クラウドコンピューティングとは何か
クラウドの基本概念
クラウドコンピューティング(以下、クラウド)とは、インターネットを経由してコンピューティングリソース(サーバー、ストレージ、データベース、ネットワーク、ソフトウェアなど)を、必要な時に必要な分だけ利用するサービスの形態を指します。従来、企業や個人はハードウェアやソフトウェアを自前で「所有」していましたが、クラウドの登場により、これらをサービスとして「利用」する形へとパラダイムシフトが起こりました。
エンジニアの視点から見れば、物理的なハードウェアの調達、ラッキング、配線、OSのインストールといった物理層・低レイヤーの管理から解放され、APIを通じて瞬時にインフラをコードとして制御(Infrastructure as Code)できる点が最大の特徴です。これにより、開発のリードタイムが劇的に短縮され、ビジネスの要求に対する俊敏性(アジリティ)が向上します。
クラウドの歴史と進化
クラウドの概念は、1960年代のメインフレーム時代の「タイムシェアリングシステム」に端を発し、1990年代のインターネットの普及、そして2000年代の仮想化技術の成熟を経て確立されました。特に2006年にAmazon Web Services(AWS)がAmazon EC2をリリースしたことは、ITインフラの歴史における転換点となりました。
初期のクラウドは、単なる仮想サーバーの貸し出し(IaaS)が中心でしたが、その後、プラットフォームを提供するPaaS、ソフトウェア機能を提供するSaaSへと多様化しました。現在では、サーバーレスコンピューティング、コンテナオーケストレーション(Kubernetes)、AI/機械学習プラットフォーム、量子コンピューティングなど、高度なマネージドサービスが提供され、単なるインフラの代替ではなく「イノベーションを加速させるプラットフォーム」へと進化を続けています。
クラウドコンピューティングの利点
エンジニアにとってのクラウドの利点は多岐にわたります。
| スケーラビリティ(拡張性) | トラフィックの増減に応じて、リソースを自動的にスケールアップ・スケールアウトできます。キャンペーンや突発的なアクセス増にも、サーバーダウンのリスクを最小限に抑えられます。 |
| コスト効率 | 初期投資(CAPEX)が不要で、従量課金制(OPEX)により実際に使用した分だけコストが発生します。開発環境や検証環境を必要な時間だけ起動することで、無駄なコストを削減できます。 |
| スピードとアジリティ | 数クリック、あるいは数行のコードでサーバーを立ち上げられるため、アイデアを即座にプロトタイプ化し、市場投入までの時間を短縮できます。 |
| グローバル展開 | 主要なクラウドプロバイダーは世界中にデータセンター(リージョン)を持っています。数分で世界中のユーザーに対して低遅延なサービスを提供することが可能です。 |
クラウドとオンプレミスの比較
オンプレミス(自社運用)とクラウドの最大の違いは「責任範囲」と「資産の持ち方」にあります。オンプレミスは、ハードウェアの選定から廃棄まで全てのライフサイクルを自社で管理する必要があります。これは自由度が高い反面、運用保守の工数が大きく、リソースの増減に柔軟に対応できないというデメリットがあります。
一方、クラウドはインフラの運用をプロバイダーにオフロードできます。ただし、セキュリティ設定やアプリケーションの構成などはユーザー側の責任(責任共有モデル)となるため、クラウド特有のセキュリティ知識が求められます。近年では、機密性の高いデータはオンプレミスに残し、フロントエンドや計算処理はクラウドで行う「ハイブリッドクラウド」を選択する企業も増えています。
クラウドの種類と選択基準
クラウドサービスは、提供されるレイヤーによって主に3つに分類されます。
| IaaS(Infrastructure as a Service) | サーバー、ストレージ、ネットワークなどのインフラ機能を提供。OSやミドルウェアを自由に選択できるため、既存システムの移行や細かいチューニングが必要な場合に適しています(例: Amazon EC2、Google Compute Engine)。 |
| PaaS(Platform as a Service) | アプリケーションの実行環境や開発ツールを提供。インフラ管理を気にせず、コードの記述に集中できるため、新規開発やWebアプリケーションに適しています(例: Google App Engine、Azure App Service)。 |
| SaaS(Software as a Service) | ソフトウェアをインターネット経由で利用。メール、CRM、ストレージなど、完成された機能を利用する場合に適しています(例: Google Workspace、Salesforce)。 |
