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【デブサミ2020】セッションレポート (AD)

VUCA時代にチームを自己組織的へと進化させるには――モード2で奮闘中の木利友一氏が語る【デブサミ2020】

【14-E-3】自己組織的な開発チームを如何にして作り上げるか

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 TISでアプリケーション開発部の主査をしている木利友一氏は、大学院で自己組織化アドホックネットワークを研究し、2015年からアプリケーションアーキテクトとしてTISに入社。現在はモード2を体現する決済プラットフォーム開発で日々奮闘している。開発現場は多様な会社からの混成チームで、さまざまな背景やスキルを持つ人たちが集まる。自己組織的なチームとなることは必要不可欠だった。木利氏は自己の経験も踏まえながら、自己組織的なチームの作り方を解説する。

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TIS株式会社 アプリケーション開発部 主査 木利友一氏
TIS株式会社 アプリケーション開発部 主査 木利友一氏

自己組織化を阻む、リーダーが陥りがちな罠とは?

 TISはモード1で多くの実績があるが、今ではバイモーダルを実践しており、Webサイト「Fintan」にて情報公開もしている。これまでTISがシステム開発で培ってきたノウハウ、例えば開発ガイドやテンプレート、プラクティス集などをまとめてFintanで無償公開している。

 今回のテーマは「自己組織化」。木利氏は「外部からエネルギーを取り込む動的な系であり、個々は全体を把握せずとも、秩序だった構造や行動がつくられるもの」と表す。例えばハチやアリ。個々は高い能力を持たないが、例えばアリの群れにはエサへの最短経路を効率良く発見する「群知能」がある。

 開発者の環境だとRoy Osherove氏が著した『エラスティックリーダーシップ − 自己組織化チームの育て方』が参考になる。ここでは「自己組織化されたチームとは、意思決定の機会や生産的に前進する際に、リーダーであるあなたから独立して機能するチーム」と定義している。

 同著によると、チームにはフェーズがあり、フェーズごとに必要なリーダーシップのスタイルが変化するそうだ。「サバイバルモード」では学ぶ時間がなく、定期的に火消し作業に追われ、場合によってはリーダーシップを指揮統制型にする必要がある。時間にゆとりがでてくると「学習モード」となり、リーダーはコーチや独裁者となる。チームがスキルを獲得する方法を知る「自己組織化モード」になると、自分たちで意思決定ができるためリーダーはファシリテーターになるという。

 木利氏は自らのプロジェクトを振り返り「最初は明らかにサバイバルモードだった」と話す。リーダーは具体的に指示し、メンバーは指示を仰ぐ。人数の増加やシステムの複雑化があると判断が雑になりがちで、それを避けようとするとメンバーに待ちが生じてフロー効率が低下する。いずれにしても、スケールしないのが問題だ。

 どうしてこうなるか。木利氏は「リーダーとしてすべてを把握、理解しようとしていた。正しい判断をしたかった。これは自分が把握できる範囲の箱庭をつくろうとしていたということ。より正直に言えば、管理職として失敗したくなかった」と述懐する。これは多くのリーダーが陥る罠ではないだろうか。

 現在は、VUCA時代と言われている。世界は刻々と変動し、不確実で、複雑で曖昧だ。すべてを把握することなどできないし、予見することもできない。木利氏は「世界はそんなにシンプルでは(甘く)ない」と痛感している。

個人の知識や行動が如何にして組織知へと進化するか

 現在の木利氏のチームは個別具体的な指示は不要で、木利氏がデブサミで講演している間も自発的に動き、状況の変化に柔軟に対応できるようになっているそうだ。どうやってここまでたどり着いたのか。

 木利氏はスクラムを紹介した野中郁次郎氏と竹内弘高氏の「知識創造企業」にある「SECIモデル」を示した。個人の知識や行動がグループの知識や行動、つまり「組織知」にどのように進化していくかを示したモデルだ。

 まずは個人の暗黙知があり、経験を共有することでグループの暗黙知になる。グループの暗黙知は対話や共同思考を経て形式知になっていく。こうしてできた個別の形式知は組み合わせていくことで体系的な形式知となり、これを個々人が実践して咀嚼していくと正しい暗黙知になる。このサイクルを繰り返すことで組織は知識を蓄積し、成長していく。

