相手の期待に合わせたスピード感が重要
NECソリューションイノベータは、1万人を超えるエンジニアが在籍するNECグループの社会価値創造をICTで担う中核会社。2008年に同社に入社した風間氏は、2019年から新規事業の企画から実装までに携わっている。
豊かな自然を保護するサービスや、離島での生活を支援するサービスなど、何かしらの社会課題を解決して人々がより豊かな生活を送れるようにするためのシステムを開発してきた。

そんな中、風間氏は新規事業の開発・実装を通してさまざまな失敗も経験してきた。その失敗から教訓を得て、エンジニアに求められる「3つのスキル」に気づいたという。
一つ目に重要なのは「ちょうどいいスピード感」を保つこと。これは、ある小さな島で、住民の生活を支援するサービスを開発していたときの失敗から、気づいたスキルだという。
風間氏がいつも通り、会社として必要な資料を作って住民に見せたところ「文章や絵だけではよくわからない」という反応が返ってきた。また、「(飲食店などの)本業が忙しくてまだ資料を見られていない」と言われることも多かった。
「資料を見ても『よくわからない』という人たちに対しては、私たちが必要な情報が出せていない。つまりスピードが追いついていないということ。逆に、『資料を見られていない』という人たちに対しては、私たちが先走ってしまっていたと思います」
この時、相手の期待するスピードに合わせて伴走することの重要性に気づいたという。特に、地域住民の方を巻き込んだ事業開発の場合、ITに詳しくない関係者も多い。
「相手がどういう人なのか、それを読み取ってちょうどいいスピード感でやっていく必要性がある」と風間氏。さらに言えば、「人の心をくみ取る力」が求められると強調した。
「芸術家」の視点がヒントに。観察力と感受性の力
二つ目に風間氏が紹介した重要なスキルは、「アート」の力だ。
風間氏は、長年新規事業に携わる中で、新しい事業アイデアを考えるワークショップを企画したり、また参加したりしてきた。その中で最終的な成果として「ありきたりでつまらないアイデア」が多いことに頭を悩ませてきたという。
よくあるワークショップのやり方を考えてみると、現在の課題を洗い出し、その課題をグルーピングし、課題の対応策を考える、という流れが多い。
例えば、ある農家の方に提供するサービスについてアイデアを出しあったとき、最初に課題として挙がったのは「1年間の中で非常に忙しくなるタイミングがあるが、一時的なので雇用が難しい」といった問題だった。
しかし、この課題をグルーピングすると「農業の人手不足問題」という言葉に抽象化され、「よく聞く社会課題」になってしまう。課題を洗い出す時点では、実体験に基づいた生の声を挙げていて、共感ができる内容だったのにもかかわらず、グルーピングすることで課題が抽象化され、「思い」が消えてしまうのだ。
「ワークショップのやり方がよくないのでは」と考えた風間氏は、根本的に違う方法はないか模索した。個人の思いや課題の捉え方をそのまま形にできるやり方を探す中で、「芸術家」がヒントになったという。
「芸術家は、何かを見て刺激を受けたときに、抽象化するのではなく情熱に駆り立てられて作品作りに向かいます。私たちエンジニアやSEも、世の中の動きやユーザーから刺激を受けて、サービスやソリューションを作っていく。私たちも、芸術家と同じように観察やそこから得た刺激を大事にするべきだと考えました」

開発者の立場では、「何を作るか」というアイデアは別の人が考えていることが多い。とはいえ「そのアイデアをどう理解するかによって、ユーザーにとっていいものが作れるかが変わってくる」と風間氏は言う。
エンジニアという職種においても、芸術家のように世の中を観察し、刺激を受ける感受性が重要だ。
そこで風間氏のチームでは、半年に一回美術館を訪れ、気になる作品をメモして話し合う、という取り組みを行っている。そうすることで、エンジニアに必要な観察力と感受性の力を高められるという。
検証の壁を乗り越えるために必要な、ビジネスの視点
三つ目に重要なスキルとして紹介されたのは、「ビジネスの考え方」だ。エンジニアもビジネスを理解しておくに越したことはないが、具体的にどのようなスキルが求められるのか。
風間氏は「新規事業の検証をするが、その後が続かない」という失敗の経験を共有した。アイデア創出から企画、検証まではスムーズに進むが、本格的な実装やローンチでつまずいてしまうことが多々あるという。検証の結果、アイデア創出時の想定と同じであることが分かったのにもかかわらず、次に進まないのである。
その原因を、「事業計画に問題があるからだ」と風間氏は指摘する。
「つまり、単にアイデアが良くて、それが技術的に実現できることを証明するだけでは不十分。ビジネスとして成立するかどうかまで落とし込んで考えなければいけません」と語り、事業の目的を見つめ直すことが必要だと強調した。
その事業で何を目指すのか、どういった仕組みでマネタイズするのかによって、検証の内容も変わってくるはずだ。
検証から先に進まないプロジェクトでは、ビジネスの目的に対して検証に過不足がある可能性がある。特に「検証が過剰なことが多い」と風間氏。
「あくまで検証の段階なので、失敗するならもっと早く失敗しないといけないはず。しかし、過剰な検証をやってしまうことが起こりやすいと思います」

デザイン思考の基本に基づくと、最初のプロトタイプは約30分で作ってユーザーに意見を求めるのが理想だ。アイデアから検証まで、あまりに期間が開いてしまうとユーザーのニーズも変わってしまう可能性がある。
「エンジニアはビジネスに関してそこまで考えなくてもよいのでは、と思うかもしれませんが、ビジネスは検証の内容にかかわってきます。最後まで走り切るためにはビジネスの視点が不可欠です」
風間氏がここまで紹介した「3つのスキル」は、実際の経験を通して身につけるべきだと感じた重要な力だ。風間氏自身も、「これからも新規事業に携わっていくうえで、持っておきたい心構え」だという。
しかし、風間氏がそれ以上に重視しているのが「社会課題を解決すること」だ。エンジニアとして働くうえでもっともやりがいに感じていることだと話す。
「今回は3つのスキルを紹介しましたが、それ以上に『自分が社会に対して何がやりたいのか』を考えることが大事。自分が社会で果たしたい役割を、常に見つめていきたい」と語り、セッションを締めくくった。
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