選択にあたっては、「制御の自由度」と「運用負荷の軽減」のトレードオフを考慮し、プロジェクトの要件に最適なモデルを選定することが重要です。
主要なクラウドプロバイダーの比較
Google Cloudの特徴とサービス
Google Cloud(旧GCP)は、Googleが自社の検索エンジンやYouTubeなどの大規模サービスを支えるために構築したインフラと同じ技術を利用できるクラウドサービスです。
最大の特徴は、データ分析とAI/機械学習分野における圧倒的な強みです。超高速なデータウェアハウスである「BigQuery」や、TensorFlowとの親和性が高いAIサービス群は、データドリブンな開発を目指すエンジニアから高い支持を得ています。また、コンテナオーケストレーションの事実上の標準であるKubernetesをGoogleが開発した経緯から、「Google Kubernetes Engine(GKE)」の完成度が高く、モダンなアプリケーション開発において強力な選択肢となります。ネットワークインフラも強力で、Google独自のグローバルファイバーネットワークを利用するため、低遅延かつ安定した通信が期待できます。
AWSの特徴とサービス
Amazon Web Services(AWS)は、クラウドコンピューティング市場のパイオニアであり、最大のシェアとサービス数を誇ります。
エンジニアにとっての魅力は、そのエコシステムの巨大さと成熟した技術の信頼性です。ドキュメント、技術記事、サードパーティ製ツール、対応するエンジニアの数が圧倒的に多く、トラブルシューティングや情報収集がしやすいという特徴があります。サービスラインナップは200を超え、基本的なWebホスティングから、衛星データの受信(AWS Ground Station)、ブロックチェーン、量子コンピューティングまで、あらゆるユースケースに対応可能です。エンタープライズからスタートアップまで幅広く採用されており、「AWSを選んでおけば間違いがない」という安心感も選定の大きな要因となっています。
Microsoft Azureの特徴とサービス
Microsoft Azureは、Windows ServerやActive Directory、Office 365といったマイクロソフト製品との親和性が非常に高いクラウドサービスです。
多くの企業が既に導入しているMicrosoftのオンプレミス環境との連携(ハイブリッドクラウド構成)が容易であり、エンタープライズ企業を中心にシェアを拡大しています。開発ツールであるVisual StudioやGitHubとの統合も進んでおり、.NET系の開発者にとっては非常に快適な開発環境を提供します。近年ではOpenAIとの提携により、Azure OpenAI Serviceなどを通じて生成AIの分野でも強力なリーダーシップを発揮しています。
他のクラウドプロバイダーの比較
主要3社以外にも、特定のニーズに特化したクラウドプロバイダーが存在します。
| Oracle Cloud Infrastructure(OCI) | データベース最大手のOracleが提供。Oracle Databaseの運用に最適化されており、特に基幹システムのクラウド移行において強みを発揮します。 |
| IBM Cloud | AI(Watson)やハイブリッドクラウド、特に金融業界などで求められる高度なコンプライアンス要件に対応するソリューションに定評があります。 |
| Alibaba Cloud | アジア太平洋地域、特に中国市場向けのサービス展開において必須の選択肢となります。 |
価格とコスト最適化の方法
クラウドの価格体系は主に「従量課金制」ですが、単に使い続けるだけではコストが膨らむリスクがあります。エンジニアはコスト最適化(FinOps)の視点を持つことが重要です。
| リザーブドインスタンス/確約利用割引 | 1年または3年の長期利用をコミットすることで、大幅な割引(最大70%程度)を受ける仕組みです。常時稼働するベースロード部分に適用します。 |
| スポットインスタンス/プリエンプティブルVM | クラウド側の余剰リソースを安価に利用する仕組みです。中断される可能性がありますが、バッチ処理やステートレスなアプリケーションでは劇的なコスト削減が可能です。 |
| オートスケーリング | 負荷に応じてリソースを自動増減させ、不要なアイドルタイムの課金を防ぎます。 |
| コスト管理ツールの活用 | AWS Cost ExplorerやGoogle Cloud Billing Reportsなどを利用し、リソースごとのコストを可視化・分析し、無駄なリソース(ゾンビサーバーや未接続のストレージ)を定期的に削除します。 |
クラウドアーキテクチャの基礎
クラウドインフラストラクチャの構成要素
