クルマづくりはSDV(Software Defined Vehicle)の時代へ
自動車産業は今、SDV(Software Defined Vehicle)という新たなパラダイムの中にある。ソフトウェアによって機能を定義し、拡張できるクルマづくり――それはテスラが先駆けたように、OTA(Over-the-Air)で常に進化するクルマを意味する。

「従来の自動車開発では、ブレーキはブレーキ、エンジン制御はエンジン制御とコンポーネント単位で分離されていた。しかし、ソフトウェアが全体を束ねるSDVの考え方では、すべての機能を1つのソフトウェアアーキテクチャ上で制御・更新することが可能になる」
飯田氏はそう説明しながら、車載システム全体をまたぐ電気電子アーキテクチャ(E/Eアーキテクチャ)の変革が、車両の設計思想を根底から塗り替えつつあることを語る。飯田氏曰く、SDV時代の到来は、車両の価値やライフサイクルの考え方そのものに影響を与えているというのだ。
「SDVの利点とは何か。まずユーザーにとっては、新しい機能や安全装備が定期的に追加されることで、車の価値が長期間維持されるメリットがある。開発者にとっても、1つの車両に対して長期的に機能追加や改善を行えるため、モデルチェンジを待たずしてユーザー体験を進化させられるという利点がある」。
ただし、と飯田氏はそのデメリットを指摘する。「ソフトウェアの比率が高まれば、それだけ評価コストも増加する。特に機能安全(FuSa)やセキュリティ要件への対応は、従来以上にシビアになる」。
こうした背景から、自動車業界でもアジャイル開発やCI/CD、DevOpsといったIT・Web業界のプラクティスが急速に取り入れられているという。

そして、そうした新時代のクルマづくりを支えるのが、同社が開発するDevOpsプラットフォーム「Web.Auto」である。

従来、コードの更新のたびに実車でテストを行うのは現実的ではなく、その非効率さが課題とされてきた。そこで同社は、仮想環境による走行・交通シミュレーション機能を整備。クラウド上に構築したCI/CDパイプラインと連携させることで、GitHubへのプッシュをトリガーに自動でシミュレーションと回帰テストを実行し、機能の安全性や性能劣化の有無を自動的に検証できるようにした。


また、AIやディープラーニング技術を活用するうえでは、評価データの収集・分類・再利用といったデータマネジメントも極めて重要な要素となる。同社では、これらの仕組みをクラウド上で一元的に管理し、モデルの学習・検証を効率化するための基盤としている。

運用面で鍵を握るのが、1人のオペレーターが数十台の車両を遠隔で管理できる「フリート管理」だ。ソフトウェアの更新や運行スケジュールの調整、障害時のリカバリ対応などの業務をWebベースのダッシュボードやモバイルアプリで一元管理できるようになっている。

さらに、無人運転が前提となる社会実装においては、「遠隔監視」の体制も欠かせない。車両に乗員がいない状況でも、常時センター側で状態を把握し、必要に応じて介入できるオペレーション体制が法規上も求められている。
「無人だからこそ、誰かが必ず見ている必要がある。現場対応とサポートの両方をクラウドで支える仕組みが求められる」

技術スタックの幅広さからも分かるように、SDVという言葉が表すのは、単なる製品のトレンドではない。その根底には、車両の価値の定義そのものを変え、ソフトウェアの力で進化し続ける製品を生み出すという思想があるのだ。