「モバイルファースト、クラウドファースト」から「インテリジェントクラウド、インテリジェントエッジ」へ
オープニングには、日本マイクロソフト 執行役員 デベロッパー エバンジェリズム統括本部長の伊藤かつら氏が登場。
近年、データ量が爆発的に増加し、クラウドのコンピューティングパワーが増大している。例えば、自動運転の自動車は1秒間に250ギガバイトのデータを生成する。2020年には世界で250億台ものIoTデバイスが日々大量のデータを生成するようになる見込みだ。今後は、ありとあらゆる産業でITテクノロジーが企業の成長力と差別化の源泉になる。開発者はこれまで以上にビジネスに深く関わり、ビジネスの変革や成長に貢献する機会を得るだろう。
機会が増えれば、その一方で責任もつきまとう。今後は開発者がどのような技術を選ぶかが重要になる。Microsoftは、「人に力を与えるテクノロジー」「より多くの人が利用するテクノロジー」「信頼できるテクノロジー」を不変的な原則として、Microsoftのテクノロジーをもとに新しい価値を創造するための力を、あらゆる人や企業に与えることをミッションとする。
Microsoftはデバイスの多様化、クラウドのコンピューティングパワーの拡大を受け、新しいパラダイムとして「インテリジェントクラウド、インテリジェントエッジ」を打ち出した。これまでMicrosoftが掲げていた「モバイルファースト、クラウドファースト」の世界にインテリジェンスを追加するものだ。「Microsoftは、今後すべての製品・サービスに『インテリジェンス』を組み込んでいく」と述べ、伊藤氏は話を終えた。
すべての開発者にAIを~AzureでAIを活用するための機能を数多く提供
続いて、Microsoft Corporate Vice President&Chief EvangelistのSteven Guggenheimer氏が登壇。
「de:code 2016」からわずか1年で世の中が大きく変化している。Windows 10デバイスは5億台、Office 365の月間アクティブユーザは1億人、Cortanaの月間アクティブユーザは1億4,000万人、Azureの利用組織は1,200万を数える。すべてのデバイス、システムがエッジからクラウドへデータを供給し、新しいエクスペリエンスや可能性を創り出すだろう。その中心で推進役を担うのがAIだ。Microsoftは、AIを使うことで人間が創意工夫や能力を増幅し、より多くのことができるように、「インテリジェントクラウド、インテリジェントエッジ」へとパラダイムシフトする。
会話型AIではデータと機械学習により任意のキャラクターを実現
MicrosoftはAIの技術開発に20年以上取り組んでいる。その成果の一例が会話型AIだ。例えば、顧客との対話をAIに任せるには、ビジネスの目的やブランドにふさわしいキャラクターが必要になる。日本マイクロソフトは、女子高生AI「りんな」を開発。りんなは、2015年にTwitterにデビューして以来、570万人と会話している。デモとして期間限定で公開された俺様男子キャラクター「りんお」が紹介され、データの選択と機械学習により、異なるキャラクターを実現できることが示された。
Azureはコグニティブ、ボットなどAIを活用するための機能を提供
画像認識や音声認識も進化している。ニューラルネットワークResNetは、20~30層から約5倍の152層へと増大。音声認識技術では、Switchboard音声認識タスクで人間並みの単語誤認識率5.8%を達成した。Microsoftは開発者が手軽にAIを利用できるように、AzureでCognitive Servicesを提供。画像、言語、音声、検索、ナレッジの5分野で27のサービスに加え、既存の学習モデルをカスタマイズできるサービスがある。
例えば、新しく追加されたCustom Vision Serviceを利用すれば、簡単に画像認識アプリケーションを作成できる。ポータルサイトに写真をアップして学習モデルを作成すると、モデルが自動的にトレーニングを行う。モデルのURLをWebサイトやアプリケーションに埋め込むことで、予測処理を実装可能だ。さらに、アクティブラーニングによりモデルの予測率を高めていくこともできる。
また、Bot Frameworkではボットのチャネル(接続先)が12に増えたほか、Windows 10、Android、iOSなどプラットフォームに応じてカード型UIを選択できるAdaptive Cardsが追加された。Bot Frameworkを利用すれば、バックエンドでAIを利用し、ユーザと対話するインテリジェントなボットシステムの開発が可能だ。
Azureでは、これら以外にも、Data Lake、Cosmos DB、GPU対応仮想マシン、Batch AI Trainingなど、AIを活用するためのサービスが数多く提供されている。Microsoftは、Azureエコシステムと協力しながら、Visual Studio、Azure Machine Learning、Cognitive Toolkit、TensorFlow、Caffeに加え、より多くのツールを利用できるようにする予定だ。
深層学習フレームワークChainerがAzureで利用可能に
続いて、株式会社Preferred Networks 代表取締役 西川徹氏が登壇し、Microsoftとパートナーシップを提携したことを明らかにした。
同社はAIとIoTの融合によりイノベーションを起こすことを目標として掲げている。そのためには深層学習そのものの研究開発を促進しなければならないとして、深層学習フレームワークChainer、そして大量のデータを分散して処理できるChainer MN(Multi Node)を開発し、オープンソースとして公開している。
深層学習の実用化にあたり、産業への応用と研究開発の加速を同時に進めていく必要がある。そのために、Microsoftと協力し、ChainerとAzureやWindowsなどを組み合わせてエンタープライズ向けのソリューションを提供するとともに、あらゆる産業で市場を開拓していきたいと、西川氏は語った。深層学習は盛り上がりを見せているものの、まだまだ技術者が足りないのが現状だ。Preferred Networksは、深層学習の技術を多くの人に伝え、技術者を教育する活動についてもMicrosoftと協力を進めていくことを表明している。
AIとデータを活用してビジネスを再構築
Microsoftは、Azureだけでなく、WindowsやOfficeなどすべての製品・サービスとAIを組み合わせ、強化している。その例として、PowerPointにMicrosoft Translatorをプラグインし、リアルタイム翻訳を行うデモが行われた。Microsoft Translatorは、Windows版、Android版、iOS版が公開されており、Cognitive ServicesのAPIと組み合わせることでアプリケーションにリアルタイム翻訳を実装できる。
Guggenheimer氏は、AIを活用し、ビジネスプロセスやエクスペリエンスを再構築することが重要と主張。そこで肝要となるのがデータである。Microsoft Graphとビジネスデータを組み合わせることで、想像を超えるアプリケーションの開発が可能になり、それはどのような業界でも可能だとの考えを述べた。
AIを活用した自動車保険アプリケーションのデモでは、ボットシステムが顧客とやりとりしながら顧客自身や保有する自動車の情報を収集し、保険額を提示する。顧客が保険額に難色を示した場合は、人間のオペレータに切り替わる。オペレータは、Microsoft Dynamics CRMのダッシュボードで、ボットが顧客と交わした会話、顧客が保険額に不満を抱いていること、競合他社に乗り換える確率、顧客を引き留められるかもしれないディスカウント額といった情報を確認し、顧客に対応する。また、Microsoft Power BIのダッシュボードにより、マーケティングキャンペーンの実施状況や問題の発生などを確認することもできる。
Guggenheimer氏は最後に、“The best way to predict the future is to invent it.”(「未来を予測する最善の方法は、自分たちで未来を作ること」)というAlan Kayの言葉を引用し、AIは人間の想像力を豊かにするものであり、ビジネスで活用してほしいと締めくくった。MicrosoftのAIに関する情報は、microsoft.com/aiで参照できる。