クラウドアーキテクチャを理解するためには、データセンター、リージョン、アベイラビリティゾーン(AZ)という物理的な構成要素を知る必要があります。
リージョンは地理的に離れた独立したエリア(例:東京リージョン、大阪リージョン)を指し、アベイラビリティゾーン(AZ)はリージョン内で互いに物理的に隔離された(電源やネットワークが独立した)データセンター群を指します。
エンジニアは、単一のAZに依存するのではなく、複数のAZにリソースを分散配置する「マルチAZ構成」をとることで、データセンターレベルの障害が発生してもサービスを継続できる高い可用性(Availability)を設計します。
仮想化とコンテナ技術
クラウドの根幹技術である仮想化(Virtualization)は、ハイパーバイザーを用いて1台の物理サーバー上で複数の仮想マシン(VM)を稼働させる技術です。これによりリソースの効率利用が可能になりました。
近年、より軽量で可搬性の高いコンテナ技術(Dockerなど)が主流になりつつあります。コンテナはOSのカーネルを共有し、アプリケーションと依存ライブラリをパッケージ化するため、VMに比べて起動が高速で、リソース消費も少なくて済みます。これにより、「開発環境では動いたが本番環境では動かない」という環境差異の問題を解決し、CI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)のパイプライン構築を容易にします。
サーバレスとマイクロサービスアーキテクチャ
サーバレス(Serverless)は、サーバーのプロビジョニングや管理を意識せずにコードを実行できるモデルです(FaaS: Function as a Service)。リクエストがあった時だけ関数が起動し、実行時間に対してのみ課金されるため、運用負荷とコストを最小化できます。
また、巨大な一枚岩のアプリケーション(モノリス)を、機能ごとに独立した小さなサービス群に分割するマイクロサービスアーキテクチャもクラウドネイティブな設計として注目されています。各サービスを疎結合にすることで、特定の機能だけを個別に開発・デプロイ・スケールさせることが可能になり、大規模な開発チームでも迅速な開発サイクルを回せるようになります。
ネットワークとストレージの設計
クラウド上のネットワーク設計では、VPC(Virtual Private Cloud)という論理的に隔離された仮想ネットワーク空間を作成します。その中にサブネットを切り、Webサーバーなどの公開リソースはパブリックサブネットへ、データベースなどの非公開リソースはプライベートサブネットへ配置し、インターネットからの直接アクセスを遮断するのが定石です。
ストレージに関しては、用途に応じて使い分ける知識が必要です。
| ブロックストレージ | サーバーに直接マウントする高速なディスク(OSやDB用)。 |
| オブジェクトストレージ | 画像、動画、ログファイルなどをHTTP経由で保存する容量無制限のストレージ(S3、Google Cloud Storage)。高い耐久性と安価なコストが特徴です。 |
クラウドセキュリティの重要性
クラウド利用において最も重要な概念が「責任共有モデル(Shared Responsibility Model)」です。
クラウドプロバイダーは「クラウドのセキュリティ」(ハードウェア、データセンター、ネットワークインフラなど)に責任を持ちますが、ユーザーは「クラウドにおけるセキュリティ」(OSのパッチ適用、ファイアウォール設定、IAMによるアクセス権限管理、データ暗号化など)に責任を負います。
「クラウドだから安全」と過信せず、最小権限の原則に基づいたIAM設計、セキュリティグループによる通信制御、WAF(Web Application Firewall)の導入など、多層的な防御策を講じることがエンジニアの責務です。
Google Cloudの仕組みを深掘り
Google Cloudの提供する主要サービス
Google Cloudの主要サービスは、コンピュート、ストレージ、データベース、ネットワーキング、ビッグデータ、AIなど多岐にわたります。
基盤となるGoogle Compute Engine(GCE)は、柔軟な仮想マシンを提供し、ライブマイグレーション機能によりメンテナンス時も停止しない可用性を誇ります。Google App Engine(GAE)は、PaaSの先駆けであり、インフラ管理不要でアプリケーションをデプロイできるため、開発への集中を可能にします。ネットワーク面ではCloud Load Balancingが強力で、単一のエニーキャストIPアドレスで世界中のトラフィックを処理し、リージョンを跨いだ負荷分散をシームレスに実現します。
Google Cloudでのデータ分析