 このSECIモデルは開発現場にも当てはめることができる。大事なのは「相互作用する場」だと木利氏は指摘する。これがないとこのプロセスを回すことができない。「相互作用する場をつくる」ことこそがファシリテーションとなる。

組織知ができる過程:SECIモデル
組織知ができる過程:SECIモデル

いかに個人の行動と相互作用を高めていくか

 リーダーとして何をすべきか。木利氏自身は、個人の行動と相互作用を高めることに注力している。個人の行動については「個人を尊重する」ことを挙げた。これまでの考え方なら、チームと個人は同じ方向を向いたほうがいいと考えられていたが、木利氏は「全員が完全に同じベクトルを持つ必要はない。個人がいろんな方向を向くことは許容する」と考えるようになったそうだ。

 個人はそれぞれ何らかの専門家で、その人だけが気づいている変化があるかもしれない。個人が指摘する変化はチームの不安定化を招くかもしれないが、違うベクトルを許容することでチームが陥っている局所最適解を超える力になるかもしれないからだ。

 そのためチームリーダーは自分の見識でメンバーの提案を限定することなく、「良さそう」や「やってみよう」と受けいれてみること。もしかしたら、何かしらの専門家であるメンバーのほうが正しい判断ができるかもしれないからだ。

 ただし盲目的に信じていいのかというと、木利氏は明確に「ノー」と言う。個人を尊重しつつも、説明責任が伴うようにすること。そのため「なぜ必要なの?」「今やらないとダメ?」と説明を求めて、よりよい決断ができるように議論していくのが大事だ。

 覚えているだろうか。かつてジェームズ・スロウィッキー著『「みんなの意見」は案外正しい』があった。ここでは、集団は極めてすぐれた知力を発揮すると指摘されていたものの、ベストな意思決定は合意や妥協から生まれるものではなく、意見の相違や異議から生まれると説かれていた。

 個人間の相互作用については、適切なファシリテートをする必要がある。それは週に1回のミーティングなどではなく、形式張らずに議論できる環境をつくることだ。ここで具体的なプラクティスが知りたくなるが、木利氏は「銀の弾丸はない」と断言する。

 これまで木利氏もさまざまなプラクティスを試してきたが、チームが成長するとプラクティスは陳腐化してしまうそうだ。それは選んだプラクティスが悪かったのではなく、チームが成長したら、それまでのプラクティスが通用しなくなるからだそうだ。

 チームにとって重要なのは「自分の意見に対して皆がフィードバックしてくれる」という信頼関係だと木利氏は強調する。

 「正しいと思う人は、肯定というフィードバックを返し、間違っていると思う人は、間違っているというフィードバックを返してくれる。それがあるからこそ、チーム各自がきちんと意見を出していける」(木利氏)

 では、「自分の意見に対して皆がフィードバックしてくれる」という信頼関係を築くためにはどうすれば良いのか。それは、人間に存在する「学ぶ力」を利用するのが良いと木利氏は言う。信頼関係を構築し、フィードバックが互いにできるように変化を起こして、それを振り返る。そうすることで「自分たちは自分たちを変えることができる」、願わくば「良い方向に変化させることができる」と学び、自覚できるようになる。

 一方で、「『学ぶ力』があるが故に、『何も変えられないんだ』と学ばせてはいけない(学習性無力感を身につけさせてはいけない)」ことも指摘した。

 より成功するためには、チーム組成の序盤に「いいチームになったかも」と思えるような小さな成功体験を積み重ねることが大事だ。逆に「何をしても無意味だ」と思うような学習性無力感を、与えないように心がけないといけない。

 あらためて木利氏は、自己組織的なチームをつくるためとして「個人は自分の意見を持ち、発信する。人の意見を聞き、考え、フィードバックする。それをしやすい雰囲気を自分たちで作り上げること。リーダーは安全な箱庭づくりに逃げるな。抑圧ではなく参加しよう」と提案した。

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