自動運転とIT・Web領域との接点とは
ここで飯田氏は、自動運転の周辺に広がるIT・Web領域との接点に目を向けた。
たとえば、自動運転の中枢を担う自動運転システムは、ROS 2やリアルタイムOS(RTOS)、高性能なCPU/GPUアーキテクチャ上で動作し、センサー入力から制御出力までをミリ秒単位で捌く。OSやスケジューリング、通信まで含めて設計・最適化する必要があるため、OSの知識やリアルタイム制御の経験が必要とされる領域だ。
一方で、運行管理システムの開発、Webベースのフロントエンド開発、UX/UI設計といった“Web系”スキルも欠かせない。特に、車両に同乗するユーザーやオペレーター向けのヒューマン・マシン・インターフェース(HMI)は、その出来次第で自動運転の受容性を大きく左右する。
ハードウェア観点では、ドライブ・バイ・ワイヤ(電子制御)技術が不可欠だ。これは車両のステアリングやブレーキ、アクセル、シフトチェンジといった入力系統を物理制御から電子制御へと置き換えるもので、CAN通信をベースとした制御信号の出力、さらに故障時に備えた冗長構成(フォールトトレラント設計)までが求められる。
「単にモーターを取り付ければ良いという話ではなく、ステアリングアクチュエーターが故障した際に自動的にバックアップ系へ切り替えるような仕組みが求められる」(飯田氏)。これはまさに制御工学と信頼性設計の融合領域。自動運転車両が社会インフラとして稼働するには、機械の挙動そのものに安全性が内包されていなければならないわけだ。

また、物理的なセンサー配置についても、走行時の車体振動や熱変形を考慮し、LiDARやIMU(慣性センサー)などをどの部位に取り付けるかが安定動作を左右する。防水・防塵設計、ヒーター付き筐体、除雪・除水機構など、悪天候下での信頼性もハードウェア設計に求められる要素だ。
さらにクラウドサイドでは、Fleet Management System(運行管理システム)が自動運転車両の運用の鍵を握る。AWSやGCPなどを基盤としたクラウドインフラ上で、複数台の車両を一元管理するダッシュボードを構築。OTA(Over-the-Air)によるソフトウェアアップデートや、障害情報のリアルタイム監視、ログ収集・分析機能など、SaaS的な観点での設計が必要だ。
さらに、運行前のキャリブレーション、シミュレーターによる評価、AIモデルのテスト環境など、多数の周辺ツールがWebアプリケーションとして提供されており、Web業界の開発経験がそのまま活かされる領域となっている。
「IT・Webの知識を持つエンジニアが、自動運転領域に貢献できる余地は広く、深い」。飯田氏は数々の事例を挙げ、熱を込めてそう語る。