「芸術家」の視点がヒントに。観察力と感受性の力
二つ目に風間氏が紹介した重要なスキルは、「アート」の力だ。
風間氏は、長年新規事業に携わる中で、新しい事業アイデアを考えるワークショップを企画したり、また参加したりしてきた。その中で最終的な成果として「ありきたりでつまらないアイデア」が多いことに頭を悩ませてきたという。
よくあるワークショップのやり方を考えてみると、現在の課題を洗い出し、その課題をグルーピングし、課題の対応策を考える、という流れが多い。
例えば、ある農家の方に提供するサービスについてアイデアを出しあったとき、最初に課題として挙がったのは「1年間の中で非常に忙しくなるタイミングがあるが、一時的なので雇用が難しい」といった問題だった。
しかし、この課題をグルーピングすると「農業の人手不足問題」という言葉に抽象化され、「よく聞く社会課題」になってしまう。課題を洗い出す時点では、実体験に基づいた生の声を挙げていて、共感ができる内容だったのにもかかわらず、グルーピングすることで課題が抽象化され、「思い」が消えてしまうのだ。
「ワークショップのやり方がよくないのでは」と考えた風間氏は、根本的に違う方法はないか模索した。個人の思いや課題の捉え方をそのまま形にできるやり方を探す中で、「芸術家」がヒントになったという。
「芸術家は、何かを見て刺激を受けたときに、抽象化するのではなく情熱に駆り立てられて作品作りに向かいます。私たちエンジニアやSEも、世の中の動きやユーザーから刺激を受けて、サービスやソリューションを作っていく。私たちも、芸術家と同じように観察やそこから得た刺激を大事にするべきだと考えました」

開発者の立場では、「何を作るか」というアイデアは別の人が考えていることが多い。とはいえ「そのアイデアをどう理解するかによって、ユーザーにとっていいものが作れるかが変わってくる」と風間氏は言う。
エンジニアという職種においても、芸術家のように世の中を観察し、刺激を受ける感受性が重要だ。
そこで風間氏のチームでは、半年に一回美術館を訪れ、気になる作品をメモして話し合う、という取り組みを行っている。そうすることで、エンジニアに必要な観察力と感受性の力を高められるという。