ライブラリのバージョンアップなど)が必要になります。一方、開発現場を見るとそこに工数が割けずに新規開発が多くなり、スピードを優先するがあまり負債が溜まっていきます。すると運用コストが上がったり、新規開発のスピードもどんどん遅くなっていくので、組織全体として保守開発を増やしていき、「現状システムの維持費用」の割合を上げていく戦略も取れていきます。
ケース2.状態が悪いチームの因果関係・相関関係が見えてこない
課題感として大幅にスケジュールが遅れる・離脱が多いチームにおいて、その予兆検知と改善が場当たり的・感覚的なものになっている現場を多く目にします。改善するにあたっての相関関係をみたいときに開発関連のデータだけでなく、人的資本データとの連携が必要になります。チームリーダーが忙しすぎたり、メンバーのエンゲージメントの数値が下がっていたり、品質データにおける障害件数が多く運用コストが高かったりします。定量・定性データのどこかに異常があるはずですが、データがバラバラになっていることで早期検知ができません。
その際、紹介したダッシュボードと人的資本データを組み合わせることで、異常検知をもとに早期対策を組織全体として取り組むことができます。
8.4 入口としての開発生産性、出口としての管理会計
今回紹介した開発生産性のダッシュボードも、P/LやB/Sといった財務会計で使われているrowデータは一緒なことが重要なポイントとなっています。もともとは従業員の勤怠データがもとになり給与計算が行われ、それがP/Lとしての人材関連費に繋がってきます。同じデータを利用することで、ミクロとマクロを繋ぐことが可能になるため、入口である工数改善を行うと結果として財務諸表の数値にも影響がでてきます。逆にここの入口と出口のデータがつながっていないと、改善効果の因果関係・相関関係が定量的に見えないため苦しい状況になります。
本記事で紹介してきた開発生産性と組織全体の技術投資コスト並びに人的資本のデータを組み合わせることで、管理会計も意識した生産性改善ができる様子を述べてきました。一度データを揃えてしまえば、分析次第で大きな効果を作れることもあるため、少しでも同じような組織改善に挑む方の参考になればと思います。