大切なのは「自ら一次情報を取りにいくこと」
――クリエイターが広告運用者や運用の代理店と良好な関係を築くために必要なことはありますか?
当たり前のことではあるのですが、与件の認識がずれないようにすることです。クリエイターが与件を認識できていないまま進めると、クリエイター側で良いと思ったものと広告運用者側が欲しいと思ったものにズレが生じ、修正や作り直しが発生してしまいます。
こういったことを防ぐため、私たちも試行錯誤を重ねてきました。与件を整理するための仕組みづくりをしたこともあるのですが、それで解決できるのは50%ぐらいでした。もちろん仕組みで効率化することは大切ですが、それだけでは足りないと思っています。
なぜなら、与件の「マストな部分」と「マストではない部分」の力加減のようなものは、クリエイターと運用者が話しあいながら明らかになるケースが多いと感じるからです。与件シートに書いてあるから大切だと思っていた項目が、依頼者から直接ヒアリングをするとそこまで重要な箇所ではなかったということもあります。
こうしたコミュニケーション課題への解決方法としては、「クリエイターがお客さまの一次情報を取りにいく」しかないと思っています。可能であれば、クリエイターもビジネスサイドのメンバーと一緒にお客さまとの商談に同席すると良いのではないでしょうか。お客さまの意見を直接聞くことで、クリエイティブに対する認識のズレをなくすことができます。答え合わせ的なコミュニケーションでも構いません。
「サイズは1:1で依頼していただきましたが、1:1でお間違いないですか?」と確認しているうちに、「あれ、16:9かも」と誤りに気づくこともあります。クリエイターはすぐに作り始めるのではなく、10分程度でも与件確認の時間をとることが重要だと、私は考えています。
――こうしたコミュニケーションを行うためにクリエイターとして気をつけるべきポイントについて教えてください。
もっとも避けなければいけないのは、待ちの姿勢でいることです。私も以前は情報が来るまで待ってしまったり、届いた情報に対して「やります」とすぐに手を動かし始め、お客さまから求められていないアウトプットになってしまうこともありました。
会社や業界の業務フロー上、仕方ない部分もあるかとは思いますが、「自分は一次情報を取りに行くんだ」という気構えがあるとなしでは、お客さまへの質問の仕方も変わってくるはずです。動画に限った話ではなく、クリエイターの仕事全般に共通する重要な考えかたかもしれませんが、このマインドを持てると仕事が進めやすくなると思います。
――お話を聞いていると、求められるクリエイターの役割が従来よりも一歩踏み込んだものになっていると感じました。クリエイターと、マーケターや広告運用者が担う役割の線引きはどのように捉えればよいでしょうか。
これまでのクリエイターやデザイナー、モーショングラファーは、「依頼を受けて作る」ことが仕事だとされてきました。しかし、いま必要とされるスキルは、与件に対して技術を発揮するというだけにとどまらなくなってきています。職種の呼びかたは以前と同じでも求められるマインドが違うので、従来のクリエイター像とは別のものになってきていると感じます。
ですがマーケターかと言われると、もちろんそんなことはありません。やはりクリエイターにはなによりも「作る」ことが求められており、その力をいかに効果的に扱うことができるかが大切になってきているのだと思います。
たとえば、お客さまと言葉でクリエイティブのイメージをすり合わせている時に、クリエイターであれば「こんな形でしょうか?」と実際の物をポンと出すことができるケースもあるでしょう。だからこそ、お客さまから与件が出し尽くされるタイミングを待ってから作るスタンスではもったいないと感じます。
とくに動画は、発注する側もまだイメージがついていない部分も大きいので、初回の打ち合わせの段階で「作ってみました!」と提案してするくらいの前のめりな姿勢も大切なのではないでしょうか。
――最後に、動画クリエイティブに挑戦するクリエイターの皆さんへエールをお願いします。
悩まれているポイントは人それぞれだと思いますが、もしもらった与件に対してモヤモヤを抱えながら業務をやられている方がいるならば、自身が受ける情報の質を一度考えてみると良いかと思います。
さきほど触れたマインドセットについても、もらう情報の鮮度や質をあげようと意識すれば、やりとりをしている依頼者の方とのコミュニケーションも変わってきます。そうすると、自分が持っている技術をいかんなく発揮できるポジションも得ることがができ、よりお仕事が楽しくなるのではないかと個人的には感じています。
――奥さん、ありがとうございました。