働く人の成長が組織の力に直結する
山田氏は、航空管制レーダーシステムのエンジニアやソフトウェア工学のコンサルタントを経て、2009年にデンソーに入社。現在は、優秀なエンジニアが活躍できる環境づくりに取り組んでいる。その中で特に課題として指摘するのが、ITエンジニアの不足だ。

これまでの情報社会では、各産業がデータを活用し独自に発展してきた。しかしSociety 5.0の時代には、モビリティが単独で機能するのではなく、医療や防災など他の分野とデータを共有し、社会全体をより良くすることが求められている。その実現には、従来のスキルだけでなく、幅広い知識や異分野の専門家と協力できる力が必要となり、多様な人材の確保が欠かせない。
山田氏は「企業が世界で戦うには、変化が不可欠です。設備などの有形資産だけでなく、ソフトウェアや人材といった無形資産への投資も重要です」と語る。企業は、人材をコストではなく投資と捉え、新たな価値を生み出す仕組みをつくることが必要不可欠となっている。従来のように人材を囲い込むのではなく、個人が目指すエンジニア像を描き、必要な学びを会社に提案し、企業がそれを支援する形が望ましい。
山田氏は「モビリティ業界の組み込みソフトウェア開発も、エンジンやステアリングなど個別の領域にとどまるのではなく、オープンな技術との関連を意識し、汎用的なスキルを築いていくことが重要です」と指摘する。

組織に縛られずにキャリアを築く個人の自立が、企業の力を最大化すると山田氏は考えている。従来の人材育成では、新人が配属先の環境に左右され、成長の機会が制限される。しかしデンソーでは、組織として成長と活躍の最適な配置が個人のキャリア実現の重要な要素と考えている。デンソーが優秀な人材が行き交う、育つ場となることで、組織の活力を高める狙いだ。
「デンソーが求める人材を明確にし、適切な環境を整えれば、働く人のモチベーションが高まり、組織の力も最大化されます。日本の産業界全体がこの考えを取り入れ、最適な人材配置が進めば、企業も産業も強くなっていきます」と山田氏は語った。
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「SOMRIE」として認定される人材とは?
「理想のモビリティ社会をつくる“匠”」というコンセプトのもと、デンソーが設けた認定制度が「SOMRIE」だ。「SOMRIE」として認定される人は、⽇本産業界で通⽤する素質と組織が求める素質の両方を兼ね備えた人物だ。
SOMRIEという名前には「洗練された(Sophisticated)技術の⽅向性を指し⽰す(Outline)師匠(Master)として、⾰新的(Revolutionary)で感銘を与える(Impressive)仕事を情熱的(Enthusiasm)に進める」という想いが込められている。
SOMRIEの認定には「能力マップ」を活用し、Society 5.0を支える人材のケイパビリティを定義している。社会価値を考える領域にはストラテジスト、ビジネスプロフェッショナル、クリエイター、管理要素が含まれ、開発技術ではアーキテクトが中心となる。
専門技術には、アプリケーションスペシャリスト、プラットフォーム、ネットワーク、データベース、セキュリティ、データサイエンス、人材開発などがある。高度なレベル4以上、つまり組織や企業の第一人者となる人材には、厳格なアセスメントを行い、適切に評価し認定している。山田氏自身もレベル5のSOMRIE人材開発スペシャリストだ。
業務上の役割を示す「役割マップ」も設けている。重要なのは、普遍的な能力を定義する「能力マップ」と、環境や業務によって変化しやすい「役割」を分け、それぞれを組み合わせることだ。例えば、社内にセキュリティエンジニアという役割がある場合、その役割には「レベル4のセキュリティスペシャリストとレベル3のエンジニアの能力が求められる」といった形で、役割に必要な能力のセットを定義する。
多くの企業がスキルの定義や人材育成に取り組んできたが、職種とスキルを直接結びつけると、それぞれに異なるスキルセットを定義する必要があり、柔軟な運用が難しくなっていた。この課題を役割と能力を組み合わせることで解消したのだ。

「能力マップ」に示された普遍的な18のケイパビリティは、すべての役割に関連していく。たとえ企業ごとに異なる役割も最終的に18のケイパビリティに統合され、成長の指針となる。この仕組みのもと、認定を行い、不足するスキルはリカレント教育で補い、実務経験を通じて育成する。さらに、上位レベルの指導者が業務の中で指導し、確実なスキルアップを支援する。従来、キャリア相談は上司が中心だったが、この制度では専門家を共有し、より適切なアドバイスを受けられる環境を整えている。
Society 5.0の産業界を担う人材のキャリア支援を目指すSOMRIEの取り組みは、「SOMRIEサポーター」という形でデンソー社外にも門戸を開いている。公式サイトにて登録フォームが用意されており、各社での適用、業界展開に興味のある人たちが参加しているという。(2025年2月14日現在、135名、83社が参加)
山田氏は「今後の業界活用の展望についてお話しします。我々の仕組みは、賛同者全体で活用できるよう進めていきますので、ぜひSOMRIEサポーターとなり最新動向をキャッチアップしていただきたいです。また、学生のうちからスキル基準に沿って学び、社会に出た後も自分の能力を生かしながら成長できる環境を整えたいと考えています。我々と共に、この世界観を実現するメンバーとして活動していきませんか?」と参加を呼びかけた。
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SOMRIEメソドロジスペシャリストが語る組織改善
SOMRIEメソドロジスペシャリスト チーフの平野氏が登壇し、自身の経験を語った。医療機器のソフトウェアエンジニアを経て、2013年にデンソーに入社。エンジニアが開発しやすい環境を整えるため、ツールやプロセスの改善に取り組んできた。開発チームの負担を減らしたいと考え、プロセス改善やツール開発を進めるうちに、次第に組織全体の改善活動を任されるメソドロジストとなった。

