デザイナーのみが持つ3つの能力とは
ここからはプロダクトチームの中で、PM、エンジニア、マーケター、リサーチャー、US、CXなどさまざまな職業の中で、「デザイナーの強みとなる能力」について考えてみましょう。
私は20代から30代前半まで積み上げたデザイナーのキャリアを離れ、マーケティングの世界からデザインの世界を俯瞰したとき、デザイナーにしか解決できない能力は3つあると再確認しました。
- まだカタチにない世界を思い描く力〈創造力〉
- プロダクトやコンテンツの構想を体験として具現化する力〈想像力〉
- 体験の中に、ユーザーの感情を埋め込む力
ひとつめの「まだカタチにない世界を『創造』する」は、自分たちがプロダクトを通してどんな姿を目指すのか、長期的なビジョン、つまり“未来”を描く能力。ドラえもんでたとえると、のび太くんが日常で起こる問題に対して「こんなことできたらいいな」という妄想がひとつめの「創造」です。デザイナーの能力は、空想や発想といった創造行為を身近なものとして描き続けることで身に付くものかもしれません。
ふたつめの「プロダクトやコンテンツの構想を体験として具現化する力『想像力』」は、現実的な問題・課題を、ビジュアライズすることで世の中に新たな解決策を生み出すことができる能力です。たとえるなら、ドラえもんが問題を解決すべく四次元ポケットから取り出すタケコプターを生み出す力ともいえます。日常で物事の変化や人の動作を観察しながら、理想的な体験になるよう検証しながら形づくる。デッサンの中で1本の線を捉える行為と言い換えられるかもしれません。
そして3つめ「体験の中に、ユーザーの感情を埋め込む力」は、体験を形づくると同時にユーザーがその物に触れたとき、ユーザーが受ける情緒的な知覚を実装する力です。実際手に取った相手が、気分が高揚する、楽しい、なんとも心地よい、ドキドキする、といった体験を形づくるとどのような感情が芽生えるかを意識的に考えることで、状況によって変化するヒトの心の変化を予測し捉える行為です。
ユーザーがサービスに触れ知覚する感情を捉えようとする思考は、デザイナーにとっては一見当たり前に感じるかもしれませんが、ビジネス文脈においてはとても重要な能力と言えます。なぜなら、人の消費行動の源泉は、感情の機微に従い行動するという本能的な欲求に突き動かされる側面もあり、プロダクトの類似サービスが乱立する業界においては、競合優位性をつくる重要な要素になりえるからです。これは、まさにクリエーター唯一無二の武器ではないかと思います。
このような、「創造」と「想像」、そして「感情を埋め込む」という3つの能力は、デザイナー側から見れば日常的で当たり前の行為に感じられるかもしれません。ですが、他社との優位性を作りづらい現在のマーケットにおいては、プロダクトにいくら便利な機能を積んでも、唯一の成功要因と言っても過言ではないぐらい、この3つは重要な価値です。ここ数年のビジネストレンドワードのひとつでもある「デザインシンキング」がビジネス文脈で再評価されていることからも理解できるのではないでしょうか。