IBM Cloudは使いやすいのに「もったいない」
及川 IBM Cloudはすごく使いやすいサービスだと思います。IBM Cloudライト・アカウントならクレジットカードの登録はありません。PoC(Proof of Concept:概念実証)をさくっと作るような時に便利に使えると思います。また、このライト・アカウントでは「ライト・プラン」が適用されたサービスを期間制限なく無料で使うことができます。Watson APIもほとんどがライト・プランになっています。マシンラーニングやコグニティブ・コンピューティングを試してみたいという企業にとっては、すごく使いやすいのではないでしょうか。
一方で、もったいないなと思うのは、開発者を相手にしてくれないと思えるようなところが多い点です。オンラインのドキュメントが整備されているようでされていないのもその一つ。またチュートリアルを進めていくと、IBM Cloudのサービス名が以前のままだったり、APIがなかったりするんです。後者は統廃合が進んでいるから仕方がないのですが、何か深く知ろうとすると、法人契約が必須かと思うような案内にぶち当たる。でも実態はそうではないんですよね。
大西 IBM Cloudはベアメタルから含めてPaaSのレイヤーまで教科書通りに作られているクラウドサービスです。しかもそれがオープンなテクノロジーで構成されている。それが特長です。例えばマシンパワーが欲しいというのであればベアメタルでCPU、ストレージ、メモリ、さらに必要であればGPUなどWebからハードウェア構成を決めて、お望みのパフォーマンスを満たせるようなマシンをオーダーすればいい。もちろんベアメタルサーバーと既存のオンプレミスとの間にDirect Linkでプライベートなネットワークも敷くことができる。いろんなインフラを組み合わせて、さらにPaaSレイヤーにあるWatson APIやさまざまなサービスを取り入れてシステムを作っていけるところはIBM Cloudの面白さだと思います。及川さんが指摘されたドキュメントについても、整備しつつあります。今後はGitHubで更新していくようになる予定です。
及川 IBM Cloudの強みとしては、パブリックとプライベートの両方に対応できるところです。例えばプライベートクラウドをIBM Cloud Private、もしくはCloud Foundryで構築すれば、後にパブリックに移行することも理論的には可能です。プライベート、パブリックの境目なく同じ技術が使えるのは強みだと思います。
大西 しかもIBM Cloud Privateは多くのオープンソースで構成されているため、製品に含まれる各オープンソース技術にもれなくIBMのサポートが付いてくる。それもIBM Cloudを活用するメリットだと思います。
及川 そういったIBM Cloudの強みを、これからどのように伝えていく予定ですか。
大西 IBMは開発者を大切にしており、クラウドを利用したアプリ開発を加速させるためのお手伝いに注力していることを伝えていきたいと思います。例えば「声で操作するVRアプリを作りたい」というのであれば、「IBM Code」というサイトを見れば、その参考になるパターンをソースコード付きで紹介しています(声で操作するVRアプリのパターンはこちら)。
こういう風にするとうまくいくよ、これはうまくいかないよという体験や知見を共有できようにしているので、開発者の皆様の試行錯誤の時間を削減できると思います。
クラウドを使いこなし、すばやく結果を出すことが生き残りの秘訣
大西 クラウドを使いこなすためには、先ほど紹介したIBM Codeのコードパターンを参考にすることがおすすめです。84パターンぐらいありますが、理解しなくてよいので、興味のある技術から絞り込んで、とにかく眺めてほしいと思います。ドキュメントは英語のみなのですが、英語が苦手というのであればFlowに示されている構成図やGitHubに公開されているソースコードを見てください。そうすると、「この組み合わせでこういうことが実現できるんだ」と理解できると思うんです。さらにソースコードをダウンロードして、一部を改造したりして好きなように動かしていく。そして「デプロイのために、ここはこういうスクリプトを使っているのか」というような知識を獲得していくんです。習うより慣れよ、あっという間にクラウドをバリバリ使えるようになると思います。
及川 IBM Cloudはベンダーロックインが怖い人にもおすすめできます。ローカルでNode.jsやRailsで作ったサービスをみんなに見せたいというときなど、IBM Cloudにアカウントを作ってリージョンを割り当てれば、CFコマンド一つですぐにクラウドにアップでき、動かすことができます。こういうクラウドの使い方は、今まではHerokuの独壇場でしたが、IBM CloudはHerokuと同じぐらい使いやすいですね。
またIBMでは、APIのサンプルをGitHubで公開しており、それをIBM Cloudにデプロイすることができるようになっています。さらに、リポジトリやWebエディターとしても活用できるIBM Cloud DevOps Servicesも提供しています。もし慣れたエディターでサンプルを修正したいというのであれば、GitHubから自分のリポジトリに持ってくることもできます。そういった使い方をしていくことで、クラウドを使いこなしていくことができると思います。
今は、クラウドを使うべきか否かを判断する時代ではなく、クラウドは当たり前になり、マルチクラウドを検討する時代にきていると思います。確かにマルチクラウドだと認証や課金がバラバラになってしまい面倒ですが、例えばアナリティクスはGCP、コグニティブはIBM Cloudというように「この機能はこのクラウドサービス」と、組み合わせて使うことが当たり前になると考えています。今はAWSを使っていても、それだけしか使えないと今後、エンジニアとして生き残っていくのは難しいのではないでしょうか。
大西 現状、日本でクラウドというとIBM Cloudは候補にも挙がらないのではないかと思っています。その状況を変えることですね。IBM Cloudはベンダーロックインさせられない、オープンなクラウドです。しかもIBMはオープンソースにもコミットしています。オープンソースに親しんでいる開発者の方であれば、馴染んでいただけると思うサービスです。
IBMはサービスをブラッシュアップし、開発者の生産性に寄与するよう、いろんなチャレンジをしていきます。マッシュアップ感覚でマルチクラウドの一つの選択肢として、IBM Cloudを使ってほしい。ありものを使って早く結果を出す。それがこれからのマルチクラウド時代に生きるエンジニアに欠かせない条件だと思います。
大好評イベント「及川卓也氏とクラウドについてあれこれ語ろう」レポートを公開!
及川卓也氏を交えて、AWS、Azure、GCP、IBM Cloudの使い所やマルチクラウドの是非について語り合ったイベントの詳細レポートを公開しました! 及川氏の語るエンジニアの生存戦略や、AIやブロックチェーンを実現するためのIBM Cloudの機能についてのセッションも押さえた、すべての開発者必見のレポートです。
オープンな開発者向けカンファレンス「INDEX」開催!
INDEXとは、IBMが今年から始めるオープンな開発者向けカンファレンス。2月20日から22日にサンフランシスコで開催します。IBM製品やサービスに依存しない、オープンソースやあらゆる技術について触れ、学び、楽しむことのできる3日間です! 初日はハンズオンやワークショップ、2日目と3日目はMicrosoft、Google、AWS、Facebookなどさまざまな技術エキスパートによるセッションを聞くことができます。