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ふつうの取材執筆心得

「デブサミ2013 公募レポーター」参加特典資料


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 この資料は、「Developers Summit 2013」(デブサミ2013)の「公募レポーター」企画の参加特典として、レポーターの皆さまに事前配布させていただいたものです。汎用的に使える内容だと思いますので、CodeZine読者の皆さまにも一般公開させていただきます。ぜひご活用ください(編集部)。

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 これは「取材と執筆」をする人のためのメモです。

 私は、20年少々の間、職業として「取材と執筆」に取り組んできました。今回「その経験をレポーターの皆さん向けにまとめてほしい」という注文をいただきました。

 まず「何を書くべきか」を考えてみました。文章作法に関する本は、名著・定番と呼ばれる本があります。レポートのような事実を伝える文章の組み立て方、記し方については、『理科系の作文技術』(木下 是雄)と『「超」文章法』(野口 悠紀雄)の2冊が、語るべきことを網羅していると思います。『小説作法』(スティーヴン・キング)にも、実用的かつ興味深いノウハウが記されています。

 しかしながら「取材とそのアウトプット」に関しては、これという本はないようです。そこで今回は、私自身が記者教育の過程で教わったことや、自分の職業経験の中で発見したことの中から、皆さんにお伝えできそうな部分を抜き出して書き記すことにします。何かのお役に立てれば幸いです。

(執筆:星 暁雄=ITジャーナリスト)

取材する上での注意点

集中して聴く

 講演レポートを書く場合でも、それ以外の取材でも、「聴く」時間はインプットのための特別な時間です。とても大切な、他のものでは代替できない時間です。集中して、頭のクロックを高めてください。

 長い話を聞いていると、ついつい集中が切れて、後から確認しよう、などと思いがちです。大学の講義の途中で退屈して寝てしまい、人からノートを見せてもらおう、と思ってしまう、あの感じですね。しかし──ここがとても大事な所なのですが──人間の集中力、脳の働きは、人と会って会話をしているとき、目の前の人の話を集中して聴いているときに最も高まるのです。

 目の前に人がいるとき集中しないで、いつ集中するのでしょうか。取材執筆のプロセスの中で最も価値が高く重要で、他のものでは代替できないもの、それが取材です。講演レポートの場合は、講演を聴く時間が取材ということになります。集中してください。

メモを取る

 メモは取るべきです。方法は、一番慣れ親しんだやり方でよいでしょう。紙とペンに親しんでいればそのやり方を。PCにキーボードで打ち込むことに親しんでいれば、そのやり方で。紙に書いた方が記憶に残る、という意見の人もいます。一方で、私はもっぱらPCにキーボードで打ち込む派です。結果に結びつくなら、どちらでも構わないと思います。

 メモ取りは、重要なキーワード、重要なフレーズを、記憶に留めるために書きます。メモを取るという身体の動きが、理解や記憶の助けになります。

 メモ取りだけに熱中しすぎないように。言葉を一字一句書き取ろうとすると、かえって肝心な内容を聞き逃すかもしれません。講演そのものを聴いて理解していてこそ、メモが有効になります。

 録音して、それを聴き返して記事を作るやり方もあります。しかし、お勧めしたいのはイベントのその場で講演を集中して聴いて、その場で理解したことをメモして、それを元に記事を書くやり方です。人は弱いもので、録音を取ることで安心してしまってかえって集中力が落ちる場合があります。率直にいって、その場で聞き漏らした事、理解できなかった事を後から録音を聞き返して理解できる可能性は非常に低いのです。

 もし録音を取る場合でも、講演の最中には録音している事をあえて忘れて、メモを取りつつ集中して聴いてください。

集中力をコントロールする

 スポーツの試合に臨むときのような心構えで取材しましょう。身体を動かすことと同様に、取材でもペース配分が大事です。

 何十分も集中して話を聴くと、脳は疲れます。疲れて集中力が途切れてしまわないように注意します。30分間隔を目安に、意識的に深く呼吸するなどの工夫をしてみるとよいでしょう。ドリンクやお菓子類を用意し、休み時間を利用して補給することも、ときには必要かもしれません。自分に合うやり方で、集中力の維持を心がけてください。

質問、確認する

 「必ず質問をしなければならない」とまではいいません。しかし、講演の中で、疑問点や確認したい点が出てきたら、放置せず質問するべきです。

 講演中、理解できないこと、あるいは話した内容がうまく聞き取れないこと、こうしたことは、実は結構あると思った方がいいと思います。そして、質問や確認をすることで自分の理解に自信を持てるようになれば、より良いレポートが書けるはずです。

取材内容を執筆するうえでの注意点

自分の目で見て、耳で聞いた事を書く

 講演者が話した内容を書きます。

 こう書くと「何を当たり前の事を言っているんだ!」と思われるかもしれませんが、人によっては、ついつい自分が知っている知識や、自分の感想を補足して書きたくなる場合があるのです。

 もちろん、分かりやすくするために補足することは悪いことではないのですが、その場合は「講演者が話した内容ではなく、筆者の補足や感想であること」を必ず明記してください。まず、目の前で見聞きした事実を書くことが優先です。自分の考えや知識はあくまでその補強のために使ってください。

 また、話していない内容を、あたかも話をしたかのように書くことは厳禁です。「当たり前だ!」と思われるかもしれませんが、原稿の体裁を整えるために、ついつい現実とは違う内容を書いてしまう誘惑にかられる人もいるのです。もちろん、レポーターの皆さんはそんな事はないでしょうが、ここでは一般論として申し上げました。

