お客さまに裏側をさらけ出す理由
最所 おふたりともオンラインだけで完結させるのではなく、リアルの場所としっかり繋げているイメージがあるのですが、何か意識していることはありますか?
龍崎 お店がオフラインにあって、宣伝しようと思うと必ずオンラインになるので、なにかを意識しているというよりも、自然とミックスされている感覚ですね。
鳥羽 僕はオンラインとオフラインどちらの場であっても、きちっとお客さまに目を向けフォローしていくことが大切だと思っています。今noteでsioのスタッフ紹介をしているのですが、それって実際のお店で「あのスタッフこういう人なんですよね」って話しても微妙じゃないですか。
でもsioに興味を持った人がオンライン上のnoteを見て、「あの人こういう人なんだ」という事前情報をもって来店してもらえたら、お客さまからあだ名で読んでもらえることもある。そんな価値があるのではないかなと思っています。
最所 たしかにリアルの場で、お店の人に急に熱く語られたらその距離のつめかたに驚くかもしれませんが、お客さまにnoteを読んでもらえれば、向こうから話をしてもらいやすくなるというのは良いですね。
龍崎 ホテルにいるスタッフはオンラインで発信をしていることが多いのですが、オンラインであることをとくに意識しているわけではないんです。そういった普段のスタンスをお客さまはすべて受け取ってくださっていて、バイブスが合うと思った方だけが実際に来てくださっている。だからこそ、ホテルにきたときに「龍崎さんがいないけど、いるような気がしました」といったコメントにつながったりするのだと思いますし、ただ宿泊する以上の深みが、お客さまにとっての体験価値になるのかなと感じています。
鳥羽 龍崎さんもおっしゃっているように、スタイルではなく一貫した「スタンス」を表明していくことはとても大切だと思っています。僕らのスタンスで言うと、「幸せの分母を増やすこと」と「愛」。sioはそういう店だよね、とお客さまから認知してもらう意味でも、ブレないスタンスを持つことは重要ですよね。
龍崎 鳥羽さんが最初にバズったnoteの話もまさにそうだと思うのですが、知識が多い人の方が旅行も楽しめると思うんですよね。旅先で目にするものすべてが、自分の頭の中にあったなんらかの知識と結びついて、その反応が多ければ多いほど旅って楽しくなる、という感覚と近い気がしています。事前にどれだけのことを知っているかで、その後の体験の解像度もめちゃくちゃ上がるはず。本質的なオンラインとオフラインの融合ではないと思うのですが、事前情報の提供はオンライン上でされることが多いと思うので、そういった価値の提供が、オンラインとオフラインそれぞれのおもてなしになってくるのかなという気がしています。
最所 サービス業では隠されることも多いブランドの裏側をおふたりともnoteなどに書かれていますが、そこをさらけ出すことが、ひとつのおもてなしにもなりうるというか。裏事情を知った上で訪れることの楽しさを提供することにもつながるんですね。
鳥羽 僕はnoteのことを取扱説明書とよく言うのですが、sioをどう扱ったらいいかをnoteで知ってもらったうえで、お客さまに来店してもらうのが大切だと思っていて。そうすれば、僕らとしてもホームゲームに近い試合ができるのではないかなという思いもあります。
最所 お店側のできることとできないことを伝えておくのは、期待値とのズレをなくすためにも良いですね。
龍崎 あと私は、ホテルのスタッフが裏方ではないと思っているところが大きいかもしれません。裏側を見せちゃいけない価値観というのは、お客さまの非日常感を損なわないためとか、お客様に対してサーブする側の矜恃だと思うんです。一方で私たちの接客は、友達になることもありうるような、スタッフとお客さまが対等なスタンス。そのため、裏側がタブーではないのかなと思っています。
また、日本の企業は隙を見せない企業が多いと感じるのですが、私たちは弱みを見せることに抵抗がないし、隙を見せることで自然体でいられる。舞台裏が見れることってお客さまにとってもネガティブな体験ではないし、嬉しい出来ごとであることの方が多いはず。裏側を見せるデメリットがないから見せている、という部分が大きいです。
最所 お話をお伺いしてきて、おふたりともニューノーマルを強く意識しているわけではないことに驚いた方も多いと思います。最後にあらためて、これから体験価値を作っていくうえで意識していきたいことなどはありますか?
鳥羽 すごくシンプルではありますが、答えはいつもお客さまがもっている。そこに自分たちのスタンスで、どのようにアプローチをしていくかだけだと思っています。
龍崎 私が最近考えていたのは、良いお客さまとはどんな存在か、ということです。お金をたくさん使ってくださるのが良いお客さまなのか、あるいは何回も来てくれる人が良いお客さまなのかと考えたときに、私たちが作る空間やサービスを愛でてくれるお客さまがいちばん良いお客さまなのだと思いました。それは仮に一度も来たことがなくて、1円も使ったことなかったとしても、私たちが提供するサービスをとても愛しい、好きだと思ってくださる方のために、私たちはホテルやさまざまなプロジェクトをやるのだなと。それってコロナ禍であろうがなかろうが、オンラインでもオフラインでも全然関係ないですし、自分たちがやることは変わらない。だからこそ、自分たちが誰のためにサービスをしているか、自分たちのサービスのコアがどこにあるのかを磨き続けることが、いちばん大切だと思っています。