東京の最先端を担う「スマートシティ 渋谷」を目指し データ活用や起業家支援、教育ICTなど堅実な取り組みを実施
セッションの冒頭でモデレーターを務めるGMOインターネットグループ熊谷氏が1枚の写真を提示した。これは、1951年に渋谷の上空を動いていたケーブルカー「ひばり号」で、まだ高い建物のなかった時代に、渋谷の街を一望できるとして人気を博した。その姿に象徴されるように、熊谷氏は「渋谷は最先端の街で、多くの人々に夢を与えてきた」と語る。
今も渋谷は「BIT VALLEY」の本拠地であり、東京で最も感度の高い街の1つだ。現在もスマートシティ推進に向けたグローバル・オープンイノベーション・プログラム「Smart City X」に参画し、スマートシティ実証のフィールドを提供する自治体として名乗りを上げた。
渋谷区長を務める長谷部氏は、「外部から人材も入れてチームをつくり、力を入れてやっていく。今年度から始まったばかりでコロナ対策やスタートアップ支援で忙殺されているが、これまで勘と経験で行われてきた行政に”データ”という裏付けを用いることで、より良い区民サービスに努めていく体制を整えたい」と展望を語った。
また、様々な企業の共同出資のもと設立された「一般社団法人 渋谷未来デザイン」が主催する、データを活用した社会サービスの実装を目指す「データコンソーシアム」にも参画。東京大学先端科学技術研究センターの協力のもと、渋谷区のスマート化を進める上で基礎となるビッグデータやオープンデータの取得・利用促進を推進していく。
そして、国の取り組みである「スタートアップ・エコシステム拠点都市形成プラン」にも、2020年7月に認定された東京コンソーシアムの一員として参画する。東京都から川崎・横浜、茨城県にまたがる広域の取り組みながら、長谷部氏は「やはり渋谷区としては、東京都心部の最先端を行く街としてリードしていかなければならないと考えている」と意欲を示し、準備を進めていることを明かした。
長谷部氏は「コンソーシアムでアンケートを取ったところ、外国人が投資したい、起業したいという場合に様々な制約があって難しいことがわかった。国と連携して規制緩和などの環境づくりに取り組みたい」と語り、実証・実装機会の充実を図っていくことに意欲を見せた。実際、区の募集に対して70社が名乗りをあげ、AIロボットを用いた子育て支援サービスや、作り置きによる子育て支援等、約10社が実証にむけて調整中だ。なお現在もスタートアップ支援を受けたい企業からの問い合わせを随時受け付け中だという。
またこうしたスマートシティやスタートアップ支援に加え、渋谷区が力を入れているのが教育だ。渋谷区では3年前からタブレット端末を区立小中学生へ1人1台提供。2018年9月よりICT教育推進事業として『渋谷区モデル』を構築し、2020年9月からはWithコロナを見据え、より良い学習環境の提供や教員の業務効率化などをコンセプトとした新しいICT基盤を稼働させている。様々な活用が期待される中で、遠隔地との交流学習や合同授業、ALTとつないだ外国語授業に加え、不登校の子どもに対する支援にも高い効果があるものとして評価され、さらなる普及・活用が期待されている。そしてさらに子どもたちの学習記録や生活記録などを校務システムに集約し、教職員が把握することで、さらなる学習指導などに役立てることが語られた。
こうした施策の紹介を受け、熊谷氏は「未来都市渋谷というイメージが強かったが、現実的なお話に実感が湧いた」とコメント。今後もスマートシティの実現に向け、地に足がついた着実な取り組みが期待されている。