コロナ禍は企業変革における好機
まず登壇したのは、Insight Edgeの代表取締役 CEOである小久保氏だ。現代の事業経営において、各企業がどのような状況に置かれているのかを解説していった。
これまでは、どの業界においても「業界の垣根」が存在していた。垣根が参入障壁となり、既存の企業が守られていたのだ。だが、テクノロジーの進歩に伴って業界の垣根は低くなりつつある。他の業界のプレイヤーや、IT企業・スタートアップ企業が参入しやすい状況が生まれている。それに加えて、同業他社が先んじてデジタル化・DX化を推進していくことで、自社のビジネスが脅かされる危険性も生じているという。
こうした前提があるからこそ、各社は企業変革を行う必要に迫られている。しかし、ここで課題となるのが、社員の変革マインドの醸成だ。一朝一夕に社員の意識を変えることは困難である。ともすれば「業績も悪くないのに、なぜ今、変革する必要があるのか」と、社内からの反発にあう可能性すらあるだろう。
だが幸か不幸か、私たちの生活にコロナ禍が訪れた。どの企業も早急な変化への対応が求められており、かつ働く人々のマインドも変わりつつある。言わば、旧弊・因襲にとらわれず企業変革する絶好機が訪れているのだ。例えば以下のような変化が、各企業に起こり始めている。
New Normal:「オンライン化」がより高まるトレンドへ
- 新しい行動様式:衛生意識、移動制限、生き方・働き方・家計見直し
- 事業環境:急激な変化、知見・経験が通用しない、機会・撤退の見極めが必要
- 働く環境:新しい働き方・組織・意思決定・成果型・フリーアドレス加速
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物理・対面モデル:オンライン比率高めハイブリッド型へ
- リテイル、医療、営業、体験型エンターテインメントなど
- 労働集約モデル:省人化・自動化の加速
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オペレーションのデジタル化
- 業務フロー見直し・デジタル化推進(紙・判子縮小)
- データ活用(予測・最適化・意思決定の高度化など)
- ロボット活用(自動化・省人化・人との協働)
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新規事業開発
- デジタル戦略・データ戦略・アプリ/プラットフォーム戦略など
- 自社の強みを活かした事業開発・M&A
この前提がある中で、私たちはいかにしてデジタル変革を進めていくべきなのだろうか。
「企業のデジタル変革に求められるプロセスを上図にまとめました。中央部に『課題設定・構想・企画』『仮説検証』『商用化』『オペレーション高度化・差別化』という4つの項目があります。このうち、最も重要なのは『課題設定・構想・企画』です。この項目をさらにブレークダウンすると『現状分析』『本質的課題あぶり出し』『打ち手検討』というプロセスに分けられます。
こうしたプロセスを経た上で(『仮説検証』『商用化』『オペレーション高度化・差別化』を内包している)『実行』というプロセスに落とし込むわけです。一連のサイクルを続けていくことでデジタル変革が実現できます。Insight Edgeは創業以来、このサイクルを回し続けてきました」(小久保氏)
次に、小久保氏はデジタル変革に求められる体制について説明していった。体制のパターンとしては上図のようなものが考えられる。このうち、Insight Edgeが住友商事グループにおいて担っている役割こそ、表中にある「内製エンジニア組織」である。
「内製エンジニア組織を組成する利点としては、簡易な課題を自社内で解決できることや、企画からプロジェクトに入ることで手戻りが少なくなることなどが挙げられます」(小久保氏)
では、同社は住友商事グループにおいてどのような働きをしているのだろうか。
素早く・大きな価値創造を目指して、企業変革を推進する
小久保氏からバトンを渡される形で登壇したのは、Insight EdgeのDevelopment team leader / Lead Engineerである猪子氏だ。
猪子氏は、Insight Edgeが住友商事グループにおいて担ってきた業務を踏まえ、内製エンジニアに求められる役割について下図を用いて解説していった。
「内製エンジニアには『共有』『相談』『実現』『蓄積』という役割が求められます。『共有』とは、案件の事例やソリューション、技術パートナーの情報共有などを行うこと。そして、そうした行動によって自分たちの組織プレゼンスを上げていくことを意味します。『実現』とは案件の実現を意味しており、システム構築やデータ分析などを行い、プロジェクトの成果を上げていくことです。
これら2つの要素をつなぐものとして『相談』と『蓄積』が必要になります。共有を行った後に相談をすることで実現に結びつきますし、案件を実現した後は知見・ノウハウを蓄積していくことが大切です。これらのサイクルをいかに高速かつ並列化して回せるか、そして大きな価値創造につなげられるかが重要になります」(猪子氏)
Insight Edgeのエンジニアは、どのような施策を行うことで「共有」「相談」「実現」「蓄積」のサイクルを回しているのだろうか。猪子氏は、サイクルの起点である「共有」から解説していく。前提として、まずはInsight Edgeの存在を住友商事グループ内に認知させる必要がある。そこで同社では、各種のタッチポイントを適切に使い分け、各事業部のステークホルダーにアプローチをしている。
だが認知してもらうだけでは、なかなか活用には至らない。Insight Edgeの活用を検討してもらうため、各業界や各サービスには一般的にどのような課題があり、Insight Edgeがどういった価値を提供できるのかを情報整理した上で、各事業部に説明しているという。
こうした情報提供が結実し「相談」に至ったならば、次は「実現」だ。プロジェクトを実現するためには適切な計画が肝要である。計画を円滑に進めるため、Insight Edgeでは事業の構造化やデータ分析、新規事業といった案件の種別ごとに、検討を進める上でのテンプレートとなるような資料を用意しており、その内容に沿って各事業部と議論を進めている。また、案件の特性に応じて開発体制や開発プロセスそのものも柔軟に変更させていく。
「実現」の後は「蓄積」だ。この段階では、DX案件で実施した施策の振り返りや事例のまとめを行うだけではなく、DX案件外の知識も勉強会やアイデアソンなどによって共有することで、開発組織全体の技術レベルを向上させている。
また、Insight Edgeでは各プロジェクトのKPIとして「貢献額」を定めている。貢献額とは、各案件によって創出される期待利益と、システム開発やデータ分析を外部ベンダーに発注した場合と比べて外注コストをどれほど削減できたかを示す指標だ。さらにサブKPIとして、案件相談数と案件のデリバリ数も各チーム単位で計測しているという。
「今後はこのサイクルをさらに改善していきます。将来的には、Insight Edgeが各事業部のCTO的な役割を担って課題を探索し、スピード感を持って解決していく状態を目指しております。組織や事業モデルをRe-designしてDXを加速させていくことが、私たちの目指す姿です」(猪子氏)