プロダクトローンチの仕事の進め方「PMM Triple Diamond」
PMMがプロダクトローンチにおいて取り組むべき重要なことは、誰のどんな課題をどうfreeeらしく解決するかを定義し、メッセージに落とし込み、ユーザーにお届けすることです。
私はPMM Triple Diamondという上図のようなオリジナルの考え方に沿ってメッセージづくりの仕事を進めています。具体的には、ユーザー、競合、自社の3C(Customer, Competitor, Company)の観点から、デスクリサーチで2次情報を得た後、インタビューなどで1次情報を得ながら拡散と収束を繰り返し、ターゲティング、ポジショニング、メッセージングを行います。これを活用することで、企画プロセスのどの地点にいて、どのピースが欠けているかなどを把握しやすくなるというメリットがあります。
また、リリースまでのアウトプットで考えると、PMがプロダクトなら、PMMはメッセージと言うことができ、それぞれが目標に至る過程でユーザーインタビューや競合調査など、しばしば協業しながら業務を進めていきます。
誰のどんな課題に取り組むかを特定する「ターゲティング」
まずは最初のダイヤモンドに関して、マーケットの中でどのような業種、規模の会社に対してソリューションを提供するのか、PMが仮説としての「セグメンテーション(同じような性質やニーズを持つ顧客のグループに分けること)」を行いました。
業種について、プロジェクト管理freeeでは、はじめにソフトウェア開発会社のような案件型ビジネス(受託開発や準委任)に注目しました。こうした会社ではプロジェクトごとの収支管理が会社の利益に最もクリティカルに影響を与えることから、課題意識が強く、適切なツールに対してはそれなりに費用を支払うと考えられました。事業会社での利用も想定されましたが、どちらかと言えば、収支管理ニーズより資産計上ニーズのほうが強く、プロダクトのMVPが広がってしまうことからターゲットには含めませんでした。
また、規模については、市場の中で代替手段が比較的限られていて、かつ、その後会計freeeや人事労務freeeのクロスセル(ある商品・サービスを購入したユーザーに対して、関連するものを組み合わせて購入を促す手法のこと)につながる中小法人に焦点を絞りました。
続いて、上記のセグメンテーションに基づきUXリサーチャーを中心としてユーザーインタビューを行いました。メインの目的はふたつ。ひとつは、プロジェクトの収支管理における現状の業務プロセスや課題をヒアリングすること。もうひとつはインタビュー時点でのデザインモックをユーザーに見せて、どれくらいのコストを支払うかを聞くことでした。
余談ですが、後者はWTP(Willingness to pay)と呼ばれ、ユーザーがいくらまで払っていいと思っているか、また、何を基準にそう考えるかを読み解くことを指します。これにより、代替手段や想定競合を洗い出し、課金モデル(ベース料金とユーザーID単価)を含めたプライシングに役立てる狙いがあります。従来は課題特定とプライシングのインタビューは別立てで行っていましたが、ターゲティングの中で事業性の検証も実施することでより精度が高く、素早い意思決定ができるメリットがあると考えています。
こうして実施した数十件のインタビューの中では次のような気づきがありました。まずメンバーは配布されたエクセルなどに週一/月一の頻度で作業を思い出しながら工数入力をしています。また、プロジェクトマネージャーはプロジェクトごとにツールがバラバラだったり、エクセルで工数を集計したりしています。結果、メンバーも管理者も手間がかかるだけでなく、工数そのものの正確性が下がり、プロジェクトごとの収支をリアルタイムに把握できていないという課題を特定しました。さらに、内製ツールや基幹システムと連携した既存のプロジェクト管理システムを導入済みの企業ではツールのリプレイスが簡単でないということも分かりました。このようにして、最終的にターゲットを「案件型ビジネスで、かつ、エクセルでの運用に課題を感じている中小規模の企業」に絞り込むことができました。
後日談ですが、ここでのターゲットは企画時点の仮説であり、後にローンチした際、想定していなかった企業や個人事業主からも反響があり、もっと幅広い企業でニーズがあることが判明しました。
優位性ではなく、ユニークさを見つける「ポジショニング」
続くふたつ目のダイヤモンドは、競合や代替手段に対するユニークさを発見し、ターゲットユーザーに自社製品を選んでもらえるような独自のポジションを作り出すプロセスです。ここでの「優位性」とは同一の基準で比較して優れている点であり、「ユニークさ」は他の誰も持っていない独自の価値として切り分けています。例えば、同じ機能のものをより安価に提供することなどは価格の優位性にあたり、競合が値下げをすると失われる強みです。したがって、中長期的に差別化でき、競争優位を保てる点に投資をしていき、かつ、それがユーザーにとっても価値がある状態を確保することが重要だと考えています。
競合について知るすべはいくつかあります。最も手軽な方法としてはe-book、導入事例、セミナーへの参加といった公開情報のリサーチです。オンライン上でのユーザー獲得に積極的であればあるほど細かな情報が開示されています。特に、導入事例では業種、規模ごとの課題や導入のきっかけ(販売チャネル)などが含まれていて、販売戦略立案上で有用な情報が多数含まれています。
また、実際にプロダクトを触ってみることも重要です。スペック上は同じであっても使い勝手は全く別物です。特に、マーケットの中で長年サービス提供してきた老舗プロダクトはユーザーのニーズに地道に対応してきた結果、機能が盛りだくさんとなり、かえって使いにくいということは少なくありません。
以上のような方法で競合分析をしたところ、他社プロダクトには管理者向けのレポートのバリエーションの多さや原価計算といった業務のカバー範囲の広さというメリットがある一方、その前提となる、メンバーによる工数入力のしやすさやシステム同士の連携には多くの課題が残されていました。
そうして見えてきた「プロジェクト管理freee」のユニークさのひとつは、徹底して磨き込まれた工数入力のしやすさでした。カレンダーUIによりユーザーが直感的に操作することができるようにしています。今後、コミュニケーションや進捗管理ツールなど連携するプロダクトが増えていくと、ますます利便性は高まっていくでしょう。他に、会計freee、人事労務freeeといった自社製品をはじめ、周辺のプロダクトとAPIやCSVで連携できる点が挙げられます。繋がるメリットは大きくふたつあり、ひとつは従業員マスタやプロジェクト情報などを「プロジェクト管理freee」に取り込むことで初期設定を楽にできます。もうひとつは勤怠やカレンダー情報など更新されていくデータをリアルタイムにインポートすることで日々の工数入力をより正確に簡単に行うことができます。
このように、ポジショニングは自社の独自のポジションを構築する上で重要なプロセスであるとともに、実は競合を通じてユーザーの課題を知ることもできるため、ターゲティングの振り返りにも有効であると言えます。
