空間のプロだからこそのこだわり
SASAUシリーズのパーティションは、自宅のテーブルにも簡単に取り付け・取り外しができ、機能的な役割を十分に果たしながら、部屋のインテリアにもなじむデザイン性の高さが魅力だ。
「価格をおさえながらも、使っている時は仕事のツールに見えて、使っていないときはオブジェなど愛らしいもの、手触りがいいもの、仕事の道具に見えない装い、といった部分に徹底的にこだわりました」(恋水さん)
木の温かみを感じる無垢材の土台は、子供が積み木として遊ぶことも念頭に置いて、細かな仕上げや手触りにもこだわった。
「もっとも必要なのは、いかに愛着を持ってもらえるかという視点でした。親しみやすさやかわいらしさといった、ものに対して人が持つ感情を意識してデザインしています」(宮崎さん)
パーティションとして使わないときの土台のたたずまいや、好みにあわせて選べるパネルのバリエーションなどのこだわりは、「もの単体でデザインするというよりは『住宅の中でどう見えるか』といったもうひとつ広い領域でのありかた」を考えたからこそ生まれたと恋水さん。これは空間設計のプロであるNADならではと言えるだろう。そもそもパーティションというプロダクト自体が、空間をつくるという発想から生まれたものだ。
「日本の住環境は狭小なので、時間帯によってうまく仕切って二分化したり、取り外してつなげるといった流動的な空間の作りかたを意識していました」と語る宮崎さんに、上田さんは「ふすまや屏風などで空間を仕切る可変的な作りをしているのが、日本の建物や室内の特徴。そういった文化との親和性もあると考えています」と続ける。
今回、パーティションとして売り出してはいるものの、ユーザー視点でさまざまな使いかたができる可能性を込めている点もポイントだ。
「ユーザーの方たちがこのプロダクトを使ってみて、カバン掛けにしたり子どもが積み木にして遊んだり、そういった新しい使いかたを発見してもらえるような、とっかかりのある“関わりしろ”を作っているのも大きなポイントです」(宮崎さん)
同じような思いは、古語の「支ふ」から名付けた「SASAU」というシリーズ名にも込められている。名付け親である上田さんは次のように語った。
「宮崎が言ったように、パーティション以外の用途でも使える土台として設計しています。将来的には生活や物など、さまざまなものを“支えていく”ものにしたいという議論のもと生まれた名前です。
支えるという言葉には、物を支える以外に、生活そのものを“支える”という意味を込めています。ふすまや屏風などのように、日本古来の生活空間は建具や家具によって季節に合わせた空間が“支え”られる文化として成立してきました。これは建築構造が壁を主体とする西欧とは異なり、日本では柱を主体とされ壁が可変的で自由であることに起因しています。
このように古来から日本で生活する人たちが慣れ親しんできた文化も間接的に浸透していけばという思いから、支えるの古語である『支ふ』を用いました」