エンジニアがPMとして成果を上げるための強みと強化すべきポイントは?
こうした思いのもと、実際のプロジェクトではどのような体制で進行したのか。湯澤氏によると、通常の縦割りの階層型ではなく「面を意識した体制」で行われたという。つまり、各担当が全体を意識しながら自身の役割についての責任を果たし、スキル向上によって領域を拡大することで、分担の垣根を越えた相互サポートが可能になるというスタイルだ。
そうした組織では、プロジェクトマネージャーは全職種の作業を把握しながら、スキマを見つけてフォローする立場となればよい。またエンジニアがプロジェクトマネージャーになることのメリットについて、湯澤氏は「メンバーのスキルが実感としてわかり、マインドやモチベーションを正確に把握しやすく、コミュニケーションを取りやすい」と解説する。
そして、プロジェクトについては「動かすまでは『開発』。動いてからは『改善』。」と力説し、「公開後に何をするかを公開前に思い描くことが重要であり、そのためには公開前にどれだけ使い込めるかがカギとなる。よく品質や機能を重視しすぎて機を逃すことがあるが、それは賢明とはいえない。とはいえ、初見の印象は重要であり、多機能というより“刺さること”が重要」と語る。
「Yahoo!天気」アプリの場合、機を逃さないために、2015年の梅雨・台風シーズン前の公開を決定した上で、「天気予報が今よりも見やすく確認できる」「雨雲レーダーを重要な機能として位置づける」「またそれを認知してもらうUIとする」ことを最低限の条件とした。また、雨雲接近の通知でインパクトを与えることで「使えるアプリ」を印象づけたという。
そうした作戦が功を奏し、2015年のリニューアル版の公開から大変な話題を呼び、その後、毎月のように機能強化や改善を行ってきた。中にはユーザーの要望から端を発したものも多く、「ユーザーとともにアプリを成長させていく」ことでユーザーの愛着も増したことが伺える。要望は、ストアのレビュー、SNSの評判、そして独自に盛り込んだご意見フォームなどから積極的に集められたものだ。
ファーストビューのUIに対しては非常に多くの好意的なフィードバックが得られるが、一定数の改善要望もあがってくる。中には「週間天気を10日間みたい」というような具体的なリクエストもある。それに対して、そのまま受け入れて対応するのではなく、例えば「ファーストビューを崩してまで入れるかどうか」など、全体を把握しながら対応することが大切だという。
新しい機能を追加するには、多彩な検討部分が生じてくる。それらは各担当が把握することが基本だが、どうしてもスキマが生じるため、そこをプロジェクトマネージャーが補完することが必要だという。湯澤氏は「メンバーに対して、全体意識や仕事を通じての成長、作品に対しての責任を持つことを求めつつ、困ったら自分が助けることを伝える。意外に難しいことではあるが、常にプロジェクトを通じてメッセージを送るようにしている」と語る。
そのため、「伝える」スキルの向上は大きな課題だ。湯澤氏もチームに対するプレゼン資料は要所で頻繁に作るよう心がけているとのことで、その資料を通じて、自分の考えを整理する力や人に伝える力、そしてチームを一つにする力が養われたという。
さらに品質チェックも湯澤氏の業務の一つだ。実際に自身のスマホやPCでサービスを利用し、使いやすさや機能等についてユーザーの実感を得るようにしている。
こうしたことを踏まえつつ、プロジェクトマネージャーは広く新しい技術を常に身につけることが重要であることは違いない。どうしてもプロジェクトマネージャーになると、エンジニアとしての成長を止めてしまう人も少なくない。しかし、自己成長する意識を持って実践すると同時に、メンバーに背中を見せて「彼もやっているなら」と成長を促す目的もあるという。湯澤氏は「昨今、担当分野が狭い技術者が増えているのが心配。IT技術者という括りを意識して、全レイヤーでディスカッション可能な幅広い知識をつけたい」と懸念と意志を示す。湯澤氏自身も、さまざまな試行錯誤を行い、中にはiOSアプリを2種作成し、メンバー向けに勉強会でいきさつを報告するなど、経験の共有も図っている。こうしたプロジェクトマネージャーの在り方を、「自ら率先して成長し、チーム力を上げる役割を担う。そのために、メンバーの中で1番ヒマであるべき」と強調する。
最後に、「われわれは予報のプロではないがインターネットのプロ。今後も、意識高くユーザーに満足いただけるサービスを提供していきたい」と意欲を語り、「熱い思いが詰まった『Yahoo!天気』アプリをぜひ使ってみてほしい」と語った。
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