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「誰もが苦労することなく、OSS貢献ができる環境にしたい」
──まずは自己紹介をお願いします。
中村:2001年にOSSセキュリティの研究開発に携わって以降、SELinuxの普及活動をリードしてきました。多数のコードをコミュニティに提供したり、イベントに登壇したり、コミュニティを作ったり、一連の活動に携わりました。
その後も2017年にはOSSのKeycloakを活用したAPI管理ソリューションを立ち上げ、2022年にはThe Linux Foundationのボードメンバーに就任。2023年にはCloud Native Computing Foundation(CNCF)に加入し、そのJapan ChapterであるCNCJの設立をリードしました。2024年8月にはThe Linux Foundationのエバンジェリストに就任。10月から日立OSPOのヘッドです。
古山:私はもともとOSSと関わり合いのない部署で仕事をしていました。具体的にはWindowsのサポートに携わった後、内部のソフトウェア開発に従事。2016年にソフトウェアCoE組織OSSソリューションセンタに参画。以後、ビッグデータ系やAI系のOSSなどの社内活用を推進すべく、ソリューション開発に携わっていました。ここ2~3年は中村さんとOSSのビジネス活用戦略を担当しています。
──日立製作所におけるOSSの取り組みについてご紹介ください。
中村:当社がOSSに取り組んだのは2000年から。日本企業の中でも早く取り組んだほうだと思います。The Linux Foundationの前身の団体にも参加し、当時の日立のサーバにLinuxを活用すべく、Linuxの高信頼化に取り組んでいました。私がSELinuxの研究に取り組んでいたのもその一環です。2010年頃からは、OSSコンプライアンスのプロセス整備やインフラ開発にも取り組みました。
その後2015年にOSSソリューションセンタが設置されてからは、KeycloakやHyperledgerの普及に努めるほか、2023年頃からはOSS利活用を社内で加速するため、OSPOの前身になるような活動も始め、CNCFアンバサダーに就任したり、CNCJを設立するなど積極的に取り組んできました。
このような活動の根底には、私が海外のあるITベンダーを訪ねたときの個人的な経験があります。立派なオフィスで、技術だけに集中できる環境に衝撃を受けました。だから誰もが苦労することなく、OSS貢献ができる環境にしたいなと。
古山:OSSソリューションセンタの設置は、それまではOSS活用支援は事業部内だけでとどまっていたところを日立のITセクター(現在は、デジタルシステム&サービスセクター)全体に広げることを目的にしていました。ですので、以前からOSPOの基礎は出来ていたと言えると思います。
日本のOSS開発が「個人のやる気任せ」になってしまう理由
──海外の活動と比べて、日本のOSS開発への貢献の仕方に特徴などはありますか。
中村:日本では一部の人が貢献するというような感じで、あまりOSS開発に貢献しようという文化が根付いていないように感じます。海外の企業では、ビジネス戦略にもOSS活用が含まれている。だからOSSに貢献することが会社に貢献することになる。一方、日本の企業はそうなっていないので、OSS開発への貢献は、開発者個人のやる気任せになってしまっています。そういう戦略的な部分が大きいのではないでしょうか。
古山:日本でOSSというと、コスト削減を目的とした商用版の代替という捉え方をしていたと思います。だからモチベーションも湧きづらい。一方、海外の企業は効率的な開発のためにOSSを活用したり、OSSに貢献することによってOSSの価値をより高めることに取り組んでいます。
中村:マイクロソフトやAWSなどはまさに代表例。例えばAWSの全文検索・分析エンジン「OpenSearch」はAWSがElasticsearchをフォークしたことから始まり、今ではファンデーションまで立ち上げてオープンな活動として取り組んでいます。
古山:日本にはプロプライエタリでソフトウェアを開発してきた人がたくさんおり、技術力はあるのですが、なかなかそれがオープンに広がっていかない。そこがもったいないかなと思っています。
中村:The Linux Foundationの代表のジム・ゼムリンも「日本人は教育レベルが高いから、もっとやれるはずなのになんで」ということをよく嘆いています。
実は日本では昔から草の根のエンジニアコミュニティ活動は盛んなんですよ。これは日本ならではの特徴です。しかし、その活動はビジネスと結び付いていない。日本のOSS活動が一皮むけるためには、ビジネスと結び付くことが大事だと思います。