はじめに
Amazon EC2をはじめ、クラウドコンピューティングのインフラ環境は以前に比べて手に届きやすいところにやってきました。しかしながら、サーバの設定が複雑だったり、独自言語だったりと、お手軽に試すにはもう一歩踏み出すことができない方が多いのではないでしょうか?
GoogleはGoogle App Engineを2008年4月に公開しました。このときはPythonのみが対象でしたが、2009年4月にはJavaにも対応しました。このことは大きな意味を持っています。それはJava言語のみならず、JavaVM上で動作する多くのスクリプト系言語も(ある程度の修正や設定は必要になりますが)動作させることができるためです。
前編ではJavaVM上に実装されたスクリプト系言語の中でもPHPを、簡単なWebアプリケーションを例に、Google App Engine for Javaで動作させる方法について説明していきます。
対象読者
- Google App Engine for Javaに興味がある方
- スクリプト言語、特にPHPのクラウドコンピューティング環境に興味のある方
必要な環境
Googleが提供するEclipseのプラグイン(Google Plugin for Eclipse)を使用して開発を行います。Google Plugin for Eclipseのインストールについては『Google App Engine for Javaを使ってみよう! (1)Google Plugin for Eclipse』で説明されていますので、こちらを参照してください。
この記事で紹介するプログラムはWindows版のEclipse 3.4.1(Ganymede)に日本語化言語パック(注1)を適用した環境で動作することを確認しています。
Google App Engine for Java
Google App Engine for JavaではServletやJSPを使用してWebアプリケーションを構築することになりますが、提供されるJavaの実行環境はJava6になります。
Google App Engine for JavaではスケーラブルかつセキュアなWebアプリケーションを実現するためにサンドボックス上で動作するようになっており、いくつかの制限が設けられています。例えば次のような機能には対応していません。
- スレッドやサブプロセスの生成
- ローカルファイルへの書き込み(読み込みは可能)
- JNIなどのネイティブコードの実行
- ネットワーク接続(HTTPとHTTPSは可能)
JRE(Java Runtime Environment)に含まれるクラスで使用可能なものは、「The JRE Class White List」に一覧が載っていますので、ご参照ください。
Google App Engineではデータの保存はApp Engineデータストアと呼ばれる仕組みを使って実現します。Google App Engine for JavaではJDO(Java Data Objects)やJPA(Java Persistence API)などの提供するインターフェイスを使ってアプリケーションを実装します。
外部ホストへの接続にはHTTPとHTTPSのみが許可されており、java.net.URLConnectionを使って実現します。
その他、キャッシュを実現する機能としてJCache(JSR107)やメール送信の機能としてJavaMailも使用することができます。
PHPを動作させるために必要な環境
JavaVM上で動作するスクリプト系言語には、JRuby、Jython、Groovy、Scalaなどがありますが、この記事ではCaucho Technologyが開発しているQuercusを使用します。
QuercusはJavaで実装されたPHP5および6の実行環境で、GPLライセンスで提供されています。DrupalやPHP-Nuke、そしてWordpressなどの動作実績があります。C言語で実装されたPHPの標準/拡張モジュールもJavaに移植されていますが、すべてのモジュールが使用できるわけではありません。実装されているモジュールについては、Quercus Modules Statusを参照してください。また、Quercusに関する詳細な情報はQuercusのWebページを参照してください。
QuercusではPHPスクリプトファイルを実行するためのQuercusServletが用意されており、このServletが指定されたリクエストに対応するPHPスクリプトファイルを読み込み、実行し、結果を返します。