なぜBPaaSを目指すのか、中小企業の課題とkubellの戦略
平本氏によれば、kubellがBPaaSに取り組み始めたきっかけは、ビジネスチャット「Chatwork」の主な顧客である中小企業ユーザーの声だったという。もともとkubellは、Chatwork事業と並行して、中小企業のDX推進のために最適なソリューションを提案する「Chatwork DX相談窓口」で他社SaaSの導入も提案してきた。その過程で見えてきた課題は、中小企業の人手不足だった。例えば、多くの中小企業は、大企業とは異なり経理や労務などのバックオフィス担当者がIT担当者を兼任している。そのため、SaaS導入に興味があっても、導入や運用管理、社内オンボーディングに十分な時間やコストを割くことができないのだ。
そこでkubellは発想を転換した。SaaS導入のための人手が足りないなら、kubellが中小企業のバックオフィス業務を丸ごと担えば良い。しかし、単に人手を提供するだけなら、従来の業務アウトソースと変わらない。そこで、テクノロジーと人材をセットにしてDXされた業務プロセスをサービスとして提供する、BPaaSのコンセプトにたどり着いたのだという。
平本氏は「顧客が、必要な時に必要な分だけ、ビジネスプロセスを調達できる世界観を作りたい」と意気込みを語る。

BPaaS事業への挑戦は、AsIs/ToBe分析から始まった。AsIs(現状)は、「Chatwork」を通じた中小企業との多数の接点と、チャットインターフェースが強みである。ToBe(目標)は、人とテクノロジーを融合させ、チャットで簡単に業務をアウトソースできる世界観を実現することだ。両者のギャップを分析して見えてきた課題は、「対応すべき顧客数が非常に多いこと」「BPaaSに対するドメイン知識の不足」、そして「プロダクト組織の人員不足」だった。そこでkubellは、可能な限り早くギャップを埋めるため、事業戦略、プロダクト戦略、技術戦略、組織戦略、それぞれのアクションプランを検討した。
まずBPaaSプロダクトの目指す姿を、チャットによる業務発注プラットフォームと定義した。そしてBPaaSは、以下の3つのプロダクトから構成される。
- BPaaS窓口:顧客がBPaaSを契約・発注する窓口であり、BPaaSにとっての基幹システムでもある。顧客数が多いため、膨大な契約を効率的に処理する必要がある
- 自動化エンジン:AIやワークフローを組み合わせ、業務効率化と、人手によるオペレーションの最小化を担う
- 業務関連SaaS:経費精算や勤怠管理など、実際のバックオフィス業務を担うSaaS。既存のサービスとのアライアンスや、M&Aを通じて拡充する
プロダクトの具体像に合わせ、プロダクト組織のあるべき姿も策定した。迅速な意思決定を目指して、各プロダクトに独立したチームを編成し、同時に横断的な連携も可能な体制を構想した。採用については、社内異動に依存せず、外部から積極的に人材を採用することにした。BPaaSの実現には、Chatwork事業の非連続な成長も必要だからだ。またBPaaSプロダクトは仕様が複雑で、具体的な実装は手探りで進める必要がある。そこで専門性の高いプロダクト人材を集約し、プロダクトマネージャー、デザイナー、エンジニアがシームレスにコミュニケーションができる垂直立ち上げを目指した。
将来的にはプロダクトごとのチーム構築を目指すものの、プロダクト組織の現状の最優先目標は、基幹システムとなるBPaaS窓口をローンチすることだという。
