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話題のあの人にインタビュー!

アジャイルアカデミー「アジャイルサムライの見積りと計画づくり」はどうやってうまれたのか?

アジャイルアカデミー講師:角谷信太郎氏インタビュー


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XPは爆発してしまった

――この前、北海道で「XPは爆発してしまった」と言っていましたけど、なんで爆発しちゃったんですか?

角谷:XPそのものについてはもう、あんまりみんなの口の端に上ることもなくなって、スクラムだとエンジニアリングプラクティスが足りないからXPで言っているやつを足しましょう、みたいな扱われ方をされるようになったけど……。

――XPって本当はもっと壮大な……。

角谷:ソーシャルチェンジですよぉ!

――はい(笑)。

角谷:ソフトウェア開発という仕事でのビジネスとテクノロジーの調和とバランスのための活動がXPなわけですよ。その考え方の根っこのところは、スクラムとかリーンとかカンバンとかでも変わらないはず。後知恵ですけど、XPのブームがなければアジャイルマニフェストもなかったと思っています。でも、XPで伝えたかったソフトウェア開発の全体像をケント・ベックはうまくは伝えられてないですよね、2013年から見た結果としては。

――その「全体像としてのXP」はもう忘れ去られちゃってもいい存在なんですか?

角谷:英語圏の議論ではもう「マネジメントのスクラム、ビジネスのリーン、エンジニアリングのXP」で落ち着いてますけど、「XPは技術だけ」って言われると、そこは違うと思うんですよねぇ。XPには元々全部入ってたんですよ。スクラムとかリーンとも全部つながっていると私は思っています。ソーシャルチェンジですよぉ!

――でもそれが伝わりにくかったから、『アジャイルサムライ』がウケている部分もありますよね。技術書で「ソーシャルチェンジ」とか言われても……。

角谷:あ、はい。困りますよね(笑)。アジャイルマニフェストから10年経って、そうした大きな物語というか全体像は掴みづらくなっちゃった感じはありますね。見事に「アジャイル」はアンブレラ化(*1)しちゃったというか。一方で、具体的なスクラムやカンバンや技術プラクティスだけに注目すると、足りなくなるところも多い。

――XPは全部を取り込もうとしていた?

角谷:というか、すべてはXPで、XPはすべてだったはずなんです。例えば「Energized Work」とか。「元気いっぱい働きましょう」ですよ(笑)。他の方法論で具体的にこういうことは言ってない! これはとてもパタンランゲージっぽい側面だと思います。

――今のようにXPの技術プラクティスだけを取り入れようとすると、そういうXPが目指していた全体像は分からないままになりますね。

角谷:私も完全に理解しているわけでも実現できているわけでもないし(笑)。結局「アジャイル」は形容詞であって現場のアジャイルさの度合いでしかないから、それぞれの現場の「正義」を見出していくしかないですね。「リトル・ピープルの時代」ですよ。

*1

 「アジャイル」は各種方法論を総括する「傘(アンブレラ)」であるという比喩がある。

アジャイルサムライの見積りと計画づくり

――いろいろ研修テーマはあったと思うんですが、どうして「見積りと計画づくり」になったんですか?

角谷:第1期はアジャイルの全体像を『アジャイルサムライ』を通じてお話ししようとしたんだけど、私がやるならやっぱり具体的なテーマのほうがいいんじゃないかなあと思い直しました。

――第1期のアンケートでも「見積りと計画づくり」を希望される声が強かったですね。

角谷:計画はプロジェクトに関わるいろんな人とのコミュニケーションツールなんですよね。開発チームやプロダクトオーナーとはもちろん、経営層とか営業やマーケティングの人たちへの説明にも使う。だから、これまでとやり方を変えたときに戸惑いが顕在化しやすい部分だと思います。

――特にステークホルダーはアジャイルなんて関係ないですからね。

角谷:本には、カード使って見積もって点数つけてタイムボックスで開発して……みたいに書いてあるけど、そこには興味ないですからね。「結局いつできあがんの?」に答えないといけなかったり。

――「やってみないと分かりません」だと怒られちゃいますからね。

角谷:だから、具体的な困りごとが集まりやすいんじゃないかと思います。私自身も、計画や見積りについては、これまでいろいろ試行錯誤してきた経験はあるので、実践に近いアドバイスができると思っています。自分なりの取り組みをしている参加者にとっては「答え合わせをしやすい」んじゃないかと。

――参加者のみなさんに質問をしてもらう研修なんですか?