 「聞いたこと」だけでなく、自分の五感で感じた情報も、必要ならば書きます。講演者の口調(情熱的な講演者もいれば、醒めたしゃべり方の人もいます)、会場の雰囲気(緊張に静まりかえる場合もあれば、笑いに包まれて盛り上がる場合もあるでしょう)、これらも場合によっては重要な情報です。講演者が語調を強めた部分は、おそらく講演者が強調したい部分のはずです。また会場の反応(雰囲気、盛り上がり、質疑応答の内容など)も、それが必要な情報と判断できたなら、レポートの材料にすると良いでしょう。

違和感を大事にする

 講演を聴いて、「オヤ?」とひっかかった部分に注意してください。そこに、新しい情報が含まれているかもしれません。逆に、言い間違えをしている場合もあるかもしれません。いずれにしても注意しましょう。

 人間は、頭の中にある過去の知識、経験を元に目の前の出来事を予測しつつ過ごしています。予測された出来事が起こるだろう(あるいは、起こらないだろう)と常に期待している生き物なのです。信じられないかもしれませんが、取材のように「他人の話を聞く」局面でも、「このように話すはずだ」といった思い込みから、大事な話を聞き漏らす場合があるのです。

 しかし「予測から外れた言葉」には新規性があって、取材の成果として重要な場合があります(その逆に、言い間違いなど何かのエラーである場合もあります)。違和感を見過ごさずに、むしろ大事にしてください。そして、違和感を感じた部分が、新規性のある情報なのか、それともエラーなのかを、よく判断してください。

上手に書こうとしない

 うまい文章を書こう、他人を感心させるようなことを書こう、という気持ちがもしあるなら、それはいったん忘れてください。たいていの場合、その方がいい結果に結びつきます。

 必要な事は、自分が聞いて理解できた話を、現場に居合わせなかった人にも分かるように伝えること。これは十分に難しい目標です。まずはこの目標に十分に集中しようではありませんか。

読む人のために書く

 読者は、この講演のどんな部分に興味を持ち、記事を読むだろうか、と考えて書きます。

  • 現場に居合わせなかった人に伝わるだろうか?
  • 予備知識がない人に伝わるだろうか?

 それを常に考えながら書きます。予備知識がない人がレポートを見て、新たな知識を得ることができれば、それは知識をより多くの人々に届けることに成功したことになります。この大きな目標のため、読む人のことを考えてください。

重要な話を書く

 講演内容によっては、情報量が多すぎたりして、何を書いて良いのか途方にくれる場合もあるかもしれません。情報量が多いことは悪いことではないですが、全部を文章に詰め込めないという場合もあるでしょう。

 そんなときは「大事な話から書く」というやり方が有効です。この講演の中で大事な部分はどこだろう? どの話が一番大事なのだろう? そう考えながら、大事な話から書いていきます。

人は間違える

 言い間違え、聞き間違え、書き間違えを前提に行動するようにします。講演者はその道の専門家、達人かもしれませんが、ちょっとしたこと、重要ではないことで、言い間違えをする可能性はゼロではありません。特に製品名、サービス名、会社名、人名など固有名詞に違和感を感じたら、正しい表記を調べるようにします。

 一方、講演者が正しく話をしていても、聞き間違える可能性もあります。書くときに間違える可能性もゼロではありません。自分が書いた原稿でも、こうしたエラーが潜んでいる可能性を考慮してください。先に挙げた「違和感」を大事にするということは、エラーを発見する上でも大事です。

寝かせてから読む

 文章を書き上げた直後ではなく、十分に時間を置いてから(できれば一晩寝かせてから)、冷静に、客観的に読み返してみます。固有名詞などに間違いがないか、違和感がある部分がないか。話がつながらない部分がないか。論理が飛躍している部分がないか。ある程度複雑な内容を伝える文章で、冷静に読み返してみて、それでもどこも直すべき部分がない、という事は通常は考えにくいものです。

 なお、「寝かす」ための時間を取れない場合には、編集者や、あるいは友人達があなたの助けとなってくれるでしょう。

直しすぎに注意

 書く人の性格によっては、直しすぎる病気にかかる場合があります。先に挙げた「読み返す」作業は大事ですが、やりすぎはいけません。

 書くときには書き上げ、直すときには1回で直し終わること。直しの作業を延々と繰り返しているときには、何かが間違っている可能性が高いのです。そんなときは一回作業をやめて、気分転換をしてください。深呼吸したり、お茶を飲んだり、人と話したり、散歩したり。いったん作業から離れることで、大事な事が見えてくる場合もあるのです。

まとめ

 ここでお伝えした内容は、どれもごく「ふつう」の内容で、誰にでも実行可能なように見えます。しかし、やってみると意外と難しい場合があるかもしれません。それでも、以上の内容を意識することで、成果物の価値は高まるはずです。皆さんの取材と記事に期待しています。

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この記事の著者

星 暁雄(ホシ アキオ)

ITジャーナリスト。日経BP社で『日経エレクトロニクス』記者、オンラインマガジン『日経Javaレビュー』編集長などの経験を積み2006年に独立。現在はフリーランスとして活動。半導体、プログラミング言語、オペレーティングシステム、エンタープライズIT、インターネットサービス、スマートデバイスなど、幅広い分野の取材執筆経験を持つ。イノベーティブなソフトウェア分野全般に関心を持つ。最近は現実世界のモノとソフトウエアを結ぶ技術に特に注目している。より詳細な経歴はこちら

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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https://codezine.jp/article/detail/6987 2013/02/20 18:51

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