勉強会や見える化で、システム開発に対する理解・文化を醸成
そこで、システムはおろかWebの仕組みの理解すらおぼつかないメンバーのために、高原氏は、まずITリテラシーのアップを目的とした「社内勉強会」を開催。Webページが表示される仕組みや用語の解説に始まり、Webの全体像から徐々に業務システムへ落とし込んでいく内容とした。とはいえ、エンジニア相手の勉強会とは異なることから、いかに興味を引き、理解を浸透させるか、さまざまな工夫を凝らしたという。
まず1つ目が、実際の現場でも問題に個々で対応できるよう、実践的な「ハンズオン」形式をとったことだ。例えば、HTMLやCSSを自分で書いて動かし、効果計測システムでタグが埋め込まれていることを確認するために、実際にブラウザのエレメントなどで文字列を検索するなどを行わせた。そして2つ目の工夫は「自由参加」にしたことだ。
「強制参加にしていた最初のころは、不明点を流してしまう傾向がありました。結果、現場でわからないことがあれば『そのときに聞けばいい』という態度になる。自主性や積極性が伴わない状態では難しいと感じました。そこで、自由参加に変えたところ、少しずつ自発的に参加する人が増え、最終的には『自分もやらなくては』という気持ちになってきます。結果、全員が自発的に参加するようになり、さらに業務でわからないことがあっても『まずは自分で何とかしてみよう』という意識になってきました」
そして次に、どんどん要望を伝えてくる経営陣への対応だが、経営陣にはシステム開発者が何をやっているのかどうしても見えにくい傾向にある。さらに「なぜそのスケジュールになるのか」根拠を示すのが難しい。そこで、次のようなツールを活用し、「タスクの見える化」や「徹底したスケジュール管理」などを行い、自動化など可能な範囲で業務の効率化を図った。
(1)プロジェクト管理ツール「Trello」
カードでタスクの流れを管理し、さらにガントチャート機能を使うと「誰が何をやっているのか」全体スケジュールとタスクの進捗率の共有・管理が容易にできる。
(2)カンバン管理ツール「waffle.io」
機能開発の進捗をリアルタイムで「カンバンボード」として管理し、可視化した。経営陣も一目で開発優先度を把握できるようになった。
(3)CIサービス「CircleCI」
FuelPHPのテスト自動化を行い、テストに時間をかけずに済むように調整した。
「タスクとスケジュールを共有することで、優先順位についての理解を進めることができました。最大限の努力をしつつも、できないものは『できない』と理解してもらうことが重要です。その根拠となるものを示すことが大切だと感じました」
そしてクライアントから求められる「工数削減」については、クライアントのシステムについて徹底的にヒアリングしたうえで、それを考慮して機能設計を行い、できる限りの負担を軽減できるようにしたという。
「この解決策はとにかく『クライアント視点』を持つことに尽きると思います。クライアントさまには独自のシステムがあり、それに合致させながら、当社のシステムにも合わせるのはなかなか大変なこと。そこで、どんなことをやっているのか、どんな風にやっているのかを徹底してヒアリングしました。そして自分でもクライアントさまになった気持ちで実際に触ってみて類推し、その確認が取れたら機能設計に進む流れにしました。また、タグマネージャーでの管理を前提とすることで、タグを打ち込むために他部署と連携する必要をなくし、できるだけクライアントさまの負担にならないように配慮しました」
悩んだときは「相手ファースト」、まずは相手の立場に立って考える
こうした取り組みやコミュニケーションの結果、営業メンバーには「まずは自分でやってみる」姿勢が生まれ、経営陣からは「開発方針」が一任されるようになり、反映される機能や実装スケジュールなどを提案し、共有されやすくなったという。またクライアントとの密なコミュニケーションによる提案が評価され、新規クライアントが増えることとなった。
「最初は営業メンバーしかいなかった会社が、こうした取り組みを通じてTechのプレゼンスを高めることで、技術への積極投資につながりました。それによって、新規プロダクトとして、成果報酬型専用マーケティングツール『Robee』の開発・ローンチへとつながり、積極的に新しい技術を取り込めるようになりました」
そして、組織的にも1人だったエンジニアがインターン生も含めて6名となり、2017年11月にはシステムクリエイティブ部として新設された。高原氏はその部門長として活躍の幅を広げ、来期には4名が入社予定だという。高原氏は1年半の奮闘を「相手のことを考えてコミュニケーションする、“相手ファースト”で取り組んできた」と振り返る。
「エンジニアはどうしても技術ファースト、開発ファーストで考えがちですが、そこをあえて相手の立場になって考えることを意識してきました。営業メンバーに対しては、クライアントとの折衝で困らないように、役員陣に対しては会社として売り上げを出せるプロダクトを開発することを念頭に、コミュニケーションを取ります。そしてクライアントさまに対してはできるだけ負担がかからないよう、可能な限りの技術的な対応を行ってきました」
しかし、それは決して「言いなりになること」ではない。例えば、営業を通じてクライアントからある要望が伝えられたとき、それに伴う工数増加が技術的な可否のみならず、会社として「意味のある機能なのかどうか」、クライアントが「本当に何をやりたいのか」をそれぞれの立場から考え、その是非を営業に告げることができた。もちろん、営業が困らないよう、どのようにクライアントを説得すればいいか技術的なアドバイスを行ったり、どのような提案をするべきかともに考えたりするという。
そして現在、高原氏は部門長として「エンジニアファースト」の取り組みも進めつつある。例えば、毎朝のKPTフレームワークMTGもその一つだ。KはKeepで「続けること、よかったこと」、PはProblemで「困っていること」、TはTryで「挑戦しようとしていること」を日々開発メンバーで共有している。他にも働き方改革として「フレックスタイム制」を導入したり、「フリーアドレス&固定デスク」を要望に応じて整えたり、開発環境の改善に努めているところだ。
こうした高原氏について、代表取締役の小嶋氏は「コミュニケーションのあり方として、無意識かもしれないが重要なポイントを全ておさえている」と評する。
「彼は依頼に対し断らないし、嫌な顔をしない。時間厳守、約束厳守で、どんな質問にも丁寧に相手がわかるまで教える誠実さがあります。一方、自分が正しいと思うことはしっかり伝え、相手を否定することなく、言葉を選びながら対応しています。コミュニケーションには、信頼関係を築くことなど、重要なポイントがいくつかありますが、それと私の印象の中の『高原くん』とが一致していることに気づかされました。エンジニアとして優秀なのはもちろん、人として高原くんのことがみんな好きだからこそ、社内での連携がうまくいっているのだと思います」(小嶋氏)
その言葉を受けて、高原氏は「本当かな」と照れながらも、その基本にある「相手の立場に立つ」ことの重要性を強調する。そして「もし相手に不満を感じたら、まずは一度相手の立場に立って考える時間を持ってみてください。新たに見えてくるものがあるはずです」と悩めるエンジニアにアドバイスを送り、セッションのまとめとした。
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