自己組織化を阻む、リーダーが陥りがちな罠とは?
TISはモード1で多くの実績があるが、今ではバイモーダルを実践しており、Webサイト「Fintan」にて情報公開もしている。これまでTISがシステム開発で培ってきたノウハウ、例えば開発ガイドやテンプレート、プラクティス集などをまとめてFintanで無償公開している。
今回のテーマは「自己組織化」。木利氏は「外部からエネルギーを取り込む動的な系であり、個々は全体を把握せずとも、秩序だった構造や行動がつくられるもの」と表す。例えばハチやアリ。個々は高い能力を持たないが、例えばアリの群れにはエサへの最短経路を効率良く発見する「群知能」がある。
開発者の環境だとRoy Osherove氏が著した『エラスティックリーダーシップ − 自己組織化チームの育て方』が参考になる。ここでは「自己組織化されたチームとは、意思決定の機会や生産的に前進する際に、リーダーであるあなたから独立して機能するチーム」と定義している。
同著によると、チームにはフェーズがあり、フェーズごとに必要なリーダーシップのスタイルが変化するそうだ。「サバイバルモード」では学ぶ時間がなく、定期的に火消し作業に追われ、場合によってはリーダーシップを指揮統制型にする必要がある。時間にゆとりがでてくると「学習モード」となり、リーダーはコーチや独裁者となる。チームがスキルを獲得する方法を知る「自己組織化モード」になると、自分たちで意思決定ができるためリーダーはファシリテーターになるという。
木利氏は自らのプロジェクトを振り返り「最初は明らかにサバイバルモードだった」と話す。リーダーは具体的に指示し、メンバーは指示を仰ぐ。人数の増加やシステムの複雑化があると判断が雑になりがちで、それを避けようとするとメンバーに待ちが生じてフロー効率が低下する。いずれにしても、スケールしないのが問題だ。
どうしてこうなるか。木利氏は「リーダーとしてすべてを把握、理解しようとしていた。正しい判断をしたかった。これは自分が把握できる範囲の箱庭をつくろうとしていたということ。より正直に言えば、管理職として失敗したくなかった」と述懐する。これは多くのリーダーが陥る罠ではないだろうか。
現在は、VUCA時代と言われている。世界は刻々と変動し、不確実で、複雑で曖昧だ。すべてを把握することなどできないし、予見することもできない。木利氏は「世界はそんなにシンプルでは(甘く)ない」と痛感している。