覚悟をもって人生を変えることを決断させた「まま60問題」
「そうした混沌としたゲーム業界に身を置くものとして、人生も半ばを過ぎ、『自分がやりたいこと』を棚卸ししてみたいと思った。このまま60歳まで働き、3年ほど次のマネジャーに引き継ぐ時間を考慮して、残りは10年。1つのゲームの開発に3年かかると考えると、あと3本しかゲームを作れない。漠然としたイメージはあったものの、明らかにそれがわかった時、身震いした。その時初めて『このままでいいのか?』と思った」
上野氏は戦慄しつつも、改めて「これを前提条件としていいのだろうか?」と考えた。このまま60歳まで働くとして? 本当に? このまま? これを上野氏は「まま60問題」と名付け、問題点を次のように分析する。
「なんとなくエンジニアとして生きてきて、今までの経験でなんとなく60歳まではやれるなと知らず知らずのうちに考えがちだ。そして、そうならなくなったら『自分のせいではない』と思考する準備もできている。この思考に自分が陥っているのではないか、それではまずいのではないかと考えるようになった」
そこで、上野氏はもう一度改めてゼロベースで「自分がやりたいこととやれること」を考えてみたという。その上で、「やりたいこと」として、改めてゲームプログラマーとして生きていく選択をした。「変わることを恐れるのではなく、変わらないことを恐れよう」と決心し、自分の前提となっている環境を変えるという決断を行った。上野氏にとってそれは「セガを離れる」ことだった。
「会社を離れることで今後の人生を変えることができる。現状を変え、次のステップに行けると考えた。退路を断って自分を試す、厳しい環境になるがあえて受け入れることを覚悟した」
しかし、それでも「いろいろと障害はあった」と上野氏は語る。その1つが「経験が邪魔をする」ことだった。ミスが起きた時、通常はさまざまなことを考えて再発防止に努めようとする。誰もが一度経験した失敗は回避したいからだ。しかし、実は環境の変化でうまくいく可能性もあるにも関わらず、経験から「失敗する」と決めつけてしまうというわけだ。また逆に経験したことがないからこそ「不安が邪魔をする」こともあるだろう。こうした課題に、果たしてどう立ち向かえばいいのか。
上野氏は「不安でいいのではないか」と言い切る。不安を感じた時に、どのように立ち振る舞うかが問題であり、その振る舞いによって人生が大きく変わるのではないか。不安に向き合って解決しようと努力した時に新しい扉が開く。逆に不安から逃げるために目をそらし続けていては、いつまでも「そのまま」だ。
上野氏は「せっかく感じた不安に向き合わなければ、変化のチャンスを逃してしまう。不安は新しい自分と出会う機会であり、進化の予兆だ。不確実な未来に目が向いているという証拠であり、その時に覚悟をして進むことが重要」と述べ、「覚悟とはたとえ失敗しても自分のせいにして進む力であり、もしかすると今まで“のほほん”と過ごしたつけが来るかもしれないが覚悟はできている」と力強く語った。
不安を胸に、意識的に新しい第一歩を踏み出そう
覚悟をもってセガを辞め、環境を変えた上野氏。とはいえ、決断をした時にそれが間違っていたかどうかなど誰にもわからない。成功するかどうかは、今後の自分の行動にかかっているのだ。
ここで気をつけるべきが「無意識的な選択」だという。自分で選んだ意識がないために自分でも気づきにくく、なんとなく継続しているが覚悟ができないままという状態は、気づかぬうちに時間が過ぎてタイムオーバーになりかねない。
だからこそ、上野氏は「今のエンジニア人生、本当にあなたが選択したものですか? 環境も含めて自分で選択していますか?」と問いかけたいという。自分が選んだ通りになっているのか、なっていないならどう努力すればいいのか。日常に埋もれがちな質問だが、常に意識して自分に問うていくことが重要だという。
そして、変化を恐れずチャレンジするためには、個人の挑戦に対する覚悟が必要だ。「失敗しても大丈夫」と感じられる環境的な「心理的安全性」がある方よいとされるが、それはあくまで環境の話。挑戦する個人には不安がつきものである。その時には「不安でいい」、いや「不安がいい」という。だからこそ、前に進んでいこうと思えるのだという。
その原動力を育むには、上野氏は「何事も経験してみることが大切」と語る。どんな経験も時間がたつと美化され、環境が変わるとその経験が通用しないこともある。それに気づかず、「根拠のない自信」になったとしても、自分を説得するための重要な力になり、その自信がうそかまことかは別としても、挑戦しようとする人には大きな力になる。
「自分が成長するために、自分に揺さぶりをかけることが重要。そうして、思いもかけない解にたどり着くことこそ、成長といえるのではないか。必要なのはちょっとした勢いで、今までとは異なる一歩を踏み出すことができるはず。たまには失敗することもあるかもしれないが、“てへぺろ”でなんとかなることも多い。ぜひ、挑戦してみてほしい」
最後に上野氏は「環境に流れるエンジニアになってはならない」と繰り返した。そして、「エンジニアとは最高の建築物を設計して作っていく仕事であり、同時に自分の目標を達成するために『環境を創る』のも重要な仕事だと思う。一人ひとりのエンジニアが動く時、生き生きとした働きやすい組織をつくりだす。今この瞬間も時は流れ、環境は変わり続けている。ぜひとも、そうした『LifeOps』(自分エンジニアリング)も行ってほしい」と語り、最後のメッセージとした。
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