Google Cloudを採用する最大の理由として挙げられるのがデータ分析基盤です。BigQueryは、サーバーレスでスケーラブルなデータウェアハウスであり、ペタバイト級のデータに対しても数秒でSQLクエリを実行できます。インデックス設計やチューニングが不要で、データを放り込めばすぐに超高速な分析が可能になるため、データエンジニアやアナリストにとって魔法のようなツールです。
また、データ処理パイプラインを構築するDataflowや、可視化ツールのLooker Studioと組み合わせることで、データの収集・加工・分析・可視化までを一気通貫で行う最新のデータプラットフォームを構築できます。
Google Kubernetes Engine(GKE)
Google Kubernetes Engine(GKE)は、コンテナ化されたアプリケーションのデプロイ、管理、スケーリングを行うためのマネージドKubernetesサービスです。
KubernetesはGoogleが開発しCNCFに寄贈したオープンソースですが、GKEはその「本家」が提供するサービスとして、最新機能の提供が早く、運用管理機能(自動修復、自動アップグレードなど)が非常に充実しています。エンジニアはKubernetesクラスタのマスターノード(コントロールプレーン)の管理から解放され、アプリケーションの開発とポッド(Pod)の定義に集中できます。GKE Autopilotモードを使えば、ノードの管理すら不要になり、さらに運用負荷を下げることができます。
Google Cloud Functionsを使ったサーバレス
Cloud Functionsは、イベント駆動型のサーバーレスコンピューティングサービスです。
HTTPリクエスト、Cloud Storageへのファイルアップロード、Pub/Subへのメッセージ着信などをトリガーとしてコードを実行できます。例えば、「画像がアップロードされたら自動的にサムネイルを生成する」「ログに特定のエラーが出たらSlackに通知する」といった処理を、サーバーを常時起動することなく実装できます。他のGoogle Cloudサービスとの連携(グルーコード)として機能し、システム全体をイベントドリブンなアーキテクチャへと進化させます。
BigQueryを使用したデータ処理
BigQueryは単なるデータベースではなく、強大な計算リソースを備えた分析エンジンです。
従来のRDBでは処理しきれないログデータやIoTセンサーデータなどをJSON形式のまま取り込み、ネストされたデータ構造に対しても柔軟にクエリを投げることができます。また、BigQuery MLを使用すると、SQLを書くだけで機械学習モデルの作成・トレーニング・予測が可能になります。これにより、専門的なPythonやRの知識がないデータアナリストでも、既存のSQLスキルを使って高度な予測分析を行うことが可能となり、データ活用の民主化を推進します。
AWSのエンジニアリング視点
AWSサービスの概要と使い方
AWSは「ビルディングブロック」の思想で作られています。各サービスは単機能のブロックとして提供され、エンジニアはこれらをレゴブロックのように組み合わせてシステムを構築します。
管理は、GUIベースのAWS Management Consoleだけでなく、AWS CLI(Command Line Interface)やSDK、さらにはAWS CloudFormationやTerraformといったIaCツールを通じて行うのが一般的です。エンジニアリングの現場では、GUIで試行錯誤(PoC)を行い、本番環境への適用はコード化して自動化するというフローが定着しています。
Amazon S3でのデータストレージ管理
Amazon Simple Storage Service(S3)は、高い耐久性(99.999999999%:イレブンナイン)を持つオブジェクトストレージです。
Webサイトの静的ホスティング、バックアップデータの保存、データレイクとしての利用など、AWSアーキテクチャの中心に位置します。ライフサイクルポリシーを設定することで、頻繁にアクセスするデータは標準クラスに、長期保存データは安価なGlacierクラスに自動的に移動させるなど、コスト最適化が容易に可能です。また、イベント通知機能により、S3へのファイル保存をトリガーにLambdaを起動するなど、システム連携のハブとしても機能します。
Amazon EC2でのインスタンス管理
Amazon Elastic Compute Cloud(EC2)は、リサイズ可能なコンピュート容量を提供するWebサービスです。E
