4. 執筆と翻訳の違い
ここでは「Groovy イン・アクション」の翻訳経験を題材として、翻訳特有の注意事項や考慮点、役立つツールなどを紹介します。
4.1. 翻訳に取り組む心構え
翻訳とは「ある言語で表現された文書を別の言語で表現し直す」という作業です。よって、原文の表面的な表記をそのまま日本語に和訳するだけではダメで、原文の言わんとすることやその背後にある著者の意図を理解し、それを改めて日本語で表現し直す必要があります。文法的な正しさを追求するよりも、日本語の表現を大胆に見直す方が原文の意図に近づける場合も多いです。
ただ、技術文書に関して言えば、表現されている内容は図表やコードからなんとなく読み取れることが多いでしょう。プロの翻訳者よりも、その領域に長けている技術者の方が、原文の内容を理解する上では有利なのではないかと思います。私たちの経験でも、実際に翻訳する上で苦労したのは技術的な内容ではなく、文書の「つかみ」に当たる部分でした。このような箇所では哲学的な話やちょっとしたジョークなどが記述されていることが多く、文化的な背景などを知らないとまったく理解できないという場合が多々ありました。
4.2. ゼロから執筆との違い
翻訳の場合はすでに元となる文書があるので、ゼロから内容を考える「生みの苦しみ」はありません。 しかし、外国語の文章を読み込んで意図を理解し、それを表現する日本語の文章を考えるという作業は、ゼロから同じ量の日本語の文章を書き下すよりもはるかに時間がかかります。
執筆の場合はアイデアが出てこないと先へ進めなくなりますが、アイデアが出てくれば一気に筆が進むことが多いです。逆に、翻訳は慣れてくれば一定のペースで進めることができます。例えて言うならば翻訳はマラソンのようなもので、毎日コツコツと確実に作業を進めていくことが重要です。
4.3. 版権について
翻訳してみたい書籍があったら、まずは版権の管理がどうなっているのかを確認しましょう。海外では著者ではなくエージェントが版権を管理している場合が多いようですが、詳細が不明であれば著者に直接コンタクトしてみるのもひとつの方法です。日本人の感覚では「いきなり著者にメールを送りつけるなんて」と躊躇されるかもしれませんが、海外では著者に対して感想やコメントをメールで送る方も多いようです。何はともあれ、行動してみることで道が開けるかもしれませんよ。
4.4. 訳語・訳文の統一
共著の場合と同様ですが、翻訳の場合は特に原著で使われている単語と訳語の対応関係が正確であることが重要です。
管理すべき訳語の数が少なければExcelやGoogle Spreadsheetでも十分ですが、「Groovyイン・アクション」の翻訳では管理すべき訳語がそれなりに多くなりましたので、コミュニティのメンバーがGrailsで開発した訳語管理ツール利用させていただきました。 専用ツールを使うとカスタマイズが容易にできるのがメリットで、例えば、登録されている訳語一覧をエクスポートする機能などを追加したりしました。
単語や熟語レベルではなく、もっと長い文章のレベルで類似表現を統一的に訳出するためのツールとして「翻訳メモリ」があります。翻訳メモリツールは英文と訳文の対応関係を記憶し、既に訳出したことのあるものと同一ないしは類似の英文が出てきた場合、メモリ上から訳文の候補を自動的に抽出してくれます。
「Groovyイン・アクション」翻訳作業時には、翻訳メモリツールとしてOmegaTを利用しました。OmegaTはGPLで配布されているツールで、MS OfficeやOpenOfficeなど様々なドキュメントフォーマットに対応しています。OmegaTに興味をもたれた方は、ぜひOmegaTプロジェクトのWebサイトを参照してみてください。
OmegaTでは翻訳メモリの内容は基本的に自分で訳出したもの、もしくは既存のメモリ内容(.tmkファイル)をインポートできます。これを進化させたのがGoogleが提供する「Google翻訳者ツールキット」で、このサービスでは翻訳メモリの内容がクラウド上に保管されるため、複数人で翻訳メモリを共有できます(ただし、デフォルト設定では翻訳メモリの内容が全ユーザーで共有されるようになっていますので注意が必要です)。Google翻訳者ツールキットに興味をもたれた方は、こちらなどを参考に試してみていただくのがよいかと思います。
5. 最後に
チームで1冊の書籍を共同執筆することは、1人で執筆することに比べると課題が多くありますが、それ以上にメリットも多いのではないでしょうか。例えば、執筆で行き詰ったときなどはチームメンバーに助言を求めることができますし、技術レベルの高いレビュアーを探す苦労もありません。何より、挫折しそうになったときに励ましてくれる(そしてプレッシャーもかけてくれる)仲間がいることは、執筆を進める原動力になります。
あなたも社内外のコミュニティ活動などに参加して、一緒に執筆活動に取り組んでくれるチームの仲間を探してみませんか?
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(対象者のガイドライン:技術系文書の書籍執筆、雑誌寄稿を数度された方)
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