ここ数年で、大企業にもオープンソースの共同開発手法を積極的に取り入れる「インナーソース」の動きが見られている。本セッションでは、人材雇用や開発期間の短縮といったメリット、またその懸念点について、IBM、ウォルマート、ヒューレット・パッカード、ブルームバーグ、LINEの各種業界を代表する5社がその経験と知見を共有した。GitHubのプロダクトマネージメント責任者であるKakul Srivastava氏がモデレーターを務めた。
各社のファイアウォールの内側で起きていること
IBMのシニアソフトウェアエンジニアであるJeff Jagoda氏は、インナーソース化を「コーディングなど具体的な業務にとどまらない、組織における根本的な変化をもたらすもの」だと表現。従来の開発組織のあり方を見直し、人材をどう配置するのか、ビジネス構造を作り変える必要があるのかといった難しい質問にひとつずつ答えていく必要があると述べた。
ウォルマートのグローバル・コマース CTOでシニアバイスプレジデントのJeremy King氏は、インナーソース導入初期には「自分のコードを他の誰にも触らせたくない」という社内エンジニアによる抵抗を感じたと振り返る。導入を阻むボトルネックを解決するには、先陣を切ってそれを実践し、前例を作るチームの存在が欠かせないとアドバイスした。
「オープンソースは昔から我が社のDNAに流れてきたものだ」と話すのは、ヒューレット・パッカードのエンジニアリングIT部門ディレクターであるJoan Watson氏。昨今、オープンソース化をいっそう後押しするツールやテクノロジーの登場によって、その動きが加速化している。自身が掲げる「6万人を超える社内エンジニアをいかにエンパワーするか(力を与える)」というミッションに対して、ユーザエクスペリエンスデベロッパー、データサイエンティスト、IoTデベロッパーといった社内メンバーと共に取り組んでいる。
「オープンソースの開発手法やツールを活用することで、製品を市場に送り出す時間をぐんと短縮することができています。実践には大きな文化的変革を必要とするため、その道のりは決してバラ色だとは言えません。でも、インナーソースが私たちにとってゲームチェンジャーであることに違いはありません」。(ヒューレット・パッカード Joan Watson氏)
模索されるインナーソースがもたらすROI
組織の中で何か新しいことを始めようとすれば、そこでは常に費用対効果が問われる。インナーソースもその例外ではないが、その答えについては各社ともまだ手探りのようだ。
例えば、IBMでは、会話の数やエンゲージメントを測るソーシャルメトリクスを測定している。その結果、インナーソースへの参加率が高い人材はそうでない人材に比べて生産性が高いことが確認できているという。
ブルームバーグでは、GitHubのすべてのリポジトリをスキャンすることでスコアシートを作成。そこでfork(フォーク)した人数、プルリクエストの数などを見える化することで、エンジニアによる貢献を可視化する取り組みをしている。まだ直接ROIに結びつけるには至っていないが、コミュニティのモチベーション向上に貢献していると語った。
ウォルマートが現在KPIに設定するのは、デプロイメントまでの期間だ。同社が毎四半期ごとに行うデプロイの回数は3万回を超えるが、スピーディな開発によって顧客にプロダクトを届けるまでの期間を短縮することができている。またヒューレットパッカードでは、前例をつくることで、ソースコードの再利用、従業員が新たな技術を消化する能力といったインナーソースの可能性に期待が集まっている。