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Developers Summit 2025 Summer セッションレポート

Vibe Coding実用化のカギは「手軽さ」と「周りを巻き込む力」──メルカリKuu氏に学ぶ泥臭い第一歩

【18-A-7】Vibe Codingの幻想を超えて──生成AIを現場で使えるようにするまでの泥臭い話

技術的基盤の構築と、知識ギャップの解消で、壁を乗り越える

 課題解決の方法としてKuu氏がまず取り組んだのが、技術的基盤の構築だ。

 メルカリでは、AIツールの利用契約を個人ではなく、会社がまとめて行う。これによって、例えばGitHub Copilotの場合は、チームプランの設定で強制的に社員が入力したプロンプトをコード学習から切り離すことができる。他にもLLMプロキシサービスの「LiteLLM」というサービスを使えば、「誰がなんの入力をして、どんな返答がきたか」を会社として記録することが可能だ。

 中央集権的な管理は、エンジニア側にも多くのメリットがある。そのひとつが、個人でベンダーと契約せずとも、安全で自由に使えるAPIを手軽に発行してもらえることだ。また、一人当たりの予算キャップを設定することで、無限ループなどの意図しないリソースの消費を防ぐことができる。

 さらに、あらゆる点で省力化を図ることも重要だ。

 メルカリでは、「IT Service agent」という機能をSlackに導入し、ボットとのやり取りだけでライセンスを自動発行する仕組みを構築した。これにより、社員がツールを利用するハードルは極限まで下がり、会社側は利用していないユーザーを自動で非アクティブにできる。使い始めの気軽さと、コスト管理の両面で、非常に有用な取り組みだったとKuu氏は振り返る。

 加えて、持続可能なサポート体制の整備も大切だ。

 Kuu氏は当初、ソフトウェアエンジニアとしての本業を抱えながら、AIツールに関する質問にDMで最大限応えていた。しかし、1対1のDMではその場限りの労力になってしまい、スケールすることが難しい。

 そこで、後から検索できるように、全社横断のSlackチャンネルを作成して情報を残すことにした。同社の場合、社員数が多いことから、Copilot、Claude、CodeWhispererといったツールごとのチャンネルを作成し、それぞれで情報を集約。作るだけでなく、情報交換が活発になるような雰囲気作りにも努めた。

 この取り組みの結果、エンジニアに限らず、非エンジニア職の人からも気軽に質問が来るように。そこには、通常であれば明文化しないような「監査用LLMサーバーの設定方法」といったクリティカルな質問も含まれていた。Kuu氏は「ドキュメントという形で、情報が明確に残るというメリットもありました」と振り返る。

 さらに、知識ギャップを解消する方策として、会社内で勉強会を開催した。

 社内の知見を共有するLT(ライトニングトーク)形式の勉強会に加え、Kuu氏は外部の勉強会を自社会場で開催する取り組みも行った。「自社で行われ、かつ平日の夜の勉強会は、出社のついでに気軽に参加することができる」と、その効果を説明する。

 この外部勉強会には、一般社員だけでなく、CDOやVPoEも積極的に招待。マネジメント層にもリアルの熱気を体感してもらうことで、例えば予算面での考慮など、開催にあたってのハードルを少し下げることができた。

 学習機会の創出として、超初心者向けのハンズオンも実施。非エンジニアを中心に、GitHubやVisual Studio Codeなど、AI活用の第一歩となるツールを理解してもらうためだ。具体的にはCopilotを使ってコードの説明、バグ修正、独自のルール追加による実装を一緒に行った。

 勉強会やSlackチャンネルで一定期間そういった情報を流し続けることで、周囲の人は自然と基礎知識が身につき、何かあったときにキャッチアップしやすくなった。実際に、同社のモバイルアプリチームでは2025年4月頃からほぼ全員がAIを活用して開発を進めている。

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メルカリが始める全社的なAI活用推進――次のステップで見えてきた課題とは

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この記事の著者

中野 佑輔(編集部)(ナカノ ユウスケ)

 SIer勤務を経て2025年6月よりCodeZine編集部所属。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

山出 高士(ヤマデ タカシ)

雑誌や広告写真で活動。東京書籍刊「くらべるシリーズ」でも写真を担当。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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https://codezine.jp/article/detail/22525 2025/11/19 11:00

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