プロダクトが事業戦略に追い付かなくなる
「組織は、その組織が掲げるミッションに染まる」と外山氏。Visionalでは、事業立ち上げ当初は多くの事業が短期戦略重視だったため、プロダクトもその影響を受け短期的な視点での開発になっていたという。その結果、技術的負債もたまっている状態だった。
プロダクト成長の軸を考慮し、逆コンウェイの法則を利用したプロダクト組織の体制は、先述のように整っていた。にもかかわらず、なぜこのような状況を招いたのか。
これについて外山氏は「ビジネスモデルの特性が大きかった」と考察。採用プラットフォームビジネスは、景気連動性が高くマーケットに対する外的要因が多くある。また「HRMOS(ハーモス)」事業のような人財活用プラットフォームでは市場自体が未開拓だったため、中長期戦略自体を高頻度でアップデートする必要があったという。
顕在化している課題に対してはマーケットインを繰り返し、潜在的なニーズに対してはプロダクトアウトを繰り返して、プロダクトの価値を高める必要があった。これらを高速に回している最中には足元だけ見てしまっていたという。企業戦略の視点で見ても、事業が急成長し変化が激しい経営戦略に対し、プロダクトが追従しきれず技術的負債も後回しになるという形になっていた。
外山氏は「プロダクト側から事業に対して強くアプローチしないと、このバランスを保つのは難しい。PLやキャッシュフローに対しては計画的でも、プロダクトに対しては近視眼的になりがちなのは、IT企業の特徴の一つ」と事業スケールとプロダクトの中長期視点の両立の難しさを改めて確認した。
事業をサポートする横断組織の誕生とボトムアップ
では、同グループではここをどう乗り越えたのか。外山氏は「『攻略した』というにはまだ敵は残っている」と言いつつも、実際に組織体制をどう変革したのか紹介した。
それが事業をサポートする横断組織の誕生だ。同グループはこれまでさまざまな横断組織を誕生させてきたという。

「イノベーションは不確実性が高く事業として行うのは難しいが、非連続的な成長のカギとなる。そこで、イノベーション課題を解決するため『AIグループ』を組成した。また、プロダクトを作るうえで不足しがちなデザイナー人材については、顧客体験まで設計できるデザイナーを採用・育成すべく『デザイン組織』を立ち上げた」(外山氏)
こうして、事業部ごとの組織が連続的な成長を目指すのに加え、中長期的な視点で成長を見据える複数の横断組織が立ち上がったことで、バランスの取れたプロダクト開発へと改善していったという。
2018年からは開発プロセスとしてスクラムの導入も進めてきた。最初は教科書通りのフローを守りつつ、現在ではチームによってカスタマイズしているフェーズだ。
外山氏は、「スクラムとしてボトムアップの判断力を有した自立的な組織を目指しているが、完全なボトムアップでは経営が成り立たないと考えている」と説明。同グループの理想とするボトムアップの組織は、下図のように「リスク」についての情報をアップ(上長に伝達)させることだと語った。
自分たちで判断するからこそ、周りで何が起きているのか知る必要があり、マネージャーには横の連携も求められる。難易度は高いが、メンバーおよびマネージャーが市場や戦略を把握しリスクを検知しながら意思決定していくことで、プロダクトと事業の価値を高めていく仕組みになっている。

また、会社である以上、ボトムアップとトップダウンの接合点が存在する。この接合点をどこに置くかの裁量は、「組織の成熟度に依存する」と外山氏。未成熟な組織ほど、ある程度トップダウンで戦略を決める必要があるため、ボトムアップで行うのは進捗管理などがメインとなるだろう。一方でチームメンバーが優先順位を判断できるほど水準の組織であれば、PBLの優先順位変更やロードマップも自分たちで定めるといったこともあり得る。
外山氏はVisionalの現在のフェーズについて、「各事業に対して、横断的な組織によるアプローチ、開発プロセスの型化、組織の裁量のコントロールを進めることで、各事業におけるプロダクト課題を攻略してきた。そのため現在ではプロダクトに必要なすべての視点がそろっている状態。そして事業も成長し続けている」と説明。一方で、顕在化した課題もある。
現在の組織課題については「事業部間のシナジーが薄くなってしまうこと」と分析。近しい事業領域でのプロダクト間のシナジーの強化は、企業の成長を躍進させるカギだ。「この点が課題であり、ポテンシャル」と外山氏。また、事業部ごとの独立性を高めるために、機能の重複を許し、同じ課題に同じだけの工数をかけていたうえ、人材開発も各事業で行っていたが、「これからは全社戦略が重要になってくる」と見通しを立てた。
最後に、今後のプロダクト組織について、外山氏は再び「コンウェイの法則」を持ち出し、「全社戦略に基づいたシステム設計から、組織体制を考える予定」とした。「詳しいプロダクト組織の全貌は来期計画のため、公表はできないが、非常に大規模でチャレンジングな取り組みなる」と今後も改革を続けていく姿勢を明らかにした。
