学生サークルが構築する分散型クラウド 「Nekko Cloud」が描く自宅サーバーの可能性
3番手として登壇したのは、千葉工業大学の学生3名による発表チーム。自宅サーバーをつなぎ合わせた分散型クラウド「Nekko Cloud」の構築と運用に取り組む、学生技術サークルの挑戦が紹介された。
トップバッターの菊池兼矢氏(千葉工業大学)は、学生サークル「Nekko Cloud」設立の経緯を語った。もともと自宅クラウドに取り組んでいた菊池氏は、クラスタ運用やハードウェア構築において一人での限界を感じ、仲間を募って活動を開始。学内にはクラウド開発に特化したサークルが存在しなかったため、ネットワークコンテンツ研究会の一部門として、自ら立ち上げた。

チームでは、各メンバーの自宅に設置された物理サーバーをVPNで接続して「リージョン」として管理。分散型ながら協調的に動作するプライベートクラウドを構築している。クラウドを自分たちの手で作り上げ、その知見を共有することが活動の目的だという。
続いて登壇した井上裕介氏(千葉工業大学)は、現在のNekko Cloudの構成と目指す姿を紹介した。チームでは「開発環境」としての柔軟性と、「本番環境」としての実用性を両立させることを重視。仮想マシン(VM)の自由な構築と、実サービスのホスティングを同時に実現している。

インフラ構成には、WireGuardを用いた高速VPNネットワークや、Proxmox VEによるIaaS環境を採用。地理的に離れたメンバーの自宅を接続し、数ミリ秒のラウンドトリップタイムでクラスタ通信を実現している。さらにKubernetesを重ねることでPaaSを構成し、複数のサービスをコンテナで運用している。ストレージ基盤にはCephの導入も視野に入れるなど、本格的なクラウド環境の構築が進められている。

こうして構築したクラウド環境を、どのように運用しているのかも具体的に紹介された。いわく、現在のNekko Cloudでは、Ansibleを用いてVyOSのルーター設定やVMの展開を自動化し、人的ミスの低減と再現性の確保を両立させているという。

また、サービスディスカバリの工夫や、DiscordボットによるチャットUIの導入により、技術的な操作を直感的に扱えるようにしている点も特徴的だ。インフラ構築を“触って楽しめる”体験へと昇華させることで、学生らしい遊び心と実用性の両立を実現した。

最後に登壇した永見拓人氏(千葉工業大学)は、「IaaSとPaaSの構成を逆転させる」Nekko Cloudの未来構想を語った。現在はProxmox(IaaS)の上にKubernetes(PaaS)を乗せているが、小規模環境では二重構成が管理コストの増加につながる。その解として「Kubernetes上でVMを動かす」KubeVirtの採用により、いわばIaaS on PaaS構成を目指すという。

さらに、メンバーポータルとOIDCプロバイダーの機能を兼ねた自作認証基盤「Kikkoff」も開発中。Discord認証を活用し、あらゆるサービスを統一認証で利用できるようにすることで、利便性とセキュリティの両立を目指している。
「クラウドは企業のもの」という固定観念を覆し、小規模な構成だからこその強みを楽しみながら探る──Nekko Cloudの挑戦は、技術と好奇心の融合そのものだった。