汎用、コンピューティング最適化、メモリ最適化、GPU搭載など、数百種類のインスタンスタイプから用途に最適なものを選択できます。エンジニアはAmazon Machine Image (AMI)を使用して、OSやアプリケーションの設定済みのイメージを作成・共有し、スケーリング時に全く同じ構成のサーバーを大量に起動することができます。Auto Scalingグループと組み合わせることで、CPU使用率などのメトリクスに基づいた自動的な台数調整が可能になります。
AWS Lambdaによるサーバレスアプリケーション
AWS Lambdaは、サーバーレスコンピューティングのパイオニア的存在です。
コードを実行するインフラを意識する必要がなく、API Gatewayと組み合わせることで、サーバーレスなWeb APIを容易に構築できます。従来のEC2ベースのアプリケーションと比較して、待ち受け時間のコストがゼロになるため、アクセス頻度に波があるシステムや、散発的なバッチ処理において圧倒的なコストパフォーマンスを発揮します。また、VPC内のリソース(RDSなど)にもアクセス可能であり、エンタープライズシステムの重要なコンポーネントとしても広く利用されています。
AWSクラウドセキュリティベストプラクティス
AWSでのセキュリティ設計において、AWS Identity and Access Management(IAM)の理解は避けて通れません。
「誰が(認証)」「どのリソースに対して」「どのような操作を(認可)」許可するかをJSON形式のポリシーで細かく定義します。ベストプラクティスとして、ルートユーザーの使用は避け、作業者ごとにIAMユーザーを作成し、MFA(多要素認証)を有効化すること、そしてIAMロールを使用してEC2やLambdaなどのリソースに一時的な権限を付与することが推奨されます。また、AWS CloudTrailによる操作ログの全記録、Amazon GuardDutyによる脅威検知などを組み合わせ、堅牢なセキュリティ態勢を構築します。
Microsoft Azureの開発エコシステム
Azureの概要とエコシステム
Microsoft Azureは、世界中の企業の基幹システムを支えてきたMicrosoftの技術力を結集したクラウドプラットフォームです。
エンジニアにとっての最大のメリットは、Microsoft製品および開発ツールとの圧倒的な親和性です。統合開発環境であるVisual StudioやVS Codeから直接Azureへデプロイできるほか、ID管理基盤であるMicrosoft Entra ID(旧Azure Active Directory)を利用して、オンプレミスとクラウドの認証をシームレスに統合できます。これにより、企業ユースで最も重要視されるガバナンスと生産性を高いレベルで両立させています。また、オンプレミス、マルチクラウド、エッジ環境を統合管理するAzure Arcにより、ハイブリッドクラウド運用の複雑さを解消できる点も大きな特徴です。
Azure App ServiceとVirtual Machines
コンピュートサービスにおいて、AzureはPaaSに強みを持っています。
Azure App Serviceは、WebアプリケーションやREST APIを構築・ホストするためのフルマネージドPaaSです。.NETはもちろん、Java、Node.js、Pythonなど多様な言語をサポートし、インフラの管理をすることなく、オートスケーリングや負荷分散機能を備えたアプリケーションを数クリックで公開できます。
もちろん、IaaSであるAzure Virtual Machine(VM)も強力です。Windows Serverだけでなく、Linuxディストリビューション(Ubuntu、Red Hat等)もファーストクラスでサポートされており、既存システムの移行先として柔軟な選択が可能です。
Azure Blob Storageでのデータ管理
Azure Blob Storageは、AWSのS3やGoogle Cloud Storageに相当する、大容量データを保存するためのオブジェクトストレージサービスです。
テキストやバイナリデータなどの非構造化データを大量に格納するのに適しています。アクセス頻度に応じて「Hot(頻繁にアクセス)」「Cool(時々アクセス)」「Archive(長期保存)」のアクセス層(ティア)を使い分けることで、ストレージコストを最適化できます。また、エンタープライズグレードのセキュリティ機能を標準で備えており、保存データの暗号化や、Role-Based Access Control (RBAC) によるきめ細やかなアクセス制御が可能です。
Azure Functionsによるイベント駆動開発
Azure Functionsは、Azureのサーバレスコンピューティングサービスです。
