未来をともに考え、自己開示する
――エンジニア組織をマネジメントするうえで、何を大切にしていますか?
村岡:少し先の未来を一緒に考えること、そして自己開示することが、より良い組織をつくるうえで重要だと考えています。
目先のことしか見えていないと、ビジネスサイドは売上を伸ばすことを、エンジニアは良いサービスをつくることを重視するため、両者の意見は衝突します。ですが、その先にある未来として、顧客に価値提供をして事業を成長させたいという目標は共通しているはずです。自分たちの目指す場所は同じだという認識を、メンバー全員で合わせる必要があります。
認識を合わせたうえで、企業の現状や自分自身についての自己開示をします。企業が成長していくには、組織を変えていかなければならない、売上を伸ばさなければいけないという議論をしたり。自分はエンジニアについてわからないことも多いから、みんなから積極的にフィードバックをしてほしいという話をしたり。その過程で、少しずつお互いが仕事をしやすい体制になってきたように思います。
――エンジニア側は、その姿勢をどのように感じましたか?
岩間:村岡は積極的にエンジニア側に踏み込んできてくれましたし、エンジニアを理解するための努力をしてくれました。それに、私たちに情報を常に開示してくれるので、とても仕事がしやすいマネージャーでした。
石川:私は正直なところ、上長が村岡に変わったばかりの頃は戸惑いました。私はサービスに対する強い意見を持っているタイプなので、彼と考えが折り合わなかったらどうしようという不安があったためです。しかし、何度も対話を繰り返してお互いの価値観や役割を理解し、信頼関係が醸成されたことで徐々に不安は払拭されていきました。
この事例のように、職種や立場の違うメンバー同士がうまく連携できないという事態は、他の企業でも発生する可能性があります。例えば、私はいまチームのプロジェクトマネージャーを務めていますが、企業によってはプロジェクトマネージャーとエンジニアが仲違いするケースもありますよね。
そうした場合、どうすれば組織運営がうまくいくかというと、自分たちのなすべき仕事を丁寧にやって、地道に信頼関係を築いていくしかないと思うのです。プロジェクトマネージャーの立場にある人間ならば、プロジェクト全体をどう推進するかという方針を立てて、何かトラブルが起きたならば責任をしっかり取る。結局、自分の仕事に泥臭く取り組んでいくことが、良いチームを構築する近道なのだと感じます。
気心の知れたオーナーと棟梁のような関係
――関係性が構築できてから、プロダクトの開発体制はどのように変わりましたか?
村岡:お互いを信頼し合いながら仕事ができるようになりました。「この領域は頼んだ」と任せられるようになったといいますか。
余談ですが、私たちはエンジニアのマネジメント層のことを“棟梁”という社内用語で呼んでいます。棟梁は大工の用語で、建築物のクオリティに責任を持つ役割なのだそうです。私を家のオーナーに例えるならば、ビジネスサイドとエンジニアサイドがうまくいかない状態とは、オーナーと棟梁の信頼関係がなく、両者の役割分割が適切に行われていない状態に近いと考えています。
要するに、オーナーが「こういう住宅工法が流行っているそうだから、取り入れてみてよ」とか「工具はこれを使った方がいい」と口を出せば、つくっている側は嫌な気持ちになりますよね。ものづくりに関しては、プロである棟梁や大工に任せた方がいい。オーナーは、出来る限り明確に自分の理想を棟梁に伝える責任があります。
そして棟梁にも、自分で手を動かして背中を見せていくタイプや、大工を適切にディレクションしながらクオリティを上げていくタイプなど、さまざまな方がいます。タイプに応じて、やりやすい仕事のスタイルは異なるはずです。時間をかけて関係性を構築し、棟梁たちの特徴を理解してきた結果、「こういうスタイルの方が、○○さんはやりやすいだろう」という感覚が掴めるようになりました。
石川:ほど良い距離感はメンバーによっても異なりますから、一緒に仕事をしながら、お互いにやりやすい形を見つけていくしかないですね。いわば、気心の知れたオーナーと棟梁のような関係になることが、良い開発組織をつくるうえで大切なことなのだと思います。
(後編に続く)