角谷:はい。自分が困っていることや知りたいことを、できるだけ具体的にカードに書いてもらって、それらをバックログにまとめます。それを受講者の皆さんで話し合ってもらって順番づけしながら進めていきます(*2)。1時間から1時間半くらいを1つのイテレーションにして、イテレーションの終わりには「この質問は完了しましたか? 受け入れてもらえますか?」と確認してます。そうすると、新しい質問が出てきたり、「さっきの質問はもういいや」となったりするので、バックログをリファインメント(*3)しています。

――前回はどういう質問がでてきましたか?

角谷:よく聞かれたのは「粒度」ですかねぇ。ストーリーとかタスクの粒度。チケットに書くときにどれくらい詳細なことを書けばいいの?みたいなところで悩んでるみたいですね。

――粒度って……そんなに重要なんですかね。それこそ実践と失敗を繰り返しながら、自分たちにちょうどサイズを見つければよさそうですけど。

角谷:教科書的な答えだとそうなるよね(笑)。でもそこで聞きたいのって、その会社の既存の枠組みや、現場にとって違和感のない仕事の単位とは何なのか、っていう悩みのようにみえますね。ただ、そうなると「正解」がない。「うまいこといったら当たり」なので。細かい議論については、「正解」みたいな模範回答はあるので、そういうのはマイク・コーンの本(*4)に載っているようなことを答えればいいですけど。現場に合う新しい仕事の単位、みたいな話題は過去の自分の経験や事例を踏まえて、一緒に考えてみるしかないと思うし、そういうふうにしてます。

*2

 前回の参加者による感想:http://dev.classmethod.jp/etc/agileacademy-agilesamurai/

*3

 「スクラムガイド2013」からグルーミングではなくリファインメントになった。

*4

 『アジャイルな見積りと計画づくり』(毎日コミュニケーションズ)

研修を受ける前に準備しておいてほしいこと

――角谷さんの研修に参加する人は、どんな準備をしておけばよいですか?

角谷:アジャイル開発を、自分たちなりにいくらか実践しておいてほしい。現場で困っている話は大好物なので、そういうのをぜひ持ってきてください。抽象的な質問には抽象的な答えが返ってきます!

――「見積りと計画づくり」以外の困っていることでも大丈夫ですか?

角谷:大丈夫。だいたい話はできると思います。アジャイル開発にはだいぶ詳しいほうなんで(笑)。そういえば、実践している人たちからは「自分たちの今のやり方って、アジャイルなんですかね?」っていう質問もよく受けますね。

――アジャイルかどうかって、判断基準があるんですか?

角谷:あんまりそこを気にしても仕方ないというか意味がない。やっているのはあくまで「プロジェクト」なわけで、それがうまくいっているかどうかが大事なので。

――自分たちが成長していることを自覚できているかどうかですかねえ。

角谷:あ、それは大事ですね。フィードバックがかかっているかは1つの基準になると思います。チームがイテレーションで学んだことを、今後のプロダクトとプロジェクトの進め方の両方に反映させているかどうか。そういう「差分」がプロジェクトにあるかどうかは大事ですね。実態として、単調に作業を繰り返しているだけ、っていうのだとそれはあんまりアジャイルな感じはしないです。

――どうやって差分をとります?

角谷:定性的ですけど、ふりかえりをしてチームで「成長していること」を自覚するのがいいんじゃないかなあ。メトリクスを取って定量的に……みたいなのが独り歩きしちゃうと、メトリクスのためのメトリクスになりそう。関将俊さんが 「自分たちの感覚が合っているのを裏付けるために数字を使う」みたいなことを言ってたんだけど、数字を集めるならそういう使い方をしたほうがいいと思う。

――インタビューはもうちょっと続きますが、ひとまずここで研修の参加を検討されている方たちにメッセージをお願いします。

角谷:現場で悩むことはたくさんあるんだけど、日々プロジェクトの仕事に集中していると、なかなか考えが及ばないこともあると思います。1日だけ現場から離れて、この研修に自分の持っている課題を持ってきてください。私や他の参加者と話し合うことで、普段よりも広い視野で考えられると思います。そこから得たヒントをぜひ現場に持って帰ってもらいたいです。そのためにこの研修は活用できると思っています。

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アジャイルアカデミー事務局(アジャイルアカデミージムキョク)

翔泳社の主催するアジャイルアカデミー事務局の中の人です。アジャイルアカデミーは、4半期に1度のペースであなたの現場に合ったアジャイルをスタートさせるための実践型ワークショップを1週間開催します。それぞれ1日完結コースですので、プログラマからマネジメントまで、皆様のご参加心よりお待ちしております。イベント詳細は公式ページから参照ください。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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