メルカリが始める全社的なAI活用推進――次のステップで見えてきた課題とは
7月から、メルカリでは組織的なAI活用の推進体制として「AIタスクフォース」が始まった。この組織は、Kuu氏のようなエンジニアが、開発組織だけでなく、労務や法務などさまざまな部署にアサインされ、全社的にAIの活用を進めていくものだ。「大事なのは、エンジニアだけが活用すれば良いのではなく、メルカリ全体の動きにしていくこと」と、Kuu氏はその狙いを語る。

全社的な取り組みの第一歩は、既存業務プロセスの明文化だ。これにより、AIがうまく適用できそうなところを見つけ出す。ドキュメント化の施策を進める中で、エンジニアリング以外の部署のほうが比較的明文化が済んでいるという、意外な発見もあった。
エンジニアに焦点を当てると、現在のAI活用はコーディング作業など、局所的なものに留まっていた。しかし、プロダクトマネージャーが担っていた部分、BI担当者が担う部分など、すべてのロールに対して何か統合や導入できるところはないか。Kuu氏が目指すのは、一部分に収まらない、AI活用による開発プロセスの根本的な改善だ。
一方、全社的な取り組みを阻む一要素に情報共有の問題がある。あるチームでAI活用が進んでいても、その知見が他のチームにうまく共有されないのだ。「チームやドメイン、リポジトリをまたいだ情報共有や取得が問題になっている。例えば、ソースコード、AIによる実装の詳細、仕様、またなぜその仕様が存在するのかという背景情報、ほかのチームの開発スケジュールなど、情報共有に改善点があった」とKuu氏は語る。
しかし、情報を要約し、「すべて」をサポートするソリューションはいまだ見つかっていない。ソースコードの検索に強い、ドキュメントの検索に強い、どちらかはあっても両方をサポートし、情報を組み合わせてくれるソリューションとなると難しい。仮に存在したとしても、「人間の情報処理能力が先に限界を迎えるのではないか」とKuu氏は推測する。
最後にKuu氏は、メルカリのバリューに沿って、同社でのAI活用推進の学びをまとめた。
まずは「Go Bold」。これは、技術を駆使して、とにかくAIを活用しやすい環境を作ることだ。同社の取り組みでは、ライセンスの自動発行などがこれにあたる。
次に「All for One」。自分1人で何かをするのではなく、隣の席に座っている人に手伝ってもらい、その人はさらに隣の人に手伝ってもらう。そうやって皆で取り組むことで、新たな技術は浸透していく。メルカリでは、Kuu氏やそのほかのメンバーがAI活用のインフルエンサーとなってその雰囲気作りに努めた。
「Be a Pro」は、プロフェッショナルとして本気で取り組むこと。今回のお話の中では、外部の勉強会を自社会場で開催する取り組みがあった。それもCTO(最高技術責任者)やVPoE(VP of Engineering)を呼んで、リアルな熱意を伝えていくのだ。
最後に、「Move Fast」は、フットワークを軽く、最新技術をキャッチアップし続ける姿勢だ。AIの進化はとにかく早く、1週間ごと、日ごとに変わっていくからこそ、その姿勢が大事になる。

AI活用の壁にぶつかった時は、Kuu氏の泥臭くも前向きな取り組みを参考に、ぜひ立ち向かってほしい。