メソドロジストは、ソフトウェア開発を行うエンジニアが効率的に業務を遂行できるよう、ツールやプロセスの改善を担う役割を持つ。デンソーではエンジニアが働きやすい環境への投資を進めており、平野氏もその一員として活躍している。
メソドロジストがいない組織では、新ツール導入の要望が直接エンジニアに届き、納期に追われる中で十分な検討ができず、問題が放置されることが多い。メソドロジストはこうした課題を解決し、ツールの選定やカスタマイズ、プロセス構築を担うことで、エンジニアが開発に専念できる環境を整える。

このような役割はコストセンターと見なされることも多いが、平野氏の組織ではメソドロジストの活躍により、5年間でエンジニアの工数を20%削減する成果を上げている。この成果の背景には、徹底した自動化があった。平野氏は、100以上のツールを使ってエンジニアの手作業を徹底的に自動化してきた。しかも、ただ自動化をするだけでなく「エンジニアが嬉しさを感じること」を念頭に活動を続けている。
成果を出すための4つのポイント
多くの組織で、メソドロジストのような役割が用意したツールやプロセスが使いにくいと思われる場合もある。エンジニアが嬉しさを感じられていない状況だ。平野氏自身も以前経験したことがあることを明かし「改善を行う際は、エンジニアファーストを重視しています。エンジニアが働きやすい環境こそが、ソフトウェア開発の生産性を最大化すると考えているからです」と、成果を出すための4つのポイントを解説した。
1つ目のポイントが、「熱意のある人たちから始める」だ。多くのエンジニアは開発環境を良くしたいと考えており、その関心を理解し、適切な改善提案を行うことが求められる。平野氏たちの活動では、イノベーター理論を活用している。
この理論は、新しい技術やアイデアが普及する過程を五つのタイプに分類し、イノベーターやマジョリティといったグループの特徴を示したものだ。マーケティングでよく取り上げられるが、改善活動の際、まず新しいものに関心が高いイノベーターをターゲットにする。そのモチベーションを高めながら、プロセスを作り込み、そこで得た実績を活用してマジョリティの関心を引くという流れで改善を進めている。このやり方は成功確率を高めるとともに、平野氏自身の工数を抑える効果もある。

2つ目のポイントが、「嬉しさの可視化」だ。イノベーターは周囲と違うことを好み、ポジティブな傾向があるが、業務が忙しくなるとモチベーションが下がりやすい。そのため、モチベーションを維持するために、成果の「嬉しさ」を見える化することを重視している。
例えば、改善活動を提案する際には、イノベーターが過去に担当したプロジェクトの工数実績をもとに、改善効果を算出する。すると活動の成果を実感しやすくなる。また、改善活動の効果を可視化したデータを定期的に関係者と共有し、達成感を共有しながら進めている。
3つ目は、「業務を高い解像度で理解する」ことだ。業務の理解度が高いほど、改善案の完成度も上がり、現場での導入時に認識のズレが生じにくくなる。そのためには、業務の各工程をインプットからアウトプットまで5W1Hで整理し把握する。たとえば、Howについてはマウスの1クリックまで分解して理解するのが理想だ。開発者がどのように作業を進めているのかを細かく把握することで、改善案の妥当性をエンジニアの視点から客観的に判断できるようになる。
平野氏は「一般的なメソドロジストは担当する領域が広いため、ここまで細かく分解して取り組む人は少ない印象です。しかし、労力はかかるものの、徹底することで現場とプロセスのギャップが大きく縮まり、最終的には定着にかかる労力も軽減されると考えています」と話す。
4つ目のポイントは「働きやすさの追求」だ。改善案を考える際、エンジニアの不要な作業を極限まで減らすことが、定着と効率化の観点で欠かせない。 例えば、組織のマネージャー向けに進捗報告の仕組みを整え、GitHubなどのツールから必要な情報を自動抽出し、進捗ダッシュボードを作成している。これにより、エンジニアがスプレッドシートに手作業で情報をまとめる手間を省き、モチベーションの上がらない業務から解放することができる。
メソドロジストの仕事の魅力について、平野氏は「技術とアイデア次第でどこまでも成果を上げられること」と語る。成果には、事業のQCD良化、新しい技術や人との出会いによる成長、そしてエンジニアのQOL向上が含まれる。特に、新しい技術にいち早く触れ、それを活用してエンジニアの笑顔を見られる点が魅力だと感じているという。
こうしたメソドロジストの活躍の場は今後さらに広がると考えられる。デンソーのソフトウェア戦略によれば、車載ソフトウェアは今後ますます大規模化し、2030年には2023年度比で3倍になると予測されている。一方、事業強化の観点から、人員の増加は1.5倍に抑える方針が示されており、そのために開発効率を2倍にする取り組みにデンソーのメソドロジストは挑戦している。
平野氏は最後に、「この仕事に興味を持った方がいれば、職場に戻った際に、隣のチームメートが笑顔になるような改善活動を一つ試してみてください。私もそこからキャリアや組織の変化が始まりました」とメッセージを送った。
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