デザイナーの能力を拡張するために必要なこと
では、デザイナーが持つ3つの能力を最大限活かす活動とは何かと考えてみると、冒頭に紹介したデザイン業務で起こる問題を解消するためにも向き合うべきなのは、「プロダクトの価値づくり」ではないでしょうか。
プロダクトが大事にしたい価値観を明瞭にして、それにもとづく体験設計や表現を、連続的かつ一貫させること――。つまり、プロダクトとして大事な価値観を明瞭にし、その方針をデザインに落とし込むことで戦略とアクションがつながり、意味のあるアウトプットにすることができます。この価値を明瞭化すること自体は、ブランドマネジメントのコア業務であり、プロダクトマネジメントの長期的な戦略そのものでもあります。
そう捉えると、「創造力」、「想像力」、「感情を埋め込む」という3つの能力を持つデザイナーは、その価値づくりを主体的に推進するためのキーパーソンになるのです。
逆にデザイナーが関与せずつくられた価値観では体験や表現との乖離が発生しやすいため、デザイナーが率先してプロダクトの価値づくりに着手する必要があるのです。
プロダクトの価値づくりという言葉がでましたが、大事にしたい「プロダクトの価値」とは何でしょう。それを考える前に「価値」の定義に触れておくと、Wikipediaではこのように書かれています。
価値(かち)とは、あるものを他のものよりも上位に位置づける理由となる性質、人間の肉体的、精神的欲求を満たす性質、あるいは真・善・美・愛あるいは仁など人間社会の存続にとってプラスの普遍性を持つと考えられる概念の総称。
殆どの場合、物事の持つ、目的の実現に役に立つ性質、もしくは重要な性質や程度を指す。
これを要約すると、「そのものが、ほかのものより魅力的に見える考えかた」といえそうです。たとえば、ふたつのコットンバッグのどちらかを無料でもらえる企画がある場合、上質なコットン生地で作られた無地のトートバッグと、同質のコットン生地ですが表面にLEXUSのロゴバッジがあるものとでは消費者はどちらを選ぶのでしょう。多くの人は、ブランドマークの付いたトートバッグを選ぶように思います。
製品自体が同質で差異がないにも関わらず、ロゴマークがつくだけで選択に明らかな差分がある場合、LEXUSのロゴに価値があるといえます。つまりLEXUSというマークをみたことによって、消費者は上質でラグジュアリーな体験イメージを身に付けたいと考え、それが選択に作用したと分析することができます。「そのブランドが保有する知覚体験やイメージの集合=価値」というわけです。
このように、ユーザーがプロダクトを通して理解する価値を提供側は意図的に設定し、“理想の姿”として言語化されたものがブランドの提供価値になります。それはミッション、ビジョン、バリューといったサービスの目的に位置づく体験から得られる知覚部分やユーザーの感情、またブランド独自のイメージ連想などを体系的に明文化したもので構成され、「ブランドバリュー」(または「ブランドプロポジション」)として体系的にまとめていきます。
このように大切な価値のみに絞り定義したブランドバリューはデザインだけでなく、長期的なゴール体験設計や表現、ビジュアルをつくるうえで最上流にあたる価値観として、あらゆる活動の設計図となるのです。
プロダクトの価値づくりのポイントをまとめておきましょう。
- 価値とは、そのブランドが保有する知覚体験やイメージの集合。
- ブランドバリューとは、サービス提供側がユーザーに持ってもらいたい独自のイメージやこだわり、知覚体験をまとめたもの。
- ブランドバリューをつくることで、長期的に大事にし続ける内容が明確になり、軸ができる。