AWS Lambdaなどと同様にコードを実行しますが、特筆すべきは「トリガーとバインディング」という概念です。Blob Storageへのファイル追加、HTTPリクエスト、Cosmos DBの更新といった「トリガー」と、処理結果の出力先である「バインディング」を宣言的に定義することで、接続のためのボイラープレートコード(定型的な接続コード)を極限まで減らすことができます。これにより、エンジニアはビジネスロジックの記述だけに集中でき、開発効率が飛躍的に向上します。
Azure OpenAI ServiceとAI活用
現在、Azureを選ぶ最も強力な動機となっているのがAzure OpenAI Serviceです。
ChatGPTやGPT-4、DALL-EといったOpenAI社の最先端AIモデルを、Azureのセキュリティとコンプライアンス基準の下で利用できます。API経由でこれらのモデルを呼び出し、自社データと組み合わせたRAG(検索拡張生成)システムや、社内用AIチャットボットを安全に構築することが可能です。AI開発の民主化においてAzureは現在リードしており、最先端の技術をビジネスアプリに組み込みたいエンジニアにとって、必須のプラットフォームとなっています。
クラウドを活用したプロジェクト事例
クラウド導入による企業の成功事例
多くの企業がクラウド導入によりビジネスを変革しています。例えば、ある大手小売企業では、オンプレミスのデータセンターを全廃しクラウドへ全面移行(リフト&シフト)しました。これにより、ハードウェア更新の5年ごとの「更改プロジェクト」という莫大な労力から解放され、エンジニアリソースを新規サービスの開発に集中させることができました。結果として、ECサイトの機能改善サイクルが数ヶ月単位から数週間単位へと高速化し、売上の向上に直結しました。
クラウドの活用によるコスト削減効果
クラウドは「所有から利用へ」の変化により、コスト構造を変革します。あるメディア企業では、ニュース速報時にアクセスが通常の100倍になるスパイクが発生していましたが、オンプレミス時代は最大負荷に合わせてサーバーを用意していたため、平時は90%以上のリソースが無駄になっていました。クラウド移行後はオートスケーリングを活用し、通常時は最小限の構成、アクセス集中時のみ自動拡張する構成にすることで、インフラコストを約60%削減することに成功しました。
クラウドサービスを利用したスタートアップの事例
資金と人材が限られるスタートアップにとって、クラウドは不可欠なインフラです。あるFinTechスタートアップは、初期段階からサーバーレスアーキテクチャ(AWS Lambda, DynamoDBなど)を全面的に採用しました。これにより、インフラ専任のエンジニアを雇うことなく、アプリケーションエンジニアだけでサービスを構築・運用することに成功。運用コストを極限まで抑えつつ、ユーザー数の急増にも耐えうるスケーラビリティを確保し、短期間での急成長を実現しました。
ハイブリッドクラウド戦略における成功事例
全てのシステムをクラウド化することが正解とは限りません。ある金融機関では、勘定系システムなどの高い機密性と低遅延が求められるコア部分はオンプレミスに残し、インターネットバンキングや顧客分析基盤などのフロントエンド・情報系システムにはクラウドを採用するハイブリッドクラウド戦略をとりました。専用線接続(AWS Direct ConnectやGoogle Cloud Interconnect)を利用して両者をセキュアに接続することで、堅牢なセキュリティと最新技術による利便性の両立を実現しています。
クラウドによるスケーラブルシステム構築事例
世界的なゲーム会社では、新作タイトルのローンチ時に数百万人のユーザーが同時接続します。この予測困難なトラフィックを捌くため、コンテナ技術(Kubernetes)とクラウドのグローバルロードバランサを活用しました。世界中のリージョンにゲームサーバーを分散配置し、プレイヤーを地理的に最も近いサーバーへ自動誘導することで遅延を最小化。さらに、ユーザー数の増減に合わせてコンテナ数を秒単位で増減させることで、サーバーダウンさせることなく大規模ローンチを成功させました。これはクラウドの弾力性(エラスティシティ)を最大限に活かした好例です。
【まとめ】クラウド技術習得、次のステップ
クラウドの基礎から主要サービスの比較、実践的なアーキテクチャまでを解説しましたが、クラウド技術の習得に最も効果的なのは「実際に触ってみること」です。
AWS、Google Cloud、Azureはいずれも「無料利用枠」を提供しています。まずはアカウントを作成し、仮想サーバーを1台立ててWebページを表示してみる、あるいはS3にファイルをアップロードしてみることから始めてみませんか? 小さな「Hello World」が、あなたのエンジニアとしてのキャリアを大きく広げる第一歩になるはずです。CodeZineでは今後も実践的なハンズオン記事も掲載していきますので、ぜひ会員登録をして最新情報をチェックしてください。
