エージェントを「作る」から「スケールさせる」へ。IBM TechXchange 2026の基調講演に見る、増えたエージェントを動かし続ける条件
「IBM TechXchange 2026」レポート
ランタイム層:人のIDからエージェントのIDへ、手順の指定から意図の表明へ
3つ目の層、ランタイムを担当したのは、IBM SoftwareでAutomationポートフォリオのCTOを務めるTyler Lynch(タイラー・リンチ)氏だ。リンチ氏は、自分の失敗談から入った。
2年前、初めて作ったエージェントは、AWS向けTerraformプロバイダーのコードレビューを手伝うものだった。ローカルで動き、GitHubには自分のSSH認証情報でアクセスしていた。
「そのエージェントは、作ったままの形では、企業にデプロイする水準には決して届かないものでした。ローカルで動き、自分の認証情報を使っていたので、誰とも共有できなかったのです」
本番に移すときに横断的に効いてくる関心事として、リンチ氏は4つの移行を示した。セキュリティは人間のIDからエージェントのIDへ。IT自動化は手順を細かく規定する形から意図を伝える形へ。監視は可観測性からインテリジェントな運用へ。コストはクラウドの支出からAIの経済性へ。
エージェントに固有の身元と、使うときだけの権限
エージェントは、寿命が数秒のものから数か月のものまである。人間のIDを借りて動けば、操作をしたのが人なのかエージェントなのか区別できない。誰にも承認されていない権限をため込み、常設の認証情報に頼りがちで、使う時点での検証もない。
これに対してIBMは、エージェントを暗号学的に検証できるIDで登録し、同意にもとづいて権限を委任し、必要なときだけ接続と認証情報を与え、不正な振る舞いがあれば即座に失効させる、という仕組みを示した。その中核が新製品「IBM Agent Identity」と、新版の「Vault 2.2」だ。Agent Identityは既存のIdP(Okta、Microsoft Entra、Ping Identity、IBM Verify)を置き換えるのではなく補完するもので、OAuth 2.0のOn-Behalf-Ofトークンなど標準のプロトコルだけで作られている。発表の詳細は既報を参照してほしい。
Security Products バイスプレジデントのSuja Viswesan(スジャ・ヴィスウェサン)氏のデモでは、OneKeyのコンシェルジュ画面で、リンチ氏が変更できるよう同行者の予約を呼び出そうとすると、リクエストは拒否され、そのセッションはIBM Verify上で接続先のすべてのアプリにわたって失効した。
一方、リンチ氏本人の部屋のアップグレードは、リンチ氏のスマートフォンでの承認を経て、「このタスク限り・5分で失効」という権限付きで実行された。
ヴィスウェサン氏はこう話す。
「エージェントが何か間違えたとき、誰が呼び出されると思いますか。私たちです。だからこそ、監査できること、認可が明確なこと、説明責任を果たせることが欠かせないのです」
設定ミスは悪意ではなく理解不足から
IT自動化の話題では、リンチ氏はAWSに在籍していた頃の顧客の例を挙げた。そのチームは全員が、Amazon S3にオブジェクトをアップロードしたら公開設定にしなければ使えない、と信じていたという。
「チームはS3のアクセスモデルを理解していなかっただけでした。設定ミスの多くは、悪意からではなく、理解不足から起きるのです」
会場のスライドは、組織の65%が設定ミスによる重大な障害を経験しているという、Cloud Security Allianceの2026年の報告を引いていた。リンチ氏の答えは、プラットフォームチームが承認済みの部品を作り、開発者とエージェントはそれを「意図」で要求する、という役割の分け方だ。
これを支える発表は、HashiCorpの製品群に集中した。Terraformの構成を記述する言語HCL(HashiCorp Configuration Language)をベースに、人にも機械にも読みやすくしたポリシー言語「Terraform Policy」(CIS、PCI DSS、NIST 800-53、ISO 27001の標準ポリシー付き)、承認済みのテンプレートからインフラを払い出すセルフサービスの「Terraform Developer Portal」、IBMがホストするリモート版の「Terraform MCP Server」、管理外のリソースをポリシーで点検してから取り込む「Terraform Search with Policy」、インフラ資産全体を問い合わせられる「Infragraph」がそろう。
スライドの構成図では、Terraform MCP Serverを呼ぶコーディングエージェントとして、IBM Bobと並んでClaudeやCopilotの名前も挙がっていた。
Day 2運用はキャパシティの8割
リンチ氏によると、Day 2運用は組織のキャパシティの約80%を占める。Linuxカーネルだけでも、直近30日で1300件を超える脆弱性がCVE(共通脆弱性識別子。公開された脆弱性に振られる番号)として報告されている。アプリケーション、インフラ、ネットワーク、セキュリティを1つの運用層にまとめる「Concert Platform」は、この状況への答えだ。
Automation Products バイスプレジデントのMelina McLarty(メリナ・マクラーティ)氏のデモでは、Concertで数千件のCVEからOneKeyアプリに影響するNode.jsの脆弱性を優先度と影響範囲つきで特定し、Infragraphで差し替えるべきアーティファクトを探し当て、Bobからリモート版のTerraform MCP Serverを経由して修正版をデプロイした。マクラーティ氏は「この作業で、HCLには1行も触れていません」と話した。
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斉木 崇(編集部)(サイキ タカシ)
株式会社翔泳社 ProductZine編集長。1978年生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科(建築学専門分野)を卒業後、IT入門書系の出版社を経て、2005年に翔泳社へ入社。ソフトウェア開発専門のオンラインメディア「CodeZine(コードジン)」の企画・運営を2005年6月の正式オープン以来担当し、2011年4月から2020年5月までCodeZine編集長を務めた。教育関係メディアの「EdTechZine(エドテックジン)」...
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