ビジネスの当たり前が絶対ではない
一方、クリエイターやビジネスパーソンが、アート事業や芸術祭などのアートプロジェクトに関与するときに注意すべきこともある。それは、ビジネスの当たり前が必ずしも正解ではない、ということだ。
たとえば、スケジュール。ウォーターフォール型と呼ばれるプロジェクト運営が当たり前と思っている人は特に注意が必要である。こういったプロジェクト運営は、工程をきちんと分け、それに沿って順番に進行していく。
しかし、アートやアートプロジェクトは、工程どおりに進むことはほとんどない。完了直前にアイディアがひらめけば、これまで積み重ねてきたことを根本から見直すこともよくある。これはビジネスでいうと、アジャイル型の思考といえるだろう。常に試行錯誤を重ねながら進んでいくため、変更は発生するものであるという前提のもと、変化を許容するマインドが求められるのだ。
また、芸術祭などのアートプロジェクトは、ボランティアや有志者の参画によって成立していることが多い。ビジネスを経験している人はどうしても拡大や改善に目がいってしまうだろうし、それ自体は良いことであるが、ボランティアや有志者の負荷が上がることを前提とするならば、将来的な継続は難しくなる。
ビジネスの仕組みによって、アートを支えることができることは間違いないだろう。しかし、ビジネスでのやりかたが絶対に正しいわけでもない。そこはビジネスとアート、双方の理解が必要なのだ。クリエイターやビジネスパーソンが求められているのは、その間の立場として、ファシリテーションができる能力なのかもしれない。
マネタイズよりも大切なこと
また持続的な活動には、マネタイズ(収益源)の確保が必須となる。アート作品の購入があまりさかんではない日本では、このマネタイズがアートビジネスの大きな課題となっているため、多くのアート関係者が、テクノロジーを活用した新しいビジネスモデルを模索している。
だがそもそも、日本のアートにおける市場規模はかなり小さい。一般社団法人アート東京が発表した「日本のアート産業に関する市場調査2019」によれば、日本の美術品市場規模は、約2,580億円。ニッチなマーケットであるため単純には言えないが、1人あたりに換算すると2,150円。日本のアートマーケットは、このわずかな市場を奪い合っていることになる。
前職で身をおいていたアート業界で、私もマネタイズには頭を悩ませていた。コンサル業界に転職したあとも、どうすればもっと作品が売れるのかと日々考えている。
考えた末にたどり着いた私のひとつの結論は、たとえ少額でもアートに関心を持つ人を増やすこと、である。私が、アート×ビジネスについて発信をしているのも、興味のない人にアートとの「接点」を持って欲しいからである。その次に考えなくてはいけないのが、アートとの「関係性」。アートが個人やその人の生活、人生にとって、どのような「関係性」を形成するのか、それが大切なのだ。マネタイズはこの「関係性」により、生まれるものなのだ。
アートにおける「接点」と「関係性」を深めること。遠回りかもしれないが、これが未来の日本のアートを支えるのではないかと私は考えている。