ヤフーは、同社の多様なサービスから得られるビッグデータを活用し、企業や自治体向けに事業の創造や成長支援、課題解決などにつなげるインサイトを提供するデータソリューションサービスを10月31日より開始した。
ヤフーは、ブラウザからビッグデータを分析できるダッシュボードツール「DS.INSIGHT(ディーエス・インサイト)」と、より多くのデータを詳細に分析したり、コンサルティングの支援が得られたりするサービス「DS.ANALYSIS(ディーエス・アナリシス)」の2種類の提供を開始する。ユーザーのフィードバックをもとに、半年に1回のメジャーアップデートや都度のマイナーアップデートで継続的にサービス改善が行われる予定。
ヤフーは、これまで検索やメディア、ECなど、100以上の多岐にわたるサービスを提供しており、そこで得られたビッグデータをもとにサービスを改善しつづけている。今回、「ビッグデータをヤフー社内で利用するだけではなく、外部の企業や自治体などに解放しエコシステムを構築することで、もっと日本を効率的・創造的・安全にできるのではないか」というデータフォレスト構想のもと、日本のためになるデータソリューションのサービス開発に踏み切った。
ヤフー代表取締役社長の川邊健太郎氏は発表の冒頭で「個人情報の保護が第一であることが大前提」だと述べ、現在、顧客企業・自治体へ提供される情報はすべて統計データであり、匿名化された情報を含めパーソナルデータが提供されることはないことを強調した。
また「データソリューションによって日本の産業を盛り上げていきたい」と説明。今回のデータソリューション事業を通じて、ビッグデータの力で日本の産業全体のデータドリブン化を後押しすることを目指す。
社内で頻繁に行っているビッグデータ活用を、社外に対しても広げることで、企業の商品開発や営業活動の効率化、地域の自治体の街づくりなど、新たな価値を創出できると考え、約60の企業・自治体と実証実験が行われた。主な実証実験の成果(一部)とサービスの詳細は以下の通り。
実証実験成果
三越伊勢丹
三越伊勢丹では、ヤフーのビッグデータを活用し、子育て中の女性の服装に関するトレンドや悩みを導き出し、新商品開発につなげた。具体的には、「抱っこひもをするとポケットが使いにくい」「自転車に乗りにくい」といった悩みを解決するロングスカートを開発し、9月25日から販売している。過去一番売り上げたスカートと比較し初週の販売数は約2.6倍になった。
東急不動産
東急不動産では、新規オープン予定の商業施設(東急プラザ渋谷)における売り場づくりにヤフーのビッグデータが活用される予定。これまで周辺の出店動向や過去の運営経験などから売り場を検討していたところを、ビッグデータに基づいてトレンドを分析。さらに、「腕時計ブランドAが好きな人はスポーツブランドBも好きそうだ」といった併売分析を検索ビッグデータをベースに行うことで、実際の売り場づくりに取り入れていく予定。
ANAセールス
ANAセールスでは、ヤフーのビッグデータから、3週間先の週次旅客数の予測が可能となっている。ANA関連データと「地名+ホテル」のようなキーワードの検索数を使った予測を複数のモデルで検証したところ、一部の路線においてベースラインより予測誤差を26%削減することに成功し、価格の最適化、人員の配置に役立てている。
京都市/(公社)京都市観光協会
京都市及び(公社)京都市観光協会では、昨年に、紅葉時期の嵐山地域において観光需要を予測し、「観光快適度」の見える化により観光客の分散化を図る実証事業を実施。「ゆっくり観光できるのはいつなのかを知りたい」といった要望に応えるべく、2019年9月よりディープラーニングを活用し、京都市全域の観光快適度を表示する取り組みを開始している。なお、現在は6カ月先までのデータが把握できるようになっている。
提供サービスの詳細
ダッシュボードサービス「DS. INSIGHT」
ヤフーの各種ビッグデータを調査・分析できるダッシュボードサービス。生活者の興味関心を可視化する「DS.INSIGHT People」と、エリア特性や人流を可視化する「DS. INSIGHT Place」の2種類からの提供となっている。利用料は1ライセンスにつき月額10万円(税別)からとなっており、ライセンス数により利用料が変動する。
生活者の興味関心を可視化する「DS. INSIGHT People」
ヤフーのメディア事業のビッグデータなどをもとに、生活者の興味関心を可視化する機能となっている。人気キーワードランキングといった俯瞰的な情報から、特定キーワードの「関連語」「時系列推移」「性年代などの属性分布」といった詳細情報まで、幅広く分析できる。
従来、アンケートを用いた既存の市場調査を行う場合、調査設問の設計者がイメージできる範囲に調査結果が限定されてしまうが、このツールでは、調査設問を設計する必要がないため、生活者の顕在化しているニーズだけでなく、潜在的なニーズやトレンドをリアルタイムに把握することができる。主に商品・サービスの企画を支援する市場調査などでの利用が想定される。
具体的には、「DS. INSIGHT People」上で「増税」と検索し、対象を20代前半女性で絞ると、「増税 ディズニーランド」という検索ワードが最多だったものの、「増税 タバコ」といった検索ワードも見受けられた。この結果を受け、ヤフーCDO・データ統括本部長の佐々木潔氏は「バイアスがかからない、ありのままの情報を読み取ることができる」と言及した。
エリア特性、人流を可視化する「DS. INSIGHT Place」
ヤフーに蓄積された位置情報データなどをもとに、特定エリアにおける生活者の実態や動きをまとめて可視化する機能となっている。指定したエリアにいる人々の属性・特徴や流出入人口の推移、検索傾向などをもとにした地域の方の興味関心、地域・スポット間の人流規模などを把握できる。エリア特性・人流、いずれの情報も性年代などの属性分布に加え、興味関心もひもづけて可視化できるため、ファッションや趣味趣向などの特定テーマで区切った層の分析も可能。主に街づくりやイベント運営、出店計画などを支援するツールとしての利用が想定される。
データ分析・事業活用支援コンサルティングサービス「DS.ANALYSIS」
「DS.ANALYSIS」は、「DS. INSIGHT」では提供されていないヤフーのビッグデータも含めた分析、および事業への活用支援を行うコンサルティングサービス。個々のニーズに合わせてさまざまなビッグデータを組み合わせ、データによる課題解決を目指す。利用料は都度個別に契約内容や料金を相談する形式をとっている。
ヤフーは今後の展開として、APIの提供(すでにダッシュボードがある場合、柔軟に対応できる)やカスタマージャーニー、カスタムエリアの指定が自身で行える機能追加が、半年~1年の間で行われる予定。
さらに、今回は導入前に「DS.INSIGHT」を体験できるスペース「DS.LAB」が、ヤフー紀尾井町オフィス内にて11月5日よりオープンする。体験の申し込みは、データソリューションサービスウェブサイトの「DS.LAB 申し込み」より行える。
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鍋島 英莉(編集部)(ナベシマ エリ)
2019年に翔泳社へ中途入社し、CodeZine編集部に配属。同志社大学文学部文化史学科卒。
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