2016~2017年に静かなバズワードとして認知度を上げてきた「Web API(Application Programming Interface)」。もしくは単純にAPIとも呼ばれますが、これはインターネットでも利用されている通信プロトコルであるHTTP/HTTPSの技術を利用して、アプリケーションからサーバーに要求を出し、結果を画面ではなく、JSON形式などのデータで受け取る仕組みです。ソフトウェアエンジニアであれば、すでに10年以上も使ってきたAPIですが、近年ではSalesforce、Googleをはじめとして数多く出てきているSaaS(Software as a Service)型の業務アプリケーションでのデータ連携のため、そしてFintechをはじめとするX-Tech、IoT、AIを含むビッグデータ活用などの文脈でビジネスを繋ぐ要素としてAPIが語られることが増えています。
これを受けて、すでにサービスを提供する企業の多くは、自社サービスをWebブラウザやモバイル端末から利用できる画面に加えてAPI経由での利用を提供しています。「APIは、20年前のWebサイトのようにビジネスに必須のものになる」と語られてきたことが現実味を帯びています。
このAPIという技術を利用し、自身のコアバリューとなる部分以外は、すべて他のプロダクトをAPIで繋ぎ合わせて利用する(「マッシュアップ」する)ことで、付加価値の高い、ひいては、これまでには実現できなかった革新的なサービスが生まれています。これはAPIを提供する側にとっては、これまでのWebブラウザやモバイルでのサービス利用者だけでなく、まったく異なる使い方のユーザーを獲得してビジネスを飛躍させられること(=「APIエコノミー」)を意味します。その影響もあってか、日本でもAPIを公開している企業は増えました。しかし、APIファーストなプロダクトの成功例やAPIエコノミーの成功例が出ていないという現実があります。
本連載では、どうしたら他のプロダクトと自身のプロダクトを組み合わせて利用してもらえるのか? そのために「APIを利用したエコシステムの構築」をいかに行えば良いのか? というテーマについて3回に分けて書いていきます。
第1回は、「APIを利用したエコシステムの構築を阻む壁は何か?」と題し、API公開がビジネスで言われているほどの銀の弾丸ではない理由を分析し、その対策を考えます。第2回は、「APIエコシステム構築の次の一手:開発者ポータルの整備」について説明します。公開したAPIを直接のユーザーであるソフトウェアエンジニアに使ってもらうための情報整備はAPIエコシステム構築の大きな一歩です。第3回では、「API戦略の再定義」という大きなテーマについて考えてみます。
目的と手段のギャップが見えてきているAPI公開
APIエコノミーという言葉がメディアに出てくるようになり数年が経ちます。その影響もあり、日本でもAPIを公開しているサービスは数年前に比べて格段に増加しました。
しかし、APIを公開しているサービスのProduct Managerの多くは「どうやってAPI利用者を増やせばよいか?」という悩みに直面しています。既存のマーケティング媒体や既存のセールスチームがAPI利用者を増やすことを期待しすぎているケースや、自社のサービスのユーザーの利便性向上のためのツールやサービスとの連携を模索しつつも、既存ビジネスの延長線上に留まっているケースもあります。つまり、「API公開」(手段)と「APIエコノミーによるビジネスの飛躍的な成長」(目的)の間に乖離があり、手段を提供したのに目的の達成に至ってないケースが多いと言えます。
実は、API公開の後に「APIエコシステムの構築」と「ビジネスの越境のための打ち手」が必要なことを見落としているというのが私の考えです。この記事では、「APIエコシステムの構築」に焦点を当てます。APIエコシステムとは、すなわち「使いたいAPIとしてソフトウェアエンジニアに好感を持って認知される」こと、そのための仕組みのことです。使ってくれるエンジニアなくしてAPIエコノミーは実現しません。
APIの公開からAPIエコシステムの構築にはどのような壁があるのか? 1つ目は「技術的な壁」、2つ目は「APIのユーザーエクスペリエンス(UX)の壁」、3つ目は「APIエコシステム推進に対する組織の壁」です。その壁を乗り越えるにはどうすればいいのでしょうか?