はじめに
この連載は、OpenMPを通じて並列処理の考え方をお伝えすることを目的としています。今回はOpenMPの変数の取り扱いについて解説します。変数に関する事柄は地味ですが、正しく並列プログラミングをするためには、変数の扱い方をよく知らねばなりません。
なお、この連載で解説に使用するサンプルコードはあくまでも OpenMPの基礎を理解するためのものであり、実務でOpenMPを使用する際にはよく理解してから用途に適したプログラミングを行ってください。
本記事の対象を超えるもの、記述箇所を特定しないもの、読者固有環境に起因するもの、読者の主義思想に関するもの、読者の誤解によるもの、社会人 としてのマナーを欠いたものなどは質問/指摘を頂いてもお答えできません。あらかじめご了承ください。
対象読者
筆者が想定している読者はCの基本的文法をマスターし、並列プログラミングに興味を持っている方です。凝ったテクニックを極力さけ、基本的な文法さえ分かれば読めるように注意しますので、並列化に興味を持っている方はぜひこの連載に目を通してください。
必要な環境
必要な環境については、第1回を参照してください。
なお、この連載は基本的にWindows環境を想定して解説しますが、OpenMPそのものは他のOS上でも動作しますので、適宜読み替えて参考にしてください。
並列処理と変数
並列処理で重要なのは変数の扱い方です。変数の扱いを間違えると、思わぬバグを生み出してしまいます。しかも、並列プログラミングはバグの検出が困難です。初めからバグを生み出さないために、OpenMPで用意されている変数に関する機能を知らなくてはなりません。
並列処理において、検出が困難なバグが発生する主な理由は、「実行順序が定まっていない複数のプログラムから、並列的に参照されるから」です。前回解説したように、OpenMPは共有メモリ方式で、メモリモデルはrelaxed-consistencyです。従って、同じメモリ内にある変数を実行順序が変化する並列プログラムから操作されても矛盾が生じないようにせねばなりません。
これは非常に難しい問題ですが、幸いOpenMPにはいくつかの変数に関する指示句が用意されており、比較的簡単にバグを避けられます。次項から変数に関する指示句と関連する概念を解説します。