エージェントを「作る」から「スケールさせる」へ。IBM TechXchange 2026の基調講演に見る、増えたエージェントを動かし続ける条件
「IBM TechXchange 2026」レポート
生成AIの普及で、AIエージェントは誰でも短時間で作れるようになった。では、それが1社で数万、十数万と増えたとき、企業はどこでつまずくのか。米アトランタで10月26日から開かれている開発者・技術者向けカンファレンス「IBM TechXchange 2026」の10月27日、IBMは基調講演で今年の主題を「エージェントを作る」から「エージェントをスケールさせる」へと切り替え、データ・デプロイ・ランタイムの3つの層で新たな製品群を示した。発表の全体像と、開発者が各層で触れる入口、日本IBMの技術者が語った導入の始め方までを整理する。
85か国から技術を決める人が集まる場
IBM TechXchange(テックエクスチェンジ)は、IBMが2023年から開催し、今年4回目となる技術者向けのカンファレンスだ。今年は米ジョージア州アトランタのジョージア・ワールド・コングレス・センター(GWCC)を会場に、10月26日から29日まで開かれている。広報によると、85か国から6000人以上が参加し、セッションとハンズオンは合わせて1000を超える。今年はHashiCorpのユーザーカンファレンス「HashiConf」と初めて合同で開催し、Db2のユーザー会であるIDUG North America、Javaのコミュニティイベント「JCON」、IBMが認定する技術コミュニティ「IBM Champions」も同じ会場に集まった。
参加者の顔ぶれは、このイベントの性格をよく表している。広報が提供した職種の内訳で最も多かったのはテクニカルリーダー(Technical Leader)で38%。インフラエンジニアが17%、開発者(Developer)が8%と続いた。コードを書く人だけでなく、どの技術をどう組み合わせて社内に入れるかを決める立場の人が、最大の層として集まっている。基調講演が扱ったのも、エージェントの作り方ではなく、作ったエージェントを企業の中でどう動かし続けるかだった。
IBMは5月にボストンで開いた年次イベント「IBM Think 2026」で、AIを企業に組み込むあり方を「AIオペレーティングモデル」として示している。
基調講演は開発者や実装者にとってテクノロジーの進捗や具体的な活用方法を示す場で、実務は会期中の数百のセッションとハンズオンが担う、というのがIBM側の説明だ。
1社15万エージェントの時代に問われる5つの条件
開幕の映像には、エージェントと一緒に働く開発者たちの声が並んだ。「誰でも数秒でプロトタイプを作れる」。ただし「仕事が減ったわけではない。アウトプットは増えたが、自分の仕事も増えた」。モデルが見落とすのは「アーキテクチャ」で、今は「楽器を演奏するというより、指揮をしている」。映像は次の一言で締めくくられた。
「良い開発者は、もともとアーキテクトでした。それが見えるようになっただけです」
生成の速さではなく、システム全体を設計する力が問われる。この問題提起を受けて登壇したIBM Software シニアバイスプレジデントのDinesh Nirmal(ディネシュ・ニーマル)氏は、今年の主題を一言で示した。
「昨年のTechXchangeは、エージェントを作ることがテーマでした。今年は、エージェントをスケールさせることがテーマです」
背景にあるのは数の急増だ。Gartnerは、2028年までにFortune 500企業が平均で15万を超えるAIエージェントを使うようになると予測している。2025年には15に満たなかった数で、ニーマル氏はこれを「1万倍」と表現した。
では、増えたエージェントを企業で使えるものにするには、何が要るのか。ニーマル氏は5つの条件を挙げた。
- レイテンシー:多くの企業が求める応答時間は2.5秒未満
- アーキテクチャ:監督役のエージェントか、作業役のエージェントか。誰がそのエージェントにアクセスできるか
- コンテキスト(文脈):「100株買って」だけでは、エージェントは仕事を完了できない。すでにIBM株を100株持っていること、証券口座があること、直前にIBMについて尋ねていたことを知って初めて、タスクを続けられる
- セキュリティ
- Day 2運用(リリース後の継続的な運用・保守):APIもモデルも変わり、コストも上がっていく
これを具体的な規模で示したのが、匿名のグローバル銀行の事例だ。この銀行は、IBMのAIエージェント構築・運用基盤「watsonx Orchestrate」上でエージェントを動かしており、年内に3000万のモバイルユーザーへ広げる計画だという。モデルの呼び出しは1日850万回、トークンは月2.4兆、使うツールは24種類にのぼる。
この規模で浮かんだ課題として、ニーマル氏は2つを挙げた。膨大な推論の呼び出しをどうさばくか。そして、認証情報をどう動的にローテーションするか。どちらも、新しいモデルを選べば解ける問題でも、エージェントの作り方を工夫すれば解ける問題でもない。ニーマル氏が答えとして示したのは、エージェントの下を支える3つの層だった。データ、デプロイ、そしてランタイムだ。
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斉木 崇(編集部)(サイキ タカシ)
株式会社翔泳社 ProductZine編集長。1978年生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科(建築学専門分野)を卒業後、IT入門書系の出版社を経て、2005年に翔泳社へ入社。ソフトウェア開発専門のオンラインメディア「CodeZine(コードジン)」の企画・運営を2005年6月の正式オープン以来担当し、2011年4月から2020年5月までCodeZine編集長を務めた。教育関係メディアの「EdTechZine(エドテックジン